56
「オーーーーーッ、ホッホッホッホッホッホッ!」
「来たよ・・・」
前日は、こちらを遅刻ギリギリまで、足止めしといて・・・
はた迷惑にも、また、同じ登場のしかたである。
「環さん。今日は、時間がある日だから、まだいいとして。早朝から、人の家に押しかけるなんて、失礼でしょ」
「アンタが、いうな~~~~~!」
しのぶの、ツッコミも、もっともだが、今さらでもある。
「今日、来たのは、私が、ただの美人で、お金持ちのお嬢様でないことを知らしめるためなのよ!」
「・・・・・・・・・・・」
それに、こっちの方こそ、ツッコミどころ満載だ。
ようするに、自分のことをひけらかしに来たわけだ。
一度、負けちゃったものだから、自分で、なにやってるのか、わからなくなっているのだろう。
「意味のないことに、熱くなるヤツって、女でも、いるんだな~・・」
一志が、力なく、ため息まじりに、そう言った。
「なにせ、こっちには、かつて、世界中の科学者を震撼させたという、科学者の中の科学者。その脅威ゆえに、孤島に隔離されたという、異才の老人の作品をかき集めたのですからね!」
「ほんっとに、意味ないなあ!」
ひさびさに聞いた、不吉な言葉。
これから、平穏な日常は、一気に崩れ去ると、一志に予感させる。
「いや、あきらめるな、俺。毎回毎回、爆発オチなんて、そんなことがあってたまるか・・」
それは、つぶやきというより、嘆きであった。
「フッ、子供達が驚くのも、無理はない。知らないでしょうけど、この国には、不可能を可能にするとまで、謳われた、マッドサイエンティストが、いたのですから」
いえ、親族です・・・とは、言えない空気。
遠慮か、敬遠か、あるいは、両方で。
「たとえば、ここに、透き通るような素肌になれるという、女性にとって、夢のような、アイテムがある」
こちらの苦悩など、つゆ知らず。
環は、腕につけた、小さなコンソールを操作すると、一緒にやって来た、トラックのコンテナが開いて、人間が、すっぽり入りそうな、縦向きのカプセルが現れた。
「なになに、中に入れば、あなたの皮膚色素を七色に、変化できます。背景と同化して、裸で歩けば、誰も、あなたを視認できません・・・って、カメレオンか!」
文法的には、こちらの方が、正しいが・・・
「スッポンポンで、透明人間なんて、まんま、変態でしょうが!」
その通り。
でも、それこそ、喜んで、飛びつきそうなヤツの顔が、一志には、二名ほど、チラついた。
そのカプセルは、早めに廃棄した方が、よさそうである。
「まだまだ!この、男性を惹きつける、音波発生装置なんて・・」
気を取り直して。
今度は、半球体のアンテナが、ぐるぐる回転しそうな、おかしな箱が、出てきた。
確かに、怪電波が、発生しそうなデザインである。
「え~~~と、この装置から、発生する音波は、脳神経の違いから、男には、処理しきれません。周りにいる、男だけをめまい、吐き気、痙攣を起こさせ、撃退できます・・って、引き付けの方かよ!」
どんどん、お嬢様の自が出てくる
「絶対、スイッチ、入れんなよ・・」
この場にいる、唯一の男児が、そう止めたのだった。
最初から、成果など、期待したことはないが、よりにもよって、真逆。
人様に迷惑をかけること、極まりない。
あの老人に対する噂は、全て事実だったのだろうと、しみじみ感慨にふけってしまうのだった。
「まだまだ、とっておきのがあるんから!これなら、名前から、間違いない」
環は、懲りずに、続けて、コンソールを操作した。
「その名も、『誰でも、アイドルになれる機械』!」
・・・・・・・・・
突拍子もなさすぎて、嫌な予感しかしない。
「もう、スイッチ入れちゃえ。なになに、レンズの前で、自由に、歌ったり、踊ったりしてください・・」
いかつくて、古めかしくて、真ん中に、どでかいレンズがあって、やたらと間違った方向に、自己主張してる、黒い塊が、現れた。
「あとは、機械が勝手に、あなたの映像を世界中に、ありとあらゆる、映像機器に割り込んで、投映してくれます・・・電波ジャックかっ!!!」
自己顕示に、世界を巻き込むのか!?
黒い塊が、ウィ~~~~~ンと、起動し始める。
「ちょっと待って。まだ、心の準備が・・」
「言ってる場合か!とっとと止めろ!」
今や、映像は、単なる、娯楽機器じゃない。
あらゆる、職業、医療用や、法的機関や、はたまた軍事施設まで・・それらを全て、自らのビジョン染めるなど、世界転覆レベルのテロではないか・・・という、小難しい話は、おいといて。
一志の頭をよぎったのは・・今いる、環もふくめて、こんな美女ばかりの一軒家が、世界中に即時中継されてしまったら、どうなるかということである。
可能性の話だが、大騒ぎになるのも、功一清隆みたいのを大量発生させるのも、絶対!ご免蒙りたかった。
「止めるって・・どうやって!」
環は、起動した際に押した、スイッチをカチカチと押すだけである。
「勝手にしてくれますって、そういうことかよっ!」
一志は、荷台に駆け上がった。
カメラに、回り込んでみるが、コンセントも、ケーブルらしきものも見当たらない。
「だったら!」
カメラ正面、その、バカでっかいレンズを上着で隠してみた。
「うわっ!」
途端、一志は、ふっ飛ばされる。
『対象ノ撮影ヲ阻害サレマシタ。只今ヨリ、邪魔モノ、排除モード二、以降シマス』
黒い塊から、いつの間にか、十本の腕が生えていた。
「やれやれ!やっぱり、こうなるのか!」
もはや、それは、一志にとって、巨大な目をした、モンスターであった。




