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「クリスマスだぞ!プリティームーン!」
「そうですね・・金田園長」
「ビーナスと呼ばんか!ビーナスと!」
「そのネタ・・まだ、引っ張るんですか・・・」
ここは、若者たちに、愛と夢を与えるワンダーランド・・・の、裏方の、汗と苦渋にまみれた、警備兼雑用。
地下モニター室に押しやられて、早、半年。
河合月登は、未だに、この空気に、なじめなかった。
・・・・・というか、なじんだら、負けのような気がする。
「・・・でもまあ、確かに、今日だけは、仕事なんて放りだして、お客に交じりたい、気分ですな」
「そうだろそうだろ。そのために、監視カメラも、ガードロボも、倍増して、有事に備えているのだ」
管理者としては、それでいいのか・・という気もするが、頭ごなしに、否定されるよりましか。
「よーし!そうと決まれば、さっそく、着替えて、乗り込むとしよう」
「前言撤回!完全に、職場放棄して、どうする!」
金田の、ベルトを掴んで、思いっきり、引き留めようとするが、巨体は止まらず、簡単に、引きずられてしまう。
「ハッハッハッ。冗談に決まってるだろ。あくまで、私服で、巡回するだけだ。言わば、潜入捜査だ」
「アンタが、やったら、潜入じゃなく、突入です。やること変わらんのなら、本気で言った方が、まだ、笑えます」
「なんだぁ?どういう意味だ?」
人間一人分の重量など、ものともせず、突き進む、巨漢の持ち主は、本当に、ワケがわからない、といったふうだ。
「わかりました!わかりましたから!その件にかけては、私に、一案があります!とにかく!一度、モニターのチェックをしましょう。この日のために、導入した、システムなんですよね」
「それもそうだが・・」
不承不承という感じだが、なんとか、猛進を食い止めることができた。
「これだけ多いと、全て、チェックは、さすがに骨だな・・でも安心。今回、導入したコンピューターは、ここにいる、全ての人間の顔をモニタリング、記録しているのだ」
相変わらず、一流の指使いで、金田は、コンソールを操っていく。
まったく・・能力だけなら、尊敬できるというのに。
「確か・・ここの全システムに、直結してるんでしたよね」
「そう!では、新機能を作動させてみるか」
金田が、Enterキーを押すと、全てのモニターが、一つになり、このユウェンタースランド全体が、映し出された。
だが、いくつかの、大きさも色も違う、円が重なっていて、さらに、バラバラに、数字が記載されている。
「なんです、これ?人が集まってるとこほど、色が濃かったり、数字が、高かったりしてるみたいですけど・・」
「そこにいる、お客様の人数と、感情と、その度合いを一目瞭然で、確認できるよう、表記されているのだ」
「えっ!?そんなもの、どうやって表示するんです?まさか、お客様、一人一人の、心を見透かしてるなんて・・」
「表情や、歓声を・・・それだけではないが、まあ、そんな、いろいろを数値化しているだけだ。ただし、その性能は、折り紙付き。作り笑いや、泣き真似ぐらいじゃ、ごまかせんぞ」
「へ~~~~」
月登も、金田に倣って、コンソールを操ってみる。
モニターの目線を近づけて、それぞれのイベントや、マシン、建造物に、照準を合わせていく。
「おおむね、赤ですね。ていうことは、赤は、『喜』。ホラーハウスなんかでは、青・・」
さらに、照準を絞り込めば、個人まで、特定できた。
「わ~~~、カップルは、ピンクがかった、赤。こちらの男性は、『タイタニックハンマー』を前に、青だ。彼女の前で、強がってるんだな・・。えっ!?こちらの男性は、黄色。不快の色ですよね。彼女の方は・・・・・あ~~。きっと、体裁づくり。クリスマスの夜に、女性と一緒にいたっていう、口実のための、彼女だな」
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なんだか、どちらかともなく、沈黙してしまった。
「・・・・・こちらとしては、参考になりますが、お客様方には、お伝えしない方が、よろしそうですな。この、システムは」
「うん。私も、そう思った」
過剰なサービス、大きなお世話。
新システムの興奮も、すっかり冷めた時、モニターの隅で、なんだか、気になるものが映った。
「ん?なんだ?黒・・いや、ドクロ!?なんだ、このマークはっ!」
月登は、慌てて、そのビジョンを追う。
「なにぃ!?よりにもよって!そんな、不気味な反応は!これには、ありとあらゆる人種の顔が、インプットされているのだぞ。まさか!?手配中の凶悪犯罪者でも、潜り込んでいるのか!」
「わかりません!今、ズームアップします。場所は・・地下です!」
金田は、周りに気を払いながら、警棒を手に取った。
「近いです!モニター室・・ああっ!ここだ!!!」
月登は、ためらわず、敬愛する上司の顔面を指さした!
バリバリバリバリ!!!!
叩きつけられた警棒に、意識が遠のいていく・・・・
そのさなか、機械が選んだのにぃ・・・ほんとに、機械が、選んだのにぃ・・・と、そんな思いが、走馬灯のように駆け抜けていったのだった。




