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・・・・・・・・辺りは、凄惨なものだった。
しのぶと、アイリも、協力してくれて、なんとか、カメラを撃退できたが、硝煙が立ち込め、ガラクタが散乱して、とても、一介の住宅街とはおもえない。
「オーーーーーッ、ホッホッホッホッホッホッ!これで勝ったと思わないでね」
「・・・いたの」
これだけの惨状の引き金になっておいて、環が高笑いしている。
・・・さすがに、ハラ立ってきた。
「勝もなにも、お騒がせしてるだけでしょ、アンタ」
「今回のミスコンは、前回とは、ひと味、違うわよ。なにしろ、私が、水着審査をねじ込んでやったのですからね!まともにスポーツもできない、ガリガリか、ブヨブヨの肢体に、男どもを幻滅させるといいわ!オーーーーーーーーーッ、ホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!」
いうだけ言って、環は、走り去っていった。
「・・・・・・・・・・・」
こちらも、言いたいことは、山ほどあったが、そんな気持ちも、涼風に洗われたように、消え去ってしまった。
「「「「あ~~~ああ」」」」
茉璃香以外の誰もが、その背中をまるで、大鷲に挑むヒヨコを見るような・・そんな、憐れんだ眼差しを送るのだった。
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「秋の孔陽祭!ミスキャンパス!グランプリは!里政茉璃香さんで~~~す!」
ステージに、水着で立つ茉璃香に、盛大な拍手が、送られた。
「ハイ!ありがとうございます!」
茉璃香は、緊張で、上ずった声で、なんとか対応している。
「いや~~~、春に続いて、二連覇、おめでとうございます、茉璃香さん。それも当然といいましょうか・・ステキなプロポーションですねぇ」
一緒に、ステージにいる司会者が、歯に衣着せぬ、感想を送る。
「やだッ!違うんですよ。やっと、運動を始められるようになったのが、つい最近で、それまで、低周波治療ばっかりで、なんとか、お肉が残ってるだけで・・」
言い訳がましく、ワタワタと、取り繕うとしているが、本当に、恥ずかしいのだろう。
それがまた、愛らしくて、会場の野郎共が、テンションをマックスにして、赤い顔した茉璃香に、声援を送る。
「なんだか、耳にした女性が、みんな、運動をやめてしまいそうですが・・続けて、園寺環さん。準グランプリ、おめでとうございます」
「い・・え、いえ。過大な賞をいただきまして」
マイクを向けられた、同じく水着の環が、作り笑いをしている。
こちらは、緊張のためではあるまい。
準優勝らしく、控えめに、その場に、佇んでいるが、一志の目には、いっしょに並びたくないように見えた。
さもあろう。
聞いての通り、茉璃香のプロポーションは、規格外だ。
となりに立てば、誰だって、こけしになってしまう。
「あっ!」
そこで、茉璃香が、誰も気づかないぐらいの、小さな、驚きの声を上げた。
正面、奥にいた、環の自業自得を笑いに来た、一志達と、目が合ったのだ。
「・・・・・・」
柔らかな笑顔と共に、小さく手を振ってくれた。
「オオオオーーーーーーーーーー!!!!」
その魅力に、もはや雄叫びと化して、男共の声が、会場を震わせる。
その笑顔が、自分にだけに、向けられたものだとわかった一志は、恋の矢でも、撃ち抜かれたかのように、心臓が、跳ね上がった。
もう、これからは、茉璃香のことをただの、知り合いのお姉さんとは、認められなさそうである。
それは、試練が伴うことなのだが、今はただ、この幸福だけに、包まれていたかった。




