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「作戦を説明する」
薄暗い、室内照明の下で、メガネをかけた、かぼちゃパンツの男が、大仰に語りだした。
「作戦名は『ラブラブお姫様抱っこ救出脱出大作戦』。我々は、この世界に点在するお姫さまたちを救出して、最後に、お姫さまだっこで、そこから出てくるのがミッションだ」
頭につけた、小さな王冠で、それが、王子様の恰好だと判別できるが・・・
百人も、騎士さまや王子さまがいれば、一つぐらい、こういう、ハズレの扮装もあるのだろう。
ある意味、大アタリだが。
「場所は、高い塔のてっぺん、あるいは、深い洞窟の水晶宮。そして、海賊に占拠された船上だったりするわけですね」
清隆の方は、フルプレートのナイトなのだが、もちろん、軽量ゴムの模造品。
なんだか一志は、どこぞで、侵略活動でもしていそうな、戦闘力低めの宇宙人を思い出していた。
「・・・・・」
本来なら、大笑いしたいところだが、とても、そんな気になれない。
「そう。そして、ほかの連中と違うところは、我々は、どの娘を助けるかは、決まってないというところだ」
「・・・・・・・・・・・」
そうなのだ。
こんなことになるのなら、逃げだしてでも、断るべきであっただろうに、
よりにもよって、渦中の本人が、言い出したのである。
「こうなったら、勝負なんだから!お兄ちゃんが、だれを選ぶのか!」などと・・
一志には、自分で言い出して、今、不安で泣きそうになっている、妹の顔が、目に浮かぶようだった。
「とゆうことは、どの娘を助けても、OKということですな!」
「そういうことだ!また、一人で、三人を助けても、OKということだ!」
「んなわけねぇだろ!」
スーツタイプの騎士の姿をさせられた一志が、さすがに、食って掛かった。
「あくまで、エンターテイメントだぞ!そんな、自分勝手な。だいたい、こんな日に、十把一絡げにされる、女の方の気持ちも、考えろ!」
「「お前が言うなーーーッ!!」」
二人に詰め寄られて、たじろいでしまった・・・のは、一志自身も、少しは思うところがあったからだろう。
「・・・違うぞ・・、本当に、この日に、タダ券、貰っただけで。たまたま、男一人に、女三人になっただけで・・」
「誰が、信じるかっ!」
「裏から、どんな工作をするんだ!」
「・・・・・」
そう思われても、しかたあるまい。
それほど今日は、特別な日。
こんな日に貰ったチケットなど、自分ごと、プレゼントされてるようなものだ。
加えて、二人の美少女付き。
これが、どれほどの僥倖か?あるいは、異常なのか?
改めて言われれば、いくら、一志でも、あらためて考えてもいいだろう・・・・・
この二人で、なければである。
「だあぁ!邪推も、たいがいにしろ!事実なんだから、しかたねぇだろ!妄想をそのまま口にしやがって、いい加減、恥ずかしいとは、思わんか!」
「フッ。そんなことを言うのは、夢は夢だと割り切って、あきらめてる臆病者のセリフだ」
「あがいて、のたうって、それでも、いつか掴めると信じているのなら、それは、妄想じゃない。いや、必ずつかんで見せる。この願望を!」
使いどころが、間違ってなければ、それなりに、カッコイイ台詞なのだが・・・
「お前らのは!願望じゃなくて、欲望だ!現実に展開されてたまるか!もういい、わかった。三人とも、俺が貰う。お前らには、一人も渡さん!」
売り言葉に買い言葉だが、一志の方も、ものすごいことを言ってしまった。
「とうとう、本性を現しやがったな。ならば、我々も、容赦しない。なんの遺憾なく、決着をつけてやる!」
「誰が、三人とも手に入れても、恨みっこなしだ!」
時間である。
ブザーが鳴って、外へ通じるシャッターが開きだした。
ほっといても、共倒れしそうなことを言ってるが、そんなに、楽観してもいられない。
とうとう、この日がやって来たのだ。
バラバラの場所にいる三人のうち、誰を選ぶかという、一志にとって、究極の選択に。
どんな選択をしても、誰かを傷つけることになってしまうだろう・・
この時だけの、あくまで、ゲームとしてなんて・・それじゃすまない乙女心というものがある。
だいたい、自分を選んでくれたからって、他の二人の涙を無視して、手放しで喜んでくれる娘なんて、いただろうか?
それでも、誰かを選ばねばなるまい。
逃げ出して、こんな奴らに、全部任せるなど、それこそありえない。
シャッターが開ききる、わずかな時間、様々な葛藤・・これから起こるであろう惨劇とか、それに伴う責任とかが、一志の心を苛むのだった。
「さあ!それでは!姫を助ける勇者たちを盛大な拍手で、お出迎えくださーーーい!」
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人員調整で、回されたのか、月登の盛大な紹介に・・・・・応えるものは、誰もいなかった。
ライトアップされた三人を出迎えてくれたのは、目の座った、若中年層の、様々な男女だった。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
最初の試練としては、ずい分、妙だが、一体どんな、趣向だろう・・
「やだな~・・どうしたんです?みなさん、恐い顔して・・」
「そうそう。僕たちは、これから、お姫さまたちを助けに行かなきゃいけないっていうのに・・」
さすがに、すごんでしまって、功一清隆と一緒に、周りをキョロキョロしていたら・・・一志の目についたのは、背後の巨大スクリーンだ。
見上げると、まさに、今の自分たちが、映っている。
「・・・・・もしかして、さっきまでの、我々の会話が、生中継されてたなんて、言いませんよね・・・」
「されてましたよ。パーク全体を使ってのイベントですもの、他のお客様との混乱を避けるため、また、いっしょに応援して楽しんでくれるために。お姫さま側の、女の子の紹介から、先ほどまでの、君たちが、みんな、手に入れてしまおうって、相談から・・・あっ!そうか!それでか!きっと、あのマシン、容姿で、参加者を選んだんだな」
「ゆうちょうに、言うなーーーーーー!」
一志の絶叫が、合図になったかの如く、その場にいた全員が、殴りかかってきた。
「死ねーーーーーーーっ!」
「女の敵ーーー!」
「三人そろって、三股かける算段かーーー!」
「だいたい、なんだ!あの!本当に、お姫さまみたいな、女の子ばっかりは!」
「一人ぐらい、こっちに、まわせーーーーーっ!」
「「「ギャーーーーーーーーーーッ!」」」
恨み、妬み、怒りに狂った観衆に、袋叩きにされて、聖夜の夜空に、三人の悲鳴が、響き渡ったのだった。




