ちょっと、昔の話を・・
「はなせ~~~~!」
小脇に抱えられらて、黒塗りの車に詰め込まれ、そのまま垂直に飛び上がって、あっという間に、幼児は、空の上であった。
「おろせ~~~~~~~~!」
聞き入られることはなく、山越え、海越え、不安に泣きそうになりながら、窓から確認できたのは、空と海を背景にポツンとある、島だった。
「うわ~~~~~~~~~~~~~~~!」
墜落するのか!?と思うぐらいに急降下をすると、逆噴射で、なんとか急停止した。
「ギャン!!」
慣性で、しこたま全身を打ち付けたのだ。
一応、天井までクッションがあったが、そうでなければ、どうなってきたことか・・
「着いた!着いた!」
そんなことなど、老人はまったく意に介さず、押し込んだときと同じように、襟首つかんで、引っ張り出して・・子猫みたいと言えば可愛げもあるが、ぬいぐるみでも、もう少し、ましな運びようがあるだろう。
「おお!間に合った!!」
連れてこられたのは、一応リビングルームのようだが、あたりやたらとゴミが散乱していて、人間より、黒くて平べったい虫なんかがリビングしていそうだ。
「やっぱ、同好と気持ちを共有するには、リアルタイムで視聴せんとな」
ソファにぼすんと座らされ、正面のハイビジョンにベロを出してやると、それがスイッチのようで、画面がついた。
『ジャジャーーーン!超星戦隊!コズミックアトラー!』
「じゃあ!いっしょに見ようか!これから二人で暮らすんだ。仲よくしようか。今日からお前は、国岸しのぶだ!」
人を誘拐同然にさらってきた理由が、これかと、この件は、長く長く少年の心にトラウマとして、刻み込まれることとなった。
「おれは、かずしだぁ~・・」
「え!?」
これは一志が、しのぶと引き裂かれて、再び出会い、失った物を取り戻すまでの物語である。
・・・・・一志自身が聞いたら、「取り戻しすぎだ!」と、怒られそうだが。
「ぎゃわーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
悲鳴を上げながら、少年が、爆走する。
さもあろう。
ちょいとした恐竜ほどもある、奇っ怪な機械に、追いかけられていては。
「わーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
木々や壁を盾にして、小回りに逃げ回るのだが、メカは、十本ほどもある手足を自在に操って、少年を追い詰める。
そこで、少年が潜り込んだのは机の下で、そこに常備してあったヘルメットとランチャーを装着する。
「食らえ!!」
ドウゥ~~~~~ン!
真ん中の頭部に弾を受けた怪物は、きれいにひっくり返って、足をピクピクさせた。
「ジジーーーーーイ!!!まーーーた!おれのお世話ロボット!いじくりやがったなーーーっ!!!!!」
時は、あっという間に過ぎて、9年後。
島では、こんなことが、毎日のようにおこるなか、一志は、すっかりたくましく成長していた。
「あれ?ひょっとして、昨日寝ぼけて、A国の軍事コンピュータにハックしたついでに、やってしまったかな?」
「・・なにやっとんじゃわりゃーー!寝ぼけてたですむかーーーー!!!」
ごもっとも。
もう、なにをものさしにして問題と判断すればいいかも、わからない。
「いい加減にしろ!湯沸かし器が暴走して、メルトダウンおこすわ!お掃除ロボットに重曹って命令したら、重水素もってきて、爆弾作り出すわ!ミキサーと電子レンジで量子加速して、反物質生成するわ!世界を滅ぼす気か!!!」
「そんな大げさな・・それぐらい、科学者なら、誰でもやってることだぞ」
「んなわけ!ねーーーだろ!!!」
どこかで、聞いたことがあるようなないような会話だが、気にせず話を進めよう。
これが、この島での日常である。
『オボッチャマ。チョウショクノヨウイゲデキマシタ』
「なに!何事もなかったかのようにしてるんだ。お前!!」
先ほどまで暴れていた怪物ゴルゴンが、うやうやしく、トレイに食事をのせてきている。
「ぶっ叩いて、なおるなんて、どこの時代の電子機器だ・・」
『ハッ。オホメニアズカリ、キョウエツシゴク』
「褒めとりゃせんわ!!!」
丁寧な口調が、じつに腹立たしい。
「そんなとより。今度のは、すごいぞ!前回、作った『思考電波変換ヘルメット』の改造版だ!」
「ああ・・前、被っただけで、感電したやつか・・・」
「そう、頭の中で考えただけで、あらゆる家電のリモコンを操作できる優れものをパワーアップした今回は、さらに電磁力まで操作して、金属類なら、物理的に操ることに成功したぞ」
「・・おお!それじゃあ、まるで、念動力者じゃないか」
「そのとおりだ!自分で感心したぞ!さあ、我こそはと思わん者は、このヘルメットを被って、人間を超越するのだ!」
「ここには、二人しかいねぇじゃねえか!」
ヘルメットを取り上げて、ガポッと制作者の頭にかぶせてやった。
「うひょろい!」
グシャ!!
部屋中の機器と、創時朗が、頭から天井に叩きつけられたのだ。
「ま、そうなるわな」
ヘルメット自体が、金属なのだから当然か。
後日、このときの体験が、いたいけな少女・・当時は、いたいけな少女の危機を察知して、いち早く駆けつけることができるようになるのだが、それは、ちょっと先の話である。
ずっしん!と、機器ともども落ちてきた創時朗に、
「ヘルメットしてて、よかったな」
いたわりの言葉をかけてみる。
「なにをする!!」
「こっちのセリフだ!」
次の一言のために、一志は、大きく息を吸い込んだ。
「なんで!まともなものを作ってくれないんだ!!!」
「まとも?なんだそれは?初めて聞く言葉だ。私の辞書の中に、そんな言葉、あったか?」
「・・・あ、ほんとだ。ご丁寧に、削除してある」
一志は、試しに、ここの端末に接続して検索してみたら、船の後ろとか、正面から向き合うこととかでてきて、キチンとしていることの意味がない。
「シャレのために、ここまでやるか・・」
「常識にとらわれない者!それが、科学者だ!」
「あ・・こっちも、改正してある」
常識―――この世で、打ち破るべき諸悪
高みに至る障害。
この世で、最も、不要なもの。
「自分に一番かけてるものをいじくるんじゃない!!!」
傍若無人で、異才の科学者。
これが、国岸創時郎、その人であった。




