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「おおっ!すげえな。あの巨体で、あのパワー。障害物なんて、ものともしてねえぞ」
「しかも、外部からエネルギーを供給されてる形跡がないってことは。内蔵されてる動力だけ稼働しているってことだ。一体何で動いてるんだろう?」
「さあな・・ゼンマイじゃないことだけは、確かだ」
「そんな、のんきなこといってる場合じゃないよ。この方向、浅瀬の向こうには、街だってあるんだから」
四人は今、それぞれ、形態の異なるメカに乗って、巨大ロボットを追いかけている。
一志はエアクッションのバイク型、しのぶはキックボード型で、ギチョンギチョンとやかましいのが、功一と清隆のダチョウ型とカンガルー型である。
手にしたもの順というか、早い者勝ちというか、なかなか愉快な組み合わせである。
さて・・・事態はしのぶのいうとおり、楽観できるものではない。
ロボットの通り道である、なぎ倒された木々や、砕かれた岩が、ロボットの破壊力を物語る。
こんなものが、住宅街までたどり着けば、怪獣映画さながらの惨劇が展開されそうだ。
「まかせなさい!しのぶちゃん。こんなこともあろうかと、倉庫の中のロボット達をちょいと改造しておいたのさ。名づけて、『特攻メカ神風くんオメガ』!」
・・・名前を聞いただけで、兵器としか連想しようがない。
「いくぞ!巨大ロボットせん滅作戦その二、みんな俺について来い!」
しのぶの前でいいとこ見せたいであろう功一が、ダチョウの上で人型を担いで勇み立つ。
功一の体型だと、どこかの原住民なんかを連想させて、一志としては、あんまり記憶に止めておきたくない。
とはいえ、作戦には賛同しなければなるまいか。
(どうでもいいが、作戦その二ということは、その前の、なんの成果も上げられなかった、産廃をこさえただけの突撃が、作戦の勘定に入っているのだろうか?)
功一を先頭にして、不承不承、先回りすべく、大きく回り込む。
「よーーーし、ここで、あの怪物を迎え撃つ!」
見つけたのは、なんとか足場を確保できた、岩地だった。
ロボットは、倉庫から、いかなるものも障害とせず、一直線に突き進んでいる。
予測は簡単であるから、あとは、作戦実行のタイミングだけだ。
「カウンターで、怪物の土手っ腹に、風穴開けてやるぞ!」
「そこまでせんでも・・・破壊できないまでも、ひっくり返すだけでいいんだ」
勢い込んでる功一に、一志が突っ込んだ。
下手に壊して、大爆発でもされる方が厄介である。
あの巨体と体型では、一度倒れたら、起き上がる術はないだろうし。
ならば、バランスを奪うべく、頭部か足元を狙うべきであろうか?
いや、そうなると、的が小さくなる。
次弾がないだけに、外すことは避けたいので、やはり胴体が理想だろう。
「よーーーし、構え!」
「イエッサー!」
功一の指示で、清隆は自爆兵器をバズーカのように肩に担ぎ、丸い体をさらに丸めて、構える。
そして、靴の裏を通して伝わる振動が、押し寄せる危機を告げる。
「来るぞ!」
大木を断ち割り、地を震わせ、過去からの脅威が顔を出した。
「きたーーーーっ!よしっ、撃てーーーーーっ!」
「・・・・・・・・・・」
ところが、功一の合図は、虚しく響くだけだった。
清隆は発射しない。
スコープで的を覗いたままのポーズで、固まっている。
「どうした?なぜ撃たない?」
そうこうしている間にも、危機は目前に迫っている。
「・・・あの、胸の真ん中のマーク」
「なに、マーク?」
みんなで、ロボットを見上げる。
拘束帯にぐるぐる巻きにされていたので、全身像を見上げるのは、これで最初になる。
・・・・・・なるほど、そこには確かに、無視できないものがあった。
真ん中に円があり、そこから、三方向にエネルギーを広げるようなイメージをさせる・・・よく言う、原子力のマークである。(正しくは、放射能標識)
「ただのデザインだと思う?それとも・・・」
一志の頭の中で、かつての創時郎の驚異が蘇るのだった。
「退避ーっ!」
功一の支持など、必要なかった。
我先に、四散したのだった。