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「今日から、通学ね。しのぶちゃんと、同じ学校だから、わからないことがあったら、しのぶちゃんに、なんでも聞いてね」

 そんなことを言われながら、一志は母親に、テレながら、制服を着せてもらったりしていた。

 本日、一志、初めての登校である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・転校初日という意味でなく、まんまの意味で。

「学校かぁ~・・・みんな行ってるとこなんですよね・・」

 気持ちはやっぱり、期待より憂鬱で、わかっていても、そう口にせずにはいられなかった。

「そうね。それじゃあ、しのぶちゃん。私は、職員室までだから、あとはお願いね!」

「・・・・・うん」

 それともう一つ、一志の心を惑わせているものが、そこにあった。

「ほら、しのぶちゃんに、おねがいって!」

「・・・・・」

 はにかむみたいに、うつむきぎみに、そこにいてくれる、しのぶの制服姿であった。

 まだ、あどけなさの残るしのぶの凜とした格好は、抱きしめてあげたくなるものがある。

「お願いします・・」

「・・・うん」

 言ってはみたが、この、お菓子細工のような女の子を頼る気持ちは、一志には微塵もなかった。




「柚月一志です。これから、よろしくお願いします・・」

 とりあえず、自分で書いた名前の前で、挨拶してみた。

「・・・・・」

 転入生なんて、珍しいのだろうとは思うが、なんだか、まとわりつくような視線が、一志には、かなり気になった。

「え~~~、皆さん、知っての通り、一志君は、しのぶさんの、お兄さんになります。母一人子一人と思っていた家庭に、実はお兄さんがいてくれたことを喜び、受け入れて、皆さん、仲良くしてあげてください」

 老教師の紹介は、一志の心に、ちょっと胸を打つものがあった。

 そのとおりだなと、決意を固めさせる。

 ここまできて、ウジウジしててもしかたない、いい兄貴、いい仲間、そうなるように勤めねばなるまい。

「それでは、一志君の席は、ちょうど空きましたので、その席に、お願いします」

・・・・・そう、開いているのだ。

 前でも後ろでも、端でも中央でもない、そんな席が。

 ひょっとして、自分とは入れ違いに、このクラスの人気者みたいな誰かが、転校していったりしたのだろうか?

 そんな、いらん心配をしてしまった。


 一時限目・・二期限目・・・と問題なく過ぎていく。

 島でやってた、学習プログラムは、無駄ではなかったようで、なんとか授業には、ついていけそうだ。

 それと、休憩時間に、何度か話しかけられることがあったが・・「これから、よろしく」みたいな、挨拶ぐらいで、もっと、こう、アニメとかである、質問攻めにあうみたいな、シチュエーションになったら、どうしようか?と思っていたが、どうやら、いいクラスのようだ。

 ただし・・・

「しのぶちゃんの、お兄様ですか?」

「じつは、我々、こういうものです」

「・・・・・」

 そろってメガネをかけて、カメラを差し出してきた、体格が対照的な二人組には、気を許してはいけないものを感じた。



 といっても、なにも問題がなかったわけでもないが・・



 問題、その一。

「これぐらいの実験。部屋越しにやるんですか?」

 理科の可燃性物質を使った、授業中である。

「当然です。実験である以上、あらゆる危険性を考慮しなければ。」

 挨拶代わりに、一志は、強化ガラス越しに、ロボットのアームの操作をまどろっこしそうに、やらされていた。

「ちなみに聞きますが、今までは、こんなときは、どうしてましたか?」

「とりあえず、やってみて、痛かったり、燃やしちゃったりしたら、次から、気をつけたらいいかなと・・

「問題外です!」

 よくもまあ、今まで、五体満足でいられたものである。


「知識は、大事です!生きるためにも、成長するためにも、また、楽しむためにも。わかることが少ないと、些細なことでイライラしたり、それで、自分も他人も不幸になるなんてことがあるかもしれません。どうです、一志君?今まで勉強を教えてくれた人に、勉強は大事だと言ってくれましたか?」

 今度は、社会の授業で、

「・・いえまったく」

「・・・・・知識より、健全な肉体と精神を大事にする人でしたか?それとも、知識より、それにもとづいた正しい判断こそ大事だと言う人でしたか?」

「いえ、もうすぐ、脳に直接プラグを差しこめる時代が来るから、勉強なんて、無駄になるだろうと・・」

「・・・・・・・・・・もう少し、人間でいましょう・・」

・・・あながち、妄想とも言い切れないところが、恐ろしい。


 あと、その二は、ちょっと後の、お昼休みである。

「お前、あの、柚月しのぶの兄貴なんだってな?」

「・・・・・」

 体育館裏で、絶賛、一個上のお兄様方に、取り込まれ中である。

「俺は、この学校をシメてて、親父は議員だ!この学校で、通いたかったら、妹の、着替えか、フロ入ってるところをとってこい!」

「ハハハァ・・」

 自分より、頭一つ高い上級生に、小さなカメラを差し出されて、一志は、力なく愛想笑いをした。

「ハリャーーーッ!」

「ハンッ!」

 最小限のモーションで、猫だましからの股間への膝蹴りである。

 しまらない顔をそのまま青くさせると、惰性で立ってるだけしかできなくなったものを一志は、容赦なく捕まえた。

「ああっ!!よくも!ボスを!!!」

 取り巻きの一人が、ハンドガンタイプのスタンガンを打ってきた。

 一志は、遠慮なく、その手に持っていた物を盾にした。

「ギャギャギャギャギャ!」

「あぁあ!!!よくもボスを!」

「知るかよ・・」

 この時点で、逃げ腰になっている先輩方に、一志は、容赦なく躍りかかった。

・・・・・ 誰かは、言った。

 人を傷つける道具より、それを平然と使える人の心が、恐ろしいと。

・・・・・今まさに、そんな状況である。

 まったく、迷いも躊躇いもなく、蹴りや拳を繰り出し、髪を掴んで引きずり倒し、涙目の瞳に、さらに砂をすりこんで。

 テロリストにさらわれた少年兵でも、もう少し危険物とは隣り合わせには、いないだろうみたいな環境で育ってきた一志である。

 この場にあれば、光学兵器のすら使用しただろう。

「ゲコッ!」

「殺す気か!!」

 まあ、今は、そこに指してあった、花壇の表札を脳天に叩きつけるぐらいだが・・

 ようするに、相手にケガをさせたら大事だという、一般常識がないのである。

 そんなヤツを体育館裏なんかに、連れてきた時点で、失敗である。


ガッシャーーーン!!!


「ひいやぁ~~~!」

「そんなものまで~」

 はるか上空の窓を割って、ガラスのシャワーを繰り出せば、さすがに、気づかれるだろうけど。

「何事だ!!」

 騒音と悲鳴を聞きつけて、教師陣がやって来てしまった。

 どちらが、被害者か加害者かわからないまま、まとめて生徒指導室に直行となった。



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