60
今、環は、柚月家へと向かう、住宅街を歩いている。
とりあえず、現状把握しようと。
茉璃香が言っていた、妹だか、先こされた女だか、わからん娘にも、話を聞いてみることにした。
でも、なぜ環が、そんな面倒なことをしているのだろうか?
それは、泣かせてしまった、茉璃香の姿を見ていたら・・・
なんだか・・・・・
恩を着せてやりたくなったのだ。
・
・
・
・
・
ここは、お詫びと考えるべきであろうが、
やっぱり環は、見た目通り、アレの気質があるのだろう。
でも、自分を打ちのめした女を正論で、泣かせてやった優越感といえば、少しは理解できなくもないか。
「さて、これが、いくらか、役に立つかしら・・」
環が、バックに隠して持ってきたのは、前回、かき集めた、孤島に住む異才の老人作にまぎれていた、『腹を割って話し合うメカ』である。
一応、持ち運べるほどの大きさの黒いボックスに、カールコードが伸びて、そこに、指揮棒ようなアンテナと、握る箇所についたスイッチ。
呼称から、指した相手の本音を聞き出すみたいな、メカなのだろうけど・・
前回の失敗もある。
ここは、内臓が飛び出すみたいなメカでないことを確認しておかねばなるまい。
「おお・・」
その時、環の耳に、感嘆しているような、小さな驚きの声が聞こえた。
声の主は、正面。
向いからやって来た、カメラで構えている、そろってメガネをした、やせっぽっちと、小太りの少年だった。
環の場合、こんなことで、おののいたりしない。
むしろ、こんな正直な子供たちはと、褒めて、伸ばして、はべらしたくなる。
どれどれ、それでは、その素直な本心に、耳を傾けてみますか・・
環は、アンテナのスイッチを押したのだった。
「お~~~、おしい。色気より派手目、オシャレより顕示欲の方が、前に出てる。甘くして、79点ってとこか」
「僕たちの眼鏡には、かなわないなぁ。あっ!よく見たら、負けたお姉さんだ。ここは、しのぶちゃんに使うつもりだった、服が透ける、赤外線カメラの、試し撮りぐらいに・・」
「痴っ漢っ!!!」
環は、こめかみに青筋立てて、目いっぱい叫ぶ。
すると、環所有の、ボディーガードが、0.1秒で現れる。
「なんだ!?なんだ!?」
「イヤーーーッ!われわれは、ただの、撮影好きな、普通の中学生ですーーー!」
説得力、皆無。
瞬く間に、二人を拘束した。
しかし、この場合、どちらが被害者ということになるのだろうか?
「こんな!モノの真価もわからんエロガキは、しばいて、さばいて、山奥でも、埋めといてちょうだい!」
第一印象は、なかったことにして、環は、二人の抹殺を命じた。
「・・・・・お嬢様。そのような、周りで聞く人がいたら、誤解されそうな発言は、ちょっと・・・」
護衛の一人が、困り顔で、環を窘める。
「ああーーっ!ヤクザの、誘拐現場ーーー!」
そのとおりで、そう思われても、しかたない状況である。
「しのぶちゅわ~~ん。助けて」
運がいいのか、悪いのか、そこに通りかかったのは、しのぶであった。
「ゴクドーさんの、娘さん、だったのね!」
「違うわよっ!」
これから、話を聞かねばならない相手に、えらい誤解をされてしまった。




