72
「茉璃香さん!!」
思わず、突き放してしまった。
「あっ!違うの。いきなりだったから、ビックリしただけですからね」
ワタワタするのは、こちらの方だと思うが・・そこは夢。これは夢。
夢ならば、こういうこともあるかと、一志は、自分自身を無理矢理、納得させたのだった。
「え~~~~・・」
どうやら、しのぶを抱きしめた、その時、情景が切り替わってしまったのか。
なんだろう?この憤りは・・
たとえるなら、大好物のハンバーガーを半分で取り上げられて、最高級のステーキがやって来たみたいな・・
「一志君なら、いつでも、こういうことしていいからね。それと、あとで、しのぶちゃんにも、同じことをしてあげてね」
「・・・・・・」
こういう、わけのわからん言い回しをするのは、確かに、一志の記憶の中の茉璃香だけだ。
驚き焦りで、幾分、上った血も冷めてくるが・・・
切り替えよう。
これはこれで、おいしいシチュエーションには違いない。
「あの・・・・・もしかして、お見舞いに来てくれたの?」
一志が、まごまごしていたら、茉璃香の方から、持ってるイメージ通りの質問をされた。
初めて見た、病室のカプセルで横たわる印象が強すぎたせいか、あるいは、元気すぎる娘が、二人もいるせいか、一志とっては、茉璃香は、未だに病弱だったり入院してたりする姿が、容易に想像できてしまうのだ。
「そう言われると、辺りが、真っ白ですね」
入れ替わった景色は、茉璃香本人を始めて見た、やっぱり、あの病院のようだ。
「あれ・・?でも、なんで、こんな所で、一志君と、会うんだろう?私、退院したよね。・・もしかして!?一志君が、なにか病気になったの?定期検診の日に、鉢合わせしちゃったとか?」
「だったら、人のこと、心配してる場合じゃないでしょう」
夢の中だし。
過去とか現在とか、思考とか、言動とか、入り乱れることは、よくあることである。
・・・・・しかしどうしようか・
夢の中だ、夢の中だと、言い聞かせても、もしかしたら?という懸念が、一志を危ぶませてしまうのだった。
「そう言えば・・二人っきりになることなんて、あんまりなかったような・・」
なれない緊張に、一志が、そんなことをつぶやいた。
「だって、私は、しのぶちゃんの次って、約束があるから」
「・・・・・」
それは・・・約束としては、どうなのだろうか?
しのぶは、承諾してなかったと思うが・・
当の、一志だって、そんなの、承諾していいものなのかどうか、考えあぐねてしまう。
てゆうか、そんな約束!持ち出す本人が、一番、疑問に思うべきであろうに。
プツンッ・・・
それは、一志の中で、なにかが切れる音であった。
「よーし!今まで、社交辞令と、聞き流してきたけど、今だけは、真に受けるぞー! 据え膳食わぬは、なんとやらだ!」
もはや、懸念より欲求の方が、上回ったか?
茉璃香の一言が、そうさせたのか?
ようするに、溜まっていたものが、噴き出したのだ。
「あの・・一志君。眼が怖いよ。もしかして・・いつも、私なんかに、つきまとわれて、怒っちゃった?」
「なにを言う!本当なら!こんな綺麗なお姉さん!連れまわして!見せびらかして!思う存分、自慢したいぐらいなのに!」
それは、まごうかたなき、一志の本心であった。
それをぶちまけた以上、もはや、一志は自分を止められない。
その華奢な肢体を・・・
それでいて、一か所だけふくよかな部分を・・
しっかり堪能するように、下から抱え上げるみたいに、抱きしめたのだった。
「てんちゅうーーーーーっ!」
まさにその時、突如、現れた剣によって、一志の体は、真っ二つにされた。




