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 波の音と、潮風と、青空とで、島の生活は、おおむね変わらない。

 この二人だけで、十分、騒がしい。

 それでも、天気と同じで、変化もある。

 いつもどうり、爆発があったり、ロボットの暴走があったりしていた中、珍しく、来客があったのだ。

「・・・」

 ただし、その客というのは、砂浜に、突っ伏してる状態だったが。

「なんじゃ、つまらん。これが、おさげの女の子だったりしたら、名作になるというのに」

「そりゃいいな。たしか、ジジィが死んで、俺が、その子を追って、島を出る話だろ」

「あんたら、死にかけてる人間に、それか・・・」

 砂に埋もれてた顔を上げた青年が、それだけは、気力を振り絞って言い遂げた。


「はっ!」

 青年が、そう飛び起きたのは、簡素なベットの上であった。

 周りを見渡して、事態を把握する。

 最後の記憶は、全身に張り付いた砂浜の感触と、それに同情するわけでもなく、助けようともしない、年寄と子供の二人連れ・・

 それと、なんとか言い返した自分の抗議の声だった。

『オキヅキナラレマシタカ。ショクジハイカガナサレマショウ』

 介護ロボットが、うやうやしく控えてくれている。

 きっと、自分を着替えさせて、体を洗って、手当てしてくれたのは、このロボットだろう・・・

 血の通った人間より、無機質で、決して洗練されたデザインではない、このロボットの対応に、ウルっときてしまったのは、おかしいだろうか・・?

「寝ている場合じゃない!!」

 ガバッとベットから飛び降りて、立ち眩みなど気力でねじ伏せて、両足でしっかり踏ん張る。

 一刻一秒を争うのだと、自らに言い聞かせ、介護室を飛び出した。

「誰かっ!!誰か!この事を早く、外に!」

「なんじゃ、騒々しい」

 手当たり次第に扉を開けて、そこで研究室らしき部屋で、先ほどの年寄らしき人物を見つけた。

「まずは!助けていただいたようで、ありがとうございます!ですが、事は、急を要するのです!このことを本社に・・いえ、国の機関に伝えねば!」

「・・・なんだか、さっぱりわからんが、そんな大事なことなのか?」

「大事なのです!このままでは、世界が大混乱なのです!」

 老人は、本当に、わけがわからないという顔をしている。

「申し遅れました!私は、名前を明かさない方がいいかもしれません。今は、しがない町で、しがない食品会社に勤めてるものだと言わせていただきます!」

「・・・んで、その、名無しのゴンべが、なんで、世界を大混乱に陥れるなんてことになるんじゃ?」

「ハイ!私の担当は、発酵を促すための、あらゆる酵素の収集と、その研究でした。あるいは森の奥の奥。あるいは深い深い海の底と・・そして、偶然、たどり着いてしまったのです。あらゆるものから、アルコールを発生させてしまう、恐ろしい酵母を!」

「ふ~~~ん・・」

「ふ~~~んって、わかりませんか!?これがあれば、地球上のあらゆる食材が、お酒になってしまうのです!世界が酒浸しなのです!」

「・・さすがに、そこまでは、ならんじゃろ。酵母である以上、発酵させるには、適した環境が必要じゃろうし・・酒といえば、好みが分かれる飲みモンじゃし・・」

「うっ・・・そこらへんは、悪用する者の気分次第ということで・・とにかく!その危険性を察した私は、今すぐこの装置を廃棄すべきだと提案したのです!すると、現地で雇ったナビゲーターが、突如、銃を突き付けてきたのです!奴らの正体は!海賊だったのです!」

「雇用する人間の素性ぐらい、調べとかんか」

「きっと、この酵母に、巨万の富か・・もしくは、世界的規模のテロを起こさせる可能性を見出したに違いありません!」

「ただの、酒好きじゃないのかのう。海の向こうじゃ、副業が自称義賊なんて漁師の話もあるし」

「そこで私は、その酵母と資料を抱えて、救命ボートで、荒れる海に飛び出したのです!」

「だったら、GPSぐらい、切っとかんか。銃まで持ち出した以上、引っ込みがつかなくなって、ここまでやって来るに決まっとるじゃろ」

「うっ・・言われてみれば・・なんか、慌てるあまり・・あれ?なんでそんなことがわかったんです?というか、まるで、海賊がもう目の前まで迫ってきてるみたいに・・」

「違う!すでに撃退して、拘束済みじゃ」

「えっ?!」


「あ~~~~・・、少しは、スッとした」

「これは・・・・・」

 青年が見たものは、確かに現地で雇った作業員兼海賊が、地面に這いつくばってる姿だった。

「ここは日本海域のはずだ・・なんで重火器や、光学兵器が常備されてるんだ・・」

 頭目らしき屈強そうな男が、息も絶え絶えに、そう言った。

「こんなもん、ちょっと出力強めにした、パーティグッズや蚊取り光線で撃退しただけだから、なんの問題もない」

「いや、でも、人に向けて撃っちゃいかんでしょう」

 言える立場ではないのだが、そう言わずにはおれなかった。

 そこにいるおもちゃのバズーカを担いでる少年の姿に、パッリーンと、今まで培ってきたものが、粉々に砕け散る思いであった。

「なんなんですか!?この島は!ハッ!まさかっ!!!はるか昔に沈んだという、超文明、ムー大陸が、一つだけ残っていたとか・・」

「おぬし、想像力が、たくましすぎじゃ」

 そこでくたばってる海賊どもも、こぞってうなずかれてる気がするが・・でも、この状況をどう納得すればいいのか・・・

 なんだか、異世界召喚もののモブキャラにでもなった気分だった。

「おっ!来た来た」

「うおっ!!なんだなんだ?!」

 上空に、突如ヘリが現れた。

 直前まで気づかなかったのは、そのヘリが、ステルスとサイレンサー装備の、この国では、めったに活躍しない、特殊軍専用ヘリだったからだ。

「ほんとになんだ!!!?わかった!!ここは、国が、極秘に接触している、宇宙人の秘密基地なんだ!」

「違うっつーに、この国の上の方というのは認めるが、そいつらが、いらん節介してくるんじゃ」

 訓練された精鋭と言わんばかりの機敏な動作で、次々と隊員が下りてくる。

 瞬く間のうちに、海賊達を拘束して、ヘリの内に積み込んでいく。

「ちがうんだぁ~、こいつが、あんまりもったいないこと言うからハグッ!!」

「そうなんだ、破棄するぐらいなら、くれって言っただけなのに・・ぎゃっ!」

 まるで、畑の野菜をつめ込むみたいに、作業的に男共は拘束されて、目口をふさがれ、抵抗するそぶりを見せれば、容赦なく、スタンガンの餌食になって、ヘリに乗せられていく。

「ほんとにここはなんなんですか!?あなた方は、」

 やって来た、隊長格らしき人物に、ダメもとで、訪ねてみた。

「・・・・・」

 やはり、答えてはくれず、恭しく老人に敬礼すると、そのまま、視覚聴覚阻害のゴーグルをつけさせられると、両肩を掴まれ、他の海賊と変わらず、ヘリへと詰め込まれた。

 ただ、その重厚な瞳は、それだけで、すべてを語ってるかのようだった・・

『世の中には、知ってはならぬことがある』と・・・・・


 後日・・・・・・・・・・

 ネットで、海の向こうの最果ての島には、地球人の老人と子供に擬態した、宇宙人が住んでいるとか、異世界から逆召喚された、超人類が、密かに地球攻略を企んでいるとか・・まことしやに噂が流れるのだが、それも、一時いっときの都市伝説として、あっという間に、忘れられた。


 まるで、何者かに、握りつぶされたみたいに・・・・・


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