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「あたりまえですけど、どこも、盛況ですね」
「大観覧車なら、十分待ちですって。この前は乗りそびれちゃっから、ちょうどいいと、思わない?」
「そうですね・・」
アプリで、ここの情報を検索している茉璃香に、一志は、生返事をする。
常に歩いてないと、落ち着かない。
すれ違う人が、みんな、こっちを見ているような気がする・・
まず、アイリの金髪が、際立って。
しのぶだって、引けを取らない美少女だし。
茉莉花にいたっては、この日にあつらえたかのような、清楚な女性である。
誰か一人にしたら・・あるいは、三人だけにしたら、自らのパートナーをほっぽいてでも、男どもが群がってくるのではなかろうか。
逃げるか、閉じこもるかしたい気分だったので、観覧車の中なら、ちょうどいい・・
と、思っていたのだが・・・・・
「四名様ですね・・っえ!?」
ざわ・・・
まず、案内のスタッフに、怪訝な顔をされ、辺りが、一斉にざわついた。
大げさだろう・・・と、一志は、つっこみたいが。
この日が、この日だけに、観覧車なんぞ、ほとんど、カップル限定みたいなものだ。
そこに、それぞれ、タイプがバラバラの、飛び切りの美少女たちが三人・・・と、あと男一人。
そうなると、その視線は、羨望・・・・・ではなく、犯罪者である。
『ただの妹と、知り合いのお姉さんと、娘さんです!』
そう、大声で、主張したい衝動にかられたが・・・
言いとどまったのは、カンであろう。
そんなことをして、三人娘が、こぞって否定でもしたら、それこそ、とんでもない事態になったであろうから。
こうなれば、四人にとって、思い出の場所ならばと、親切心か、裏がありそうな理由で留守番している保護者に、ついてきてもらうべきだっただろうか?
・・・・・いや、沙江子の場合、さらに、ややこしい、視線にさらされそうだ。
「どうぞ、ごゆっくり~~~」
スタッフの、語尾が、おかしかったが、その表情を確認する気にはなれなかった。
てゆうか、怖くて振り向けない。
「針のむしろって言葉をこの身に、体現する日が来ようとは・・」
「どうかしたの?ひょっとして、高いところが、苦手とか・・」
青い顔の一志を心配そうに、茉璃香が、覗きこむが、かん違いも、はなはだしい。
「いえ!いえ!そんなわけないでしょう!アハハハハ・・」
取り繕うとする態度が、逆に、心配されそうだが、そんな瞳をされたら、現状をどう説明すればいいのか。
ゴンドラが、地を離れだすと、戻ってくる間に、そこにいる群衆が、総入れ替えしててくれいと、切に願っていた。
「お兄ちゃん!海だよ、光ってる!」
「ああ、海の方まで、管理してるのかな?それとも、窓に、投映されてるのか?」
「見ろ見ろ、このガラス、落書きできる!よーし!ビルに、ウOコ描いてやる」
「タッチパネルに、なってるんだな。あと、ウOコは、よしなさい」
「見て見て!地面が、トナカイになってる。ドームが鈴で、わたし達が、歩いてきたところが、角だよ!」
「おお!この大きさだと、下にいた時は、気づかなかったな。心にくい、演出だな」
「わーーー!雪が、降ってきた!なんだか、山小屋みたい。サンタさんが、飛んでる~」
「この日ならではだな、さすがに、ホログラフ・・雪の方は、ホログラフだろうけど。振るなんて言ってなかったしな。サンタさんは、もう、プレゼントを配り終わって、帰るとこかな・・うをっと!」
しのぶとアイリが、海側と山側の眺めで、一志を取り合いになって、観覧車の中なんかで、うろうろ、キョロキョロ、していたら、つい足をもつれさせてしまった。
「キャッ!!」
倒れたそこが、茉璃香の膝の上だったのだ。
「「あーーーーーーーーーーーっ!ラッキースケベ!!」」
「女の子の、いう言葉じゃないぞ!せめて漁夫の利ぐらいにしときなさい!」
「私的には、棚から牡丹餅だけど・・」
「だから、どちらかと言えば、男のセリフですってば」
「ことわざなんて、どうでもい~い!」
体勢悪く、まごまごしてたら、しのぶとアイリに、両方から、引きはがされた。
大人しめのアトラクションで、これである。
その後も、一志の苦悩は、続く。
アクション系のアトラクションを選べば、しのぶが、自前のハンドガン、ぶっ放すし。
「キャーーーーーーーーーッ!」
ドグワッシャン!
シアター系のアトラクションを選べば、夢中になったアイリが、ナビロボを暴走させるし。
「わーーーーーーーーーーっ!」
バチバチバチバチ!・・・・・・プスン
お決まりの絶叫系を選ぼうとすれば・・・
「あ!茉璃香さんがいるから、さすがにダメか・・」
「なに言ってるの!この日こそ、特別に、思い出にしたくて、いろいろ、準備も、覚悟も、決めてきたんですから!私の体のことなんて、気にしないで、どこでも、連れてってください」
ザワ・・・・・・・・・・・・・
周りの空気が弛緩して、そして、爆発的に沸騰する。
先ほども、感じたような・・・また、違うもののような・・・・
無知とは罪とは、よく言うが・・茉璃香の今の言葉。
違う意味に受け取られても、しかたないみたいなことを言ったと、一志が知ったのは、だいぶ後になってからだった・・・・・
・・・・・より、大罪なのは、そちらの意味で受け取っても、茉璃香は、拒絶しなかった、というところであろうが・・
「ああ~、つくづく、俺たちって、集団行動に、向いてないんだな~・・」
いたたまれなくなって、逃げ出した先で、一志が、そんな事をつぶやいていた。
「あ!怪獣が、おかしをばらまいてる」
うなだれていた一志の隣で、アイリが、なんだか、ありえないことを言い出した。
が、アイリが指をさした、その先を見て見たら、そう、表現するしかない光景が、繰り広げられていた。
「ガハハハハハハハハ!メリーーークリスマーーース!園長サンタの、クリスマスプレゼントでーす」
「・・・・・あの怪獣、エンチョーっていうんだ・・」
ハタの目には、そう映るだろう・・
ずんぐりむっくりな、いつもは、バクダンをばらまいてるような、悪役巨体のモンスターが、今日だけは、おかし、おもちゃに、切り替えてるみたいな。
「・・・あの、オッサン。やっと、出番が来たみたいな、はしゃぎようだな」
「ええ・・、まったくそのようで・・」
裏の事情を知ってるものには、別の見解もあるようだ・・
一志が、事実を告げると、後ろから、共感した、頼りなげな、青年の声がした。




