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学園祭も終わって、しばらく。
季節とともに、熱も冷めようという者もいれば、興奮冷めやらぬ者もいて、ここには、引きずって、ふてくされてる者もいるというわけだ。
あの高笑いが、もう聞けないとなると、寂しいような、よかったような・・・
「そういえば、アンタとは、とことん、話し合ってみたかったことがあったんだけどさあ」
そのわりには、まるで、熱のこもってない口調で、どっかりと、向かいの席に、環は、腰を下ろしたのだった。
聞きたかったのは、やっぱり、あの件だ。
こんな美人が、四つも年下の、これといって秀でたものがあるわけでもない少年のもとに通い詰めてるという、異様な光景。
環にしてみれば、その疑問は、なおさらだろう。
それは、恋バナというより、事情聴取みたいになったが。
「・・・・・ようするに、病気だったころ、励ましてくれた男の子をすりこみみたいに大好きになったんだけど、すでに、彼女持ちだったんで、もう、遊びだけ、体だけの、都合のいい女のフリして、付きまとってるワケね」
それが、大まかに聞いた、環の見解だった。
「そうなんです!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメだ、この女。
いるんだよな、愛人とか、2号とか、そういう立場に甘んじてしまう、女。
結果、男をつけあがらせて、男の方まで、ダメにしてしまう、典型的なダメ女。
自分がダメだと、自覚があるものだから、もう、お医者様でも草津の湯でも、治せない・・・というか、つける薬がない。
これが、自分に、歯向かう気さえなくなるほどの、苦汁を嘗めさせた、女の正体かと思うと、予備知識がなかったら、むせび泣きたいところであろう。
「虚弱体質のくせにな~」
環は、頬杖ついた、歪んだ口元でそう言った。
「虚弱体質なんて・・そこまで、ひどくありません!ただ、人より運動を休んでいた時期があっただけで。病気の方は、もう、全快したんですから」
「ふ~~~ん・・」
環は、姿勢を正さない。
「信じてないですね!いいですよ。今、この場で、腕立てふせでも、腹筋でも、なんでもやってあげます!」
茉璃香は、勢い込んで、立ち上がるが・・ついさっき、体調不良を理由に、誘いを断った女が、なに言ってんだか。
そこまで言うなら、スカートで、逆立ちでもしてもらおうか・・などと、イジワルな考えも、浮かんだが。
「じゃあ、あそこの木までタッチして、また戻ってきて」
環は、適当に目についた、離れの樹を指さした。
往復でも、100メートルは、ないだろう。
「よいドン」
ワンブレスで合図をすると、茉璃香は、律儀に駆け出した・・・・・
・・・・・・のだが、
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「たどり着けもしないのね」
気負いすぎでの、貧血だろう。
十歩ほど、走れたかどうかのところで、茉璃香はパッタリと倒れてしまった。
予想通りというか、予想以上というか、予想以下の結末だった。
「保健室、行く?」
歩み寄って、ケガしてないかぐらいは、確認する。
「そんな、抱けば砕けるみたいな、ガラス細工、どう玩べって言うのよ。逆に、嫌がらせ・・てゆーか、もう拷問だっつーの。なまじ、おいしそうなだけに。性欲と、罪悪感の間で、板挟みになってる、少年の方の気持ちも、考えなさいよ」
厳しく言ったわけではないが・・
というより、先ほどから、呆れてるみたいな口調なのだが・・
それでも、茉璃香は、さめざめと泣きだしてしまった。
「だから!私なんて、こんなことでしか、お礼する方法がないじゃない!」
「・・・・・」
だから!!余計に、ダメなんでしょうが。
こういうのが、逆に、男受けが良かったりするんだから。
自己管理能力の無さを健気さと、勘違いして.
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そこまでは、しゃくなので、言ってあげなかったが。




