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少し狭く感じながらも、八人で、スゴロクを囲む。
一志にしてみたら、もう、こんなことは、二度とないだろうという、諦めの極致からだが・・・
だが、一志は知らなかった。
アイリの手元には、養父の興味から、世界中から集められた、創時郎の作品が、まだ、けっこう残っていることを・・
「それじゃあ、おれから、いくぞ!」
意気揚々と、功一が、サイコロを取る。
一志から見たら、被験者だが・・
『4デス。マグロデス。ゼンリョクデハシラナイト、コキュウガデキマセン』
「ひゅぅ、わ~~~~~~~!息が!息が!」
「行ってしまったな~」
窓を開けて、走り去ってしまった功一を無感動に見送った。
「次は、僕だ」
今度は、清隆だ。
今のをなんの教訓にもしないで、サイコロをとった。
『3デス。ウシデス。ヒラヒラトシタヌノニコウフンシテ、トッシンシテシマイマス』
「モォ~~~!」
功一が開けた、窓のカーテンに突っ込んで、続けて、いなくなってしまった。
「言わんこっちゃない・・って、言ってないか」
いなくなった二人を清々しい気持ちで、一志は、見送った。
それもそうで・・
一志のイメージでは、マグロとウシというより、ぬるぬるしたウナギと、泣き声が同じなカエルだった。
「今度は、私で、いいですね」
と、茉璃香がサイコロを取ろうとする。
もともと、茉璃香が振ろうとしたのを功一清隆が、割り込んだかたちだ。
なにがあってもいいように、一志は心構えをする。
『6デス。ブタデス』
「ブタ!あの、丸くて、ぶよぶよの?イヤーン、あなたにピッタリ」
『ラッキーパネルデス。チノウガタカク、キレイズキデ、ナニヨリ、タイシボウリツハ、14%。ニンゲンナラバ、モデルナミ。マワリノコウカンドヲ1アゲテ、3ススム』
「・・・・・・・」
あ・・・なんか、好感度が、逆に下がった人が、固まっている。
「次は!私ね!」
むきになって、その人が、サイコロを奪い取るように、掴む。
『6デス・・』
さっきと、マスが変わって、魚になっている・・
それもそうか・・音声で説明してくれるなら、同じ説明を二度、聞かせられるのであれば、楽しさ、半減だ。
「イヤーン。熱帯魚?人魚?みんなを魅了しちゃう?私にピッタリ」
『クマノミ。イセイブソクカラ、セイテンカン。モトドウセイヲイシキシマス』
「うらーーーっ!!!マリカーーー!!!チチ!もませろーーーーーっ!」
「キャーーーー!」
「う~~~む、直前に上げた、好感度が、まずかったかな・・」
「言ってないで、たすけて~」
もにゅもにゅたぷたぷもにゅもにゅたぷたぷ
・・・なんか、いろいろと、手を出しづらい事態である。
「危うく、川に飛び込むはずだったが!なんか!ものすごい!シャッターチャンスの予感に、舞い戻ってきたぜ・・ハゴッ!」
「まるで!前に食べ損なった、たわわな果実が、また落ちてきたみたいな・・ヒブッ!」
もう、戻ってこんでもいいのに、カメラ装備して、やってきた功一と清隆の顔面に、炊飯ジャーと、電気ポットが、直撃した。
「5で、イルカだって、獲物を超音波でしとめるって」
『ウシロノマスノヒトヲヒトマス、フットバセマス』
「物理的に、吹っ飛ばさんでも・・」
そう言ったのは、ただのツッコミで、アイリの凶行をとがめる気は、一切なかった。
「次は、私も、いいかしら?」
なにを思ったか、今度は、沙江子まで、サイコロを振ってしまった。
『1デス。カッコウデス。タクラントイウ、ジブンノタマゴト、ホカノトリノタマゴヲスリカエテ、ソダテサセマス。クイアラタメマショウ。1カイヤスミ』
「・・・・・」
「あぁ・・ふさぎこんでしまった」
あの、沙江子が、ず~~~んという、擬音が見えるぐらいに、壁に向かって体育座りして、落ち込んでいる。
なんなんだ、一巡しただけで、このカオスは・・・
このスゴロク。
裏に、コウモリの翼と尖ったしっぽをつけた妖精でも、張り付いてるんじゃないか・・
「では、とっとと、封印することにしようか」
一志は、つい昨日やった、古札奉納を思い出した。
しかるべき所で、焼却してしまったほうが、いいだろうかと・・
「ちょっと、待てーーーっ!これで、おしまいなど、誰が、許すかーーっ!」
「その先に、獅子の頂があるならば、血ヘドはいてでも!進むべきだ!」
「鼻血出てるぞ・・」
「自分一人、いい思いしたからって、ここで、お開きなんて、ありえると思ってるの?!」
「アンタも、けっこう、いい思いしたような、気もしますが・・」
潜んでた三人が、やる気まんまんで、逆に、うっとおしい。
どうでもいいが・・この三人には、こりないというところに、共通点があることに気づいた。
「やるなら、勝手にしろ。どうなっても知らんぞ」
「ふっ、おれが、すべてを手に入れて、吠え面かくなよ」
「かくかよ・・・たった、10秒ぐらい、動物のまねするぐらいで」
必死になってるけど、ただ、それだけのことなんだよな・・・




