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「さてさて、それでは、次のイベントと行きましょうかね」
とりあえず、それぞれ、お腹も満たされたころ、沙江子がそんな提案をしてきた。
「お正月といえば、これね。ジャーン!『どうぶつスゴロク』」
「・・・・・」
今時のような気が大いにするが、家族との絆こそ、大事にしたいお年頃なのだろう。
「わ~~~、アイリちゃんが、もって来てくれたゲームですね」
茉璃香が、空気を読むように拍手すると、一志も、そういうことかと納得する。
リビングに広げられたそれは、カラフルなパネルに、動物の名前がそれぞれ記してある、紛うかたなき双六であった。
「なるほど。サイコロを転がしながら、いっしょに動物の特性を学んでいこおうっていう、ゲームですね」
そうことならと、一志もちょっと、興味が出てきた。
ひょっとしたら、一志も知らない、動物の生態を教えてくれるかもしれない。
「お兄ちゃんが、やるなら、わたしもやるー」
「フッフッフッ。わざわざ、うちから、もってきたやつだ。とくと味わって、思い知るがいい」
気を紛らわしたい一志と、テンション高めの女性陣で、参加を拒否するものはいなかった。
いくつかの家具を片付けて、場所を作ると、五人で双六を囲んだ。
「これが、サイコロですか?ちょっと大きいですね。」
ソフトボールより、一回りほど大きい六面体を一志は両手で掴んでみる。
「んっ!」
そこで、フッと、一志の瞳に光が消えた。
その手が、コロンとサイコロを放り出してしまった。
『オタメシニ、1デス。カンガルーガデマシタ。トナリノヒトヲダッコシテ、トビマワッテクダサイ』
「えっ・・うわぁ!」
意識を乗っ取られた一志が、そこにいたアイリを対面ダ・・・コアラ抱っこすると、ドッシンドッシンと、庭まで飛び出してしまった。
「・・って、なんじゃこりゃあーーー!」
と・・・一志が、一番、驚いている。
「どうやら、実際に動物の特性を体現させながら、楽しく学びましょうって、スゴロクみたいね」
「ちょっと!まてーーー!なんなんです、このプレイする者をおちょくっとるような、おもそろしいゲームは!まさか・・・」
一志の頭を炎上したタンカーでよぎったのは、死して、なお伝説級に、人様に迷惑をかけ回っているという、自らの養父であった。
「全然!楽しくねーよ!」
誰に向かって叫んだのやら・・勝手に体を操られた者としては、当然の主張である。
「そんな、可愛い生き物抱きしめて、なに言ってんの」
「ああ!」
さすがに、その場に下ろすようなマネはせず、軒下まで戻って、下ろしてあげた。
「カン違いするなよ!たまたまだからな!ねらってやったワケじゃないからな!」
だったら、言わなくてもいいような・・わるいようなことを顔を赤くして、アイリは口にした。
「次、わたしー!次、わたしー!」
そこで、なにを血迷ったか、あぶないものを掴んで、一志に差し出そうとする妹がいた。
『2デス。コアラガデマシタ。ダイスキナヒトニ、ダキツイテクダサイ』
当然、そうなるわな。
意識を乗っ取られたしのぶが、一志に抱きついた、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、動けるでしょ。離れなさい。」
「だって・・・」
未練がましく、しのぶは、なかなか、離れてくれない。
「じゃあ、今度は、私ね」
「うお~~~~~い!ストーーーープ!」
しのぶを押しのけ、スライディングして、茉璃香が手にしようとした、サイコロを弾き飛ばした。
「なに触ろうとしてるんです!こんな危険物!」
「そこまで言わなくても・・亡くなった、お爺さんの作品なんでしょ」
どうやらそのようで・・前回に続いて、アイリが持ってきた、創時郎の遺品のようである。
だからこそ、信用できないという、この歪んだ家庭事情をこの高原に積もった白雪のような、純粋なお姉さんに、どう説明すればいいのか・・
「とにかく!やめときましょう!動物のマネなんて、どんな罰ゲームが潜んでいるか、わかりません!」
「でも、ゴールは、ライオンになってるよ。ご褒美のほうが、大きいんじゃないかな」
「王様!」
「「ハーレム!!」」
と、先ほど叩き出した三人が、突如、リビング側から飛び出した。
「オメー等、帰ったんじゃねーのかよ!つーか、どこに隠れてた!」
「オーーーッ、ホッホッホッ!とうとう雌雄を決する時がきたようね!茉璃香さん!今日という今日は、どちらがトップレディーとして、ふさわしいか、決着をつけてあげますわ!」
「・・・・・・」
なんかもう、先が見えてるような、セリフだった。
というか、引いたばっかりの、おみくじのこと・・完全に忘れてるだろう。
「さっきは、つい、あまりの出来事に、おいたしちゃったかな」
「お正月なんだから、ここは、みんなで仲良く、スゴロクだよね」
「・・・・・・・・・・・・・・」
毎度ながら、調子のいい。
「話を聞いてなかったのか。ていうか、都合のいいとこしか聞いてなかったんか!やらねぇって言ってるだろ!」
「女の子が、可愛く、動物のマネをしてくれるなんて、なんで、反対する必要があるの!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
こちらも、毎度ながら、母親として、それはどうなんだ・・
「ダチョウとか、ラクダとか、絵的に不味そうなものも、チラホラしてるんですけど・・」
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結局、押し切られる形で、やることになった。




