イン ユアーズ ドリーム
「う~~~、寒い!」
「ほらほら、せっかく晴れ着が、可愛く決まってるのに、情緒、壊すことやらないの」
本当に、いつもの長い髪を巻き上げて整えて、晴れ着姿が可愛らしいくて・・それで、両手に息をかけて、激しくこすり合わせているアイリを沙江子が、たしなめた。
「フン、着物って、体、締まるし、動けないし、重いし、そのわり、そんなにあったかくなーい」
「そんなこと言わないで、私だって、着てみたかったんだから・・ほら、ほんとに可愛いから、周りの人、みんな見てるよ」
「ふ~んだ。アンタなんか、そのまま、おもちかえりされちゃえばいいんだ」
「・・・・・」
そういう二人は、人のことは言えないような気がするが・・
時は、大みそかの深夜。
一志たちは、五人みんなそろって、近くで一番大きな神社に、初詣である。
一人、晴れ着を着てきたアイリの姿に、
金髪美少女の、晴れ着姿というコラボに、誰もが目を奪われていた。
「すいません!写真撮っていいですか?!」
先ほどから、この手の声をかけられまくって、すごい。
テレもあるだろうが、アイリは、かなり、辟易しているみたいだ。
「うるさい!うるさい!こーれーぎょうじだか、なんだか知らんけど、こんなもん、人がいないうちに、パパっと来て、パパっと、帰っちゃえばいいんだ」
「早く済ませたら、初詣に、ならねえだろ」
アイリの心情を理解しつつも、一志は、そうつっこんだ。
*****
「ハイッ!リンゴ飴、カワイ子ちゃん、四人分ね!」
「いえ・・・五人分です・・」
日付の変わる僅かの間、五人で、屋台めぐりである。
とこらが、そうなると、一志の姿は、まともに映らないらしい。
行く先々でこうで、仕方ないと納得しつつも、一志は、疎外感に苛まれるのだった。
「かと言って・・・真ん中に立つわけにも、いかんし・・」
そんなことをすれば、どんなことになるか、想像するだけでも恐ろしい。
「気にしないで、真ん中にたっちゃえばいいじゃない。そうしても、全然おかしくない、関係なんだから」
だから、なんて、恐ろしいことを言うんだ!この母親は!
「いえ!アイリを真ん中におきましょう!人も増えてきたし。そうしましょう!」
それは、事実で。
カウントダウンが近くなるほに、人が増えていく。
はぐれたら、大変なことになりそうだ。
「そうねぇ・・ちょっと早いけど・・・」
アイリを見て見たら、まぶたを少し重そうにしていた。
「早く済ませた方が、よさそうね」
五人で、アイリを中心に、人ごみに乗り込むことにした。
「うわ~~~」
早めに並んで、正解だったようだ。
あとからあとから、人が押し寄せてきて、最後尾が見えなくなってきた。
「眠い?我慢できなくなったら、一志くんに、ダッコしてもらえばいいからね」
「う~~ん、わたし、ねむたくなっちゃった」
「・・いっしょに、昼寝とカフェインコーヒー、併用しただろう」
「それなら、みんなで一緒に、神様に、お願いしましょうよ。一志君と、今年もいっしょにいられますようにって」
「・・・・・神様も、迷惑な・・」
そうこうしているうちに、周りが、ざわつきだした。
10から始まって、数字が一つずつ少なくなるたびに、歓呼する声が大きくなり、同時に、発音に日本語と英語が混じっていく。
「3・・2・・1・」
「「「「「「「「「「ハッピーニューイヤー!」」」」」」」」」
歓呼が、歓声になり、一斉にみんなで快哉を上げた。
「あけまして、おめでとう」
「おめでとう」
一志たちも、空々しくも、新年のあいさつを交わした。
一年に一度のお祭りだ、野暮なことは言うまい。
「おっ!動き出した」
参拝が、始まったようだ。
ゆっくりと、列が、前に動き出した。
「じゃあ、今のうちに・・・」
一志は、小銭をいくらか手の平に収め、改めて、願い事を考えてみる。
「・・・・・」
思いついたのが、無難に、学力向上、健康第一、あと家庭円満とかだったが・・・
これにしよう!
一志には、もう、これしかないと、思った。
今の生活が、荒立たないこと、これ以上になにがある。
至極まっとうな、願い事だし、神様も、必ずかなえてくれるはずだと。
・・・・・・・・・
無難なお願いに、必死になるとは、不憫なことだが・・
わかってほしい。
世の中には、人並みの幸せさえ、渇望してしまう、恵まれない子供たちがいることを・・・
・・・・・・・・・・・・・・
ちょっと、違うか?
それからしばらくして、やっと、一志たちの番が回ってきた。
二拝二柏手一拝。
「ん~~~~!・・」
場所もわきまえず、祈りこんでしまった。
いや、場所は間違ってないが、あまり真摯かまえられると、周りの好奇の視線が痛い。
早々に、立ち去らねば。
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
「・・・しのぶ、お前の気持ちは、よ~くわかったから。そのぐらいにしときなさい」
真摯というより・・必死に祈りをささげてる妹をいろいろ恥ずかしく思いながら、一志は、その手を引いてあげた。




