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「あっ!またいなくなった」
自分の股下で、悶えていたはずのアイリが消えてしまって、一志は、残念がる。
どうやら、一つの世界に、一人しか、認識できないのだろうか?
「それより!まーた、盗み撮りなんかして!アンタ!ほんとは!息子を塀の向こうに、送りたいんでしょ!」
「そんなわけないでしょ。こういう犯罪って、やっぱり、女の子をどれだけ傷つけたかが、一番、重要なんだから。だからこそ、加害者側は、最大限の責任を果たすべきであって・・逆に言えば、責任とれる範囲なら、いくらでもしていいんじゃないかな?」
「んなわけねーでしょ!!!自分でやっといて、なんですが!責任どうこう以前に、やっちゃいかんモンは、いかんつーことがあるでしょうが!」
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こういう場合、なんと言ってやればよかったかな・・
そうだった。
一志自身が、さっき言ってた、あれだ・・
「自分で言ってれば、世話はない」だ。
そこで、とうとう、夢の世界の終わりが近づいてきた。
興奮により、意識が、現実に引き戻されてるのだろう。
目覚めの時だ。
体が、毛布にくるまれてる感触を取り戻す僅かな間、沙江子がぼそりと、なにか呟いてるようだった。
「夢の中なんだから、本当に嫌なら、すぐに、逃げ出せるはずなんだけどなぁ・・」
がばっと、毛布を跳ね除ける。
やっぱり、夢かと一志は、今まで見てきたことを頭の中で、反芻する。
残念な部分もあったが、とりあえず、そこ以外を必死に記憶に留めようとする。
人・・・それを未練がましいという。
そして、それがいけなかったのか・・
いつもと違う、寝心地・・・というか、そこにしがみついているものに、気づかなかった。
「うわぁっ!しのぶ!?」
布団に潜り込んでいた妹に、一気に目が覚めた。
「なんで!どうして!どうなった!」
「なんでって、お兄ちゃんの方が、ギュッてしてくれたんじゃない」
「そうだったな、そうだったよな」
さっき見たばかりの夢と、照らし合わせて、あいまいに頷くのだが・・
「夢だけど!夢じゃなかった!夢だけど!夢じゃなかった!!」
しのぶは、満身の笑みで、そう何度もつぶやくのだった。
「ああああーーーーーーーー!」
そこで一志は、ここまでの経緯に、やっと、思い当たった。
原因は、昨晩。
アイリが、どこぞから持ってきた、赤い四角錐の塔のオブジェ。
どうせ夢を見るならみたいなノリで、『夢を共有できるおまじない』とかなんとかで・・
『みんなで、同じ初夢が、見れたらステキね』とか、誰かが言い出して、真ん中に置いて・・
柚月家のリビングで、四人で、いっしょに寝ることになって・・
そのときに、なによりも、その、今どきのデザインを気にするべきだったのだ。
「よかったわねー。私も、一志くんが、本当な、正直な気持ちを聞けたのよ」
感激して、二人とも、泣き出しそうな顔をしてるが、一志の問題は、そこではない。
「わたしなんか!メチャクチャにしたい!オモチャにしたい!言われたぞ!」
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
最後の悲鳴は、一志のものである・・・間違ってるようで、間違ってない。
夢の中だと高を括っていた、あーんなことやこーんなことが、全て、筒抜けだったのである。
ラブレターを勝手に読まれた乙女みたいな悲鳴も、上げたくなるだろう。
「ちょっと!今日こそは、本勝負行くわよ!本家大社の日帰りツアーを組んでやったわよ。それより、この家。私の顔認証してくれたけど、どういうこと!ゲッ!」
「俺たちは、認証されてなくて、撃退されたぞ。なんでだ?しのぶちゃんとは、家族も同然なのに・・ゲゲッ!!」
そこで、リビングの扉がドカッと開いて、環とアフロの功一清隆が、顔を出した。
そうだった。
アイリが、このインテリアを用意したときに、何かが引っかかていたのだ。
さすがに、手狭でしょうと、この場を遠慮した沙江子のいつもの一割増な笑顔に、もう、考えないようにしていたのだが・・
「「「出し抜かれたーーーーーーっ!!!」」」
そう思われても、しかたないこの状況。
年頃の男女が、雑魚寝など、常識的にありえない。
「かくて、予言は成就せりかーーーっ!」
「ブルータス!お前もかーーーっ!」
「神は、我を見放したーーーっ!」
いきなり現れて、なんで、意気投合しているんだか・・・
わけのわからん悔しがり方をして。
「いもうと(仮)が、布団に潜り込んでくるシチュエーション・・密かに、誰かが開発してくれることを願っていたタイムマシーンで、赤ん坊の俺と一志を入れ替えてでも、味わいたかった、俺の願望・・」
「あのねぇ、聞いて聞いて。お兄ちゃん、わたしのこと、ちゃんとかわいいって言ってくれんだよ」
「妹よ、空気読もうよ」
「誘惑お姉さんゴッコで、オママゴトしてるだけだと思っていたのに・・もう、いたしちゃってるとこまで、いたしちゃってるなんて・・」
「早とちりして、誤解なんてしないでください!」
「そうです!そうです!ちゃんと、言ってやってください!」
「これから、いたしちゃうんです!」
「違います!!!」
「寝間着姿の女の子が、三人も・・ここは、せめて、写真に収めて、アイコラしないと・・・おあた!」
清隆の構えたカメラが、爆発した。
「このわたしをオモチャにするのは、柚月一志だけだ!」
「勢いで、これ以上、事態が、ややこしくなること言うな!」
「あらあら、にぎやかねぇ・・いったい、なにがあったの?」
そこで、自室で寝ていたはずの沙江子が、とぼけて、何も知らないふりしてやってきた。
それこそ、フリだけである。
「なにこれ!まるで、ハーレムじゃない!」
「とどめを刺しに来たなーーーっ!」
夢などという、まるで責任のないことに、何故、自分が、こんなヒドイ目に合わなければならないのか・・
一志は、心底、お参りした神様に、助けを求めたのだった。
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逆に、張り倒されてしまえ!




