表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/111

84

 そんなこんなで、バレンタイン当日。


「私は、チョコクッキーにしてみたの」

「わ~~~、色とりどりで・・って!手のひら、真っ赤ですよ!どうしました!?火傷ですか?」

「聞かないで・・・」

 そういわれても・・一流芸術家の石膏像のような茉璃香の体に、右手だけ、赤々と痛々しいのは、ものすごく気になるのだが・・・

「フンッ!ありがたく思えよ。アタシがこんなこと、めったにやらないんだからな!」

「星形に『KILL』って・・わけわからんのだけど・・・」

「きくんじゃない!」

 アイリが、ここに至るまで、いろいろ葛藤みたいなものがあったのだろうと、勝手に解釈することにした。

「それで、肝心の、しのぶちゃんはどうなったの?」

「それが・・・」

「うわ~~~ん!まにあわない!!!」

「・・・・・・・」

 さもあろう。

 しのぶの悲痛な叫び声が、外まで響いてきた。

 いや、しのぶの能力を持ってすれば、それほど困難ではないはずのだが、今回ばかりは、ライバルの存在が妥協を許さないのだろう。

「しのぶーー!もう、材料の板チョコのままでいいから、部屋から出てきなさい!」

「いーや!絶対!一番豪華で、おいしいの作るんだから!」

 二階の窓越しに、そんな会話がなされた。

 原因の二人も、呆れ顔で、一志も少々、引き気味だ。

「気持ちはわかるけど・・それと、一志君!今のは、ちょっと、デリカシーに欠けてるわよ」

「・・・・・」

 言われてみれば・・・とも思ったが、チョコレート、ではなく、それを作るロボットをトンカン作ってるやつに、そんなもん必要なのかという気持ちに、すぐ塗りつぶされた。

「う~ん。しっかし、どうしましょう?やっぱ、このままは、まずいというか、面倒なんですけど」

「しってる!こういうの、たしか、扉の前でドンチャンさわいでたら、出てくるんだ!」

「ああ・・昔話であったな」

「それそれ。だから、こっちだけで、楽しくやってたらいいんだ!」

「それやると、しのぶちゃん、本気で泣いちゃわない?」

「「う~~~ん」」

 なんだか、天照大神あまてらすに引きこもられた、八百万の神より、難解な気持ちになった。



「あ~~~~~ん!あとちょっとで、手作りロボットが完成するのに!」

 それは、手作りと呼べるのかどうか・・はなはだ、疑問だが。

「せっかく、一流パティシエの動画を、完コピしたのにーーー!」

 本気でパティシエ目指してる人が聞いたら、泣いちゃいそうなぐらい気合い入れすぎるから、間に合わなくなるのだ。

「だってだって!テレビでやってた、あのお店の、一番人気チョコなら、絶対負けないとおもったもん!」

 どちらかといえば・・そういうのは、高慢ちきな、イジワルお嬢様の役どころだと思うが。


「ヘクシュン!!」

「環さん!?どうしたんです?風邪ですか?まだ、肌寒いですから、気をつけて」

「なんでもありませんわ。きっと、こんな豪勢なチョコレートを用意できる私のことを妬んで、誰かが、悪い噂でもしているんですわ」

「・・そうなんですか」

「オーーーッホッホッホ。それでは、皆さん。とくと味わって、思い知るがいいですわ!材料も、パティシエも、本場フランスから取り寄せて作らせました、トリュフチョコレートですわよ」

「アハハハハ・・・、そこまでやらんでも・・」

                     ・

                     ・

                     ・

 とにかく!この場合、ちょっとぐらい不出来なほうが、ポイント高いことのほうを教えてあげたい。

「どうしよどうしよ!そうだ!!あれがあったんだ!」

 おっ!?なにか、閃いたようだ!

 天は自ら助くる者を助くと言う。

 ただ、愛しい人にチョコレートをあげたい乙女の気持ちが、天に通じたのか、この苦境を乗り越えるアイデアなり、救世主なりに、思い至ったらしい。

「春に、あの島に行ったときに、チョコレートを好きなところに落としてくれるメカがあったんだ!」

 違った!

 それは、最後にチョコっとだけ希望が出てくる、開けてはいけない箱の方だった。

 

「あ!?今度は、静かになった」

「しのぶちゃん!まだ、今日一日あるから。とりあえず出てきて、みんなで、チョコレート、食べましょーう!」

「これで、あきらめてくれる妹なら、ずいぶん楽なんだけどな・・」

 三人とも、それなりに、しのぶのことを心配しているようだ。

・・最後の、消え入りそうな、一志の台詞だけは、その質が違うようだが。

 だが、そこは、攻められないだろう。

 毎度毎度のことだから、一志に、予感めいたものがそなわっていても、おかしくない。

「いや~~~~~~~~!」

「やっぱりな」

 突如、響いた、妹の悲鳴に、一志はもう、諦めの極地みたいに、つぶやく。

 それを心配していたことなど、遙か過去の物語であった。

「あれ!?なんだか、空が、明るい?」

 そこで、アイリが妙なことを言った。

 昼間なんだから、それでいいんだが、そこでアイリが指摘したのは、空からの光が、わずかに揺らめいて、なんだか燃えてるような明るさだったのだ。

「って!まんまかよ!」

「あっ!流れ星だよ」

 見上げてみれば、燃えてる物が、上空にあったのだ。

 隕石である!

「昼間から、はっきり見えて、珍しい~~・・って!なんだか、こっちに、向かってきてないか!!」

 そのとおりで、柚月家中庭正面に、ぐんぐん迫ってきているように見える。

「アハハハハ・・・まさかな?ここに落ちてくるなんてことは、あるわけないよな」

「フフフ・・まさかそんな、隕石が、地上に被害を出すなんて、それこそ、万に一つもないよ」

「ハハ・・0ではないんだな・・それがまさか、ねらいすましたみたいに、ここに落ちてくるなんて・・」

「イヤーーーーーー!!!こないで!こないで!」

 三人で空を見て、唖然としていると、しのぶが、後ろから飛び出してきた。

 まるで、ここに落ちてくることを確信してるみたいな、口ぶりでである。

「まさかのまさかだけど、あれ!お前のせいだったりしないよな」

 上空を指さしながら、しのぶをとがめる。

「だってだって!このメカなら、すぐに、このチョコレート、届けてくれるって、書いてあったもん!」

 しのぶが、ノートパソコンで開示して見せたのは、クランチトッピングのトリュフチョコレートと、隕石であった。

 うん、似て非なる物。

 『めておすまっしゅ』・・・創時朗が、個人で打ち上げた人工衛星が、一日何千個と落ちてる流星の一つをバリアでコーティングして、入力地点に落としてくれる装置。

「アホかーーーーーーーーっ!!!」

 そうこうしているうちに、隕石は、ぐんぐん迫ってきている。

 恋は盲目とは言うが、チョコと隕石を取り違えるバカが、どこに・・・

「わーーーーはっはっはっ!とらえたぞ!」

「しのぶちゃんのチョコレート!到着地点を変更させてもらったーーーっ!!!」

「あ!?いた!」


ズッドーーーーーーン!!!!!

「「ほんぎゃわら~~~~~~・・」」


 突如、横切った、二つの眼鏡の影を追うように、隕石は、二つ隣の空き地に落ちてくれたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ