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「おお!・・うわぁ・・・」

 ちょっと賑やかな、街並みを一志は、おのぼりさんまんまに、感嘆の声を上げながら、辺りをキョロキョロしていた。

「カズくん!ここが、あなたの住む町よ」

 そこで、先ほどまであった周りからの失笑が、さらに大きくなって、一志は、今さら恥ずかしいことをしていることに気づいた。

「かずくんは、やめてください!」

 顔を真っ赤にして、一志は、非難した。

「なんで?そう呼ばれたって、おかしくないのに?」

「いえ、おかしくて、笑われたでしょう!今!」

 そこは、さっきまでの一志の行動が、大なのだが、半分泣きそうな顔をされては、沙江子は、ちょっと考えることにした。


 本日は、引っ越し終わって、いろいろ手続き終わって、一志、初めてのお出かけである。

 今時、街に出てくるのが、本当に初めてという、奇特な少年である。

 生あったかい目で、見守ることにしよう。


「・・それじゃあ、まずは、一志くんのお買い物だけど・・さぁ!しのぶちゃんも、お兄ちゃんを案内してあげてね」

「うん・・」

 当然、しのぶも、ついてきている。

 買い物の目的は、来週には通う、しのぶと同じ学園への編入の準備ではあるが、それ以上は、詮索するのは野暮か。

「考えなくてもいいのよ!お兄ちゃんを連れていきたいところをそのままいっちゃえばいいんだから!」

 まして、先走って、いらん気を回してくるなど、論外である。

「えとね?!そのね!?」

 やっぱり、しのぶはこまったみたいになって・・

「あそこがいい!!」

 と、適当に、デパートのゲームコーナーを指定した。

・・どう見ても、男の子の趣味である。

 まあ、一志が、喜んでくれるなら、それでいいかとも思うが・・・

「えっ?!軽っ!あっ!オモチャだからいいのか。でも、撃っても、全然、反動がないし、エモノが吹っ飛ぶ感触がないのは、違和感があるな」

「・・ホホホホホ、この子、海外での暮らしが、長かっただけですのよ。許可があれば、本物の銃を撃っていい国は、ありますよね。みなさんお気になさらずに」

 やっぱり、よくない!

 とあるシューティングゲームをやって、一志が漏らした感想に、沙江子がフォローを入れてくれたが、当然、納得してくれるはずもなく、そばにいたカップルが、青い顔して逃げ出した。

 とんだ、営業妨害だ。

 一志はまず、一般教養以前に、倫理観を身に着ける必要がありそうだ。

「今どきの子は、スマホぐらいは、持ってないとねぇ~」

 もっともぽく、後付けっぽく言ってる。

 次に連れてこられたのは、携帯ショップである。

 長年、離れ離れになってた我が子に、いつでも、連絡できるものを持たせたいという、気持ちもあるかもしれないが。

「いらっしゃいませー、只今、新規加入、完全無料キャンペーン実施中ですよ~。耐水耐震、コンパクト、シンプル。どれでもそろっております!」

 さっそく口が動きすぎて、印象で逆に損しそうなタイプの店員さんが、話しかけてきた。

「・・・」

 なんとなく、店員から目を背けるみたいに、そこいらの、見本品を手に取ってみた。

「おおっ!!お目が高い!そちらは、お客さまの、ご年代にはピッタリで、耐久性はもちろん、使い勝手も勿論、緊急連絡防犯機能付き、あと、すでに99のゲームがダウンロードされています。いや~~~、夢中になりすぎて、勉強が手につかなくなるかもしれませんね~」

 だから、余計な事だというのに・・

 せっかくの、お店自体の、清閑な雰囲気が、台無しである。

 この店員は、近いうちに、よそへ飛ばされるだろうなと確信してしまう。

「これが、スマホか~・・俺も、聞いて、欲しくなって、ジイさんにねだったことがあるけど。基地局ってのを経由しなきゃいけないから、繋がるまで、数秒かかるんだよな・・ゲームだって、いちいちアイテムの課金とか、それの振り込み方とか、確認しなきゃならないし。これなら、一発なのに・・」

「ええ・・そう言うお客様もいらっしゃいますが、誰もが、好き勝手に電波を飛ばせば、それこそ、大混乱ですし。ゲームを提供する側も、少しは利益に還元できものがなければ、なりたたないでしょうし・・ええっ!!」

 一志が両手を返すと、リストバンドから、鮮明な映像ヴィジョンが現れて、今まさに紹介したアプリのゲーム表示されて、あっという間に、アイテムをMAX状態にしてしまった。

「支店長!今、異常電波の発生を確認しました!」

 店の奥から、この支店長とやらより、よっぽど接客してほしいタイプの女性店員が現れた。

「どんな異常だっ!」

「この店のゲーム関連のデータに、すべて介入されました-!!支店長の私物の、休憩時間に、こっそりやってる、ちょっとエッチなやつも全部です!!」

「いらんこと言うなっ!!!」

・・・・・ひょっとして、これが、接客させられない理由かな?

「まさか、ゲームのプログラムもパスワードも、丸ごと奪われたなんて、言わないよな!」

「まさか・・ほんの一秒未満でしたし・・・と思いたいのですが、それ以外に、被害が確認できないんですよ・・あっ!それでわかったんですけど、支店長、コインに替えて、へそくってたんですね。そっちも無事なんで、安心してください」

「いらん報告だというに・・」

 なんだかんだで、この支店長は、結構、愛されているのではないかな?

 もう少し、ほのぼの見ていたい気持ちはあったが、それどころではない。

「しつれいしましたーーーー!」

「あーーーーっ!!!犯人が!!!」

 ぴゅーーーっと、沙江子が一志の背中を押して、店から飛び出してしまった。

「コラーーーーーーッ!!!」

 もう、この通りには、近づくことができなさそうだ。

 その後、なんらかの追跡は、あるかと思われたが、そんなことはなかった。

 考えてみれば、こんなキツネにつままれたみたいな事態、説明することにも、それを信じてもらえるかも、自信が持てなさそうだ・・


 それから、一志たち三人は、隠れるみたいに、空いてて向かい席のあるチェーン店で、くつろぐことにした。

「あ・・ども・・」

 そこで一志は、慣れてないみたいに、料理を運んできた店員に、お礼を言ってしまった。

「ハイッ!ごゆっくりどうぞ~」

 店員は、気にした様子もなく、にこやかに去って行った。

 悲しいことに、実際、慣れてないのだからしかたない。

 もちろん、沙江子の手料理は、堪能した後ではあるが、人から出してもらえる料理は、なにか違うと感じていた。

 それは、一志の中に芽生えた、感謝の心であった。

 一つの卓を囲みながら、味わえる食事に幸福を感じながら、男の子として、母妹に迷惑かけることは、するべきでは無いと、決めさせるのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、かなり手遅れかもしれないが、

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