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てんやわんやで、その日は、とっとと寝てしまおうということになった。
というより、疲れて、他にやれることもなかっただけだ。
持ってきたスナックと、残ってた非常食で、食欲もなくした胃袋を無理やり満たして、そのまま横になりたいところだが、流石に、ざこ寝はまずい。
まず、一志の命令で、しのぶは、かつて一志が使っていた、内鍵がかかる、この研究所で一番勝手の良い部屋があてがわれた。
ただ、しのぶは、男の子が使っていた部屋であるということより、一志が、その前の物置を寝床にすることに、難色を示したみたいだ。
ならば、自分たちは両脇のトイレとバスルームをと、功一と清隆は主張したが、一志に叩き出されて、却下となった。
あれば、犬小屋でも用意したいところだが、それぞれ、リビングと創時郎の部屋があてがわれた。
皆、期待やら興奮やらで、目が冴えまくるところだが、この時は、あっという間に眠りに陥るのだった。
そして、それぞれが、明日こそはと夢見る深夜。
三つの針が、真上で重なるその時。
どこかで、秘密のタイマーが作動した。
突然、響き渡る轟音。
島全体を揺るがすほどの凄まじい振動と、騒ぎ出した森の獣達の鳴き声も加わって、四人を叩き起した。
何事か!?と、驚き、部屋から顔を出したところで、四人は鉢合わせる。
「なに!?この音?」
「わからん!が、ものすごく、悪い予感だけはしてきた」
一志は、震源を確かめようと駆け出そうとしたが、ついてこようとするしのぶを慌てて部屋に押し込んだ。
「お前は、もう一枚ぐらい羽織って来い」
本土より、南に離れた離島であることと、昼間の日当りの良さも加わって、皆、同じような格好だが、しのぶの髪を下ろしたランニングシャツと、ショートパンツ姿は、自分以外の男子の前に晒すのを忌避したからだ。
扉を閉めると、予想通り、一志を恨めしそうに睨みつける、二つの視線があった。
二人共、両手にカメラを装備済みだったりする。
最初から、しのぶを連れて行く気はなかったので、一志は、待たずに駆け出した。
騒音の元は、探し出すまでもなかった。
鼓膜を直接打ち鳴らすような爆音は、この島で、最も存在感のあるロボットからであったからである。
「こいつは・・・」
あの、昼間見つけた、巨大ロボットだ。
それが今、拘束帯に阻まれて、進むことができないが、その場で、地面を削り取る勢いで足踏みしている。
「なにこれ?!」
遅れてやって来たしのぶ達も、同じようなリアクションをする。
さもあろう。
なにしろ、創時郎の人物像を熟知している一志でさえ、この光景は異様なのだ。
実際、動き出すまでは、ちゃんと起動するのか疑わしいものが、今、辺りをすべて破壊しそうなほどに、暴れまわっているのだから。
「なにが起こったの!?」
「わからん!だが、こいつを止めないと、大変なことになるような気がする!」
声を張り上げて、なんとか、意思疎通を果たす。
だが、そんな間にも、ロボットをふん縛っている拘束帯の一つが、ボンッ!と、破裂音とともに、ちぎれ飛んだ。
「クッソ~、早すぎる」
あとは、雪崩式である。
そこにあるエネルギーが減少しない以上、拘束力は、加速して失われる。
「キャッ!」
吹っ飛んたボルトの一つが、しのぶのそばをかすめたのだ。
次々と拘束帯がちぎれだし、根元の金具までまきこんで、周りに撒き散らす。
「よーーーし、ここは俺に任せろ!」
功一が、人差し指を高々と振り上げている。
そのまま振り下ろして、昼間、散々追いかけられた、ロボット達を指差した。
「お前達、突撃だー!」
奇怪なロボット達が、ヨタヨタと起き上がり、今度は、巨大ロボットに立ち向かう。
騒動のあと、なんとか機能停止したロボット達のAIを勝手にいじったみたいだ。
といっても、ロボットの持つ本来の機能、突撃のみであって・・・
グシャ
哀れにも、そいつ等は、前進する巨大ロボットの、第一歩目の下敷きになった。
予想どうりの結末なので、なにも嘆く要因はない。
「ああ~、お前たち・・」
ペシャンコになったロボット達の亡骸を前に跪いて、功一がむせび泣く。
このロボット達のことを結構気に入っていたのか・・
「おーい!ギャグはいいから、とっとと追うぞ!」
功一の感傷など興味なく、一志は冷酷に、次の行動に移した。
そんなことをしている間にも、拘束帯をすべて引きちぎった巨大ロボットは、自由の身になって、壁をぶち抜いて、外へと飛び出してしまったのだ。
手近な乗用メカにまたがって、後を追う。
どうやら、創時郎の狂行は、未だ、一志に不遇を強いるらしい・・・・・