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「オーーーホッホッホッ!お久しぶりねぇ、里政茉璃香さん!」
高笑い挙げながら、登場した女性は、茉璃香と、少なからぬ、因縁があるようだ。
「・・・・・環さん・・・」
だが、当の茉璃香は、その名前を口に出すのに、ちょっとかかった。
どこの誰か?思い出すのに、時間がかかったのか、それとも、できれば、知らない人のフリを決め込みたかったのか・・・
「・・・・・誰?」
一志も、似たような心境で、尋ねてみる。
「あの・・園寺 環さんといって。なんて言えばいいのかな・・私と、同じ大学の同期の人で・・あと、ミスキャンパスで、優勝が決まっていた人で・・」
ピシッ!
・・・・・何かに、亀裂が走ったような・・そんな、怪異な音が聞こえたような気がした。
「そうだったわね~。もう、99パーセント、優勝は、私で決まっていたのに、あとから、ノコノコやってきた、あなたに、優勝をかっさわれて」
「・・・・・」
ため息つきたくなるほど、この女性の正体が、わかってしまった。
園寺 環か・・・
先をカールにしたロングヘアで、足をよく見せた、開いたスカートに、口紅や、ネイルのアートで、派手な印象を与えるが、かなりの美人には違いない・・・
・・・・・のだけど。
外見だけで、勝手に想像するけど、金持ち、美人、高学歴と、三拍子そろったお嬢様も、場合によっては、三重苦に映るのだよな・・・
ミスコンに、優勝とかすれば、箔の一つも付くのだろうけど。
「違うんです!あれは、参加者が足りないからって、どうしてもって、頼まれて。座ってるだけでいいからって言われたから、私も、それだけで、なにもしなかったのに・・」
「ハハッ、それで、優勝とかしちゃうんだ」
一志は、結果に、共感する。
でも、真剣に、貪欲に、猛進的に、それこそを目標としている者にしてみれば、さぞ、許しがたい女であろう。
「フッフッフッ・・しかたない、座ってるだけで、人の栄光に、泥を塗ったってわけね」
環が、赤黒いオーラが見えそうな、素敵な笑顔をしている。
こちらにも、共感してしまう。
でも、お友達になりたいとは、思わないが。
「そんなの!私を追い落とすための、方便に、決まってるでしょ!私ぐらいの、お嬢様だと、存在自体が、羨望と妬みの対象となるんだから!」
「・・・・・」
それは、邪推だとは思うが・・・
余裕で、優勝、かっさらえるほどの美人を差し置いて、ミスコンもないだろうし。
ただ、この環を見ていると、そういうこともあるかもという気もしてくる。
「ようするに、自分が一番きれい。優勝間違いなし、と思ってたコンテストに、体調不良で、大学に通うのが遅れた茉璃香さんに、優勝を奪われて、その日以来、雪辱の機会をうかがってた、ということですか」
そして、当の茉璃香は、そんなこと、まるで、記憶にとどめていなかった・・・と、つなげるのは、かなり、残酷だろう。
「フッ・・まさか、私を破り、学園中の、イケメンとか、金持ちのボンボンとか、将来性ありな助教授の誘いを断りまくってる、教授のご令嬢が、中学生、誘惑して、悦に浸ってるような、変態だったとわねぇ」
鬼の首を取ったような気分とは、まさにこのことだろう。
その綺麗な顔を精神ともども、歪ませている。
だが、言ったことの、前文は誇らしいが、後文に、カチンとくる。
茉璃香自身、どれほど、つらい体験をして、それを乗り越えて、未だ、人並みにない体力で、気丈に振る舞っているか。
それを知らずに、あざ笑うなど、許せない!
「それじゃあ、私が、一志君、からかって、遊んでるみたいじゃないですか!違います!本当なら、彼には、もう可愛い妹さんがいて、私なんて、いらないんだから。ただ、妹さんの、片手間でもいいから、私の方が、かまってほしいだけです!」
「・・・・・」
一志より先に、茉璃香が、一喝してしまった。
自分の性的嗜好が、どう思われてるかなど、二の次にして。
「・・・・・」
環の方も、押し黙ってしまった。
恋愛事で、人をからかっといて、あまりに、真摯に返されると、気圧されるみたいなことが、確かにあるが・・・
「中学生に、横恋慕してる事実は、変わらんでしょうが!」
恋愛観は、けっこう、まともな人らしかった。
「まあ、それはおいといて・・今は、そんなこと、言いに来たんじゃなかったんだった」
なら、最初から、そうしろと、一志は、ツッコミたい。
「秋の孔陽祭!ミスキャンパス!これでリベンジすると、宣戦布告に来た!」
やっぱり、そういう話か・・・
「えっ!?私、出場するつもり、ないんですけど・・」
そして・・茉璃香の性格なら、そういうだろう。
「逃げようたって、そうは、いかない!たった今、私に、弱みを握られたことを忘れてない?!」
「言いふらしたければ、どうぞ。私は、一志君一人が、いてくれれば、それで、いいんですから。それ以外の男性に、言い寄られるなんて、辟易していたところなんですから」
「ギャーーーッ!一度、言ってみたい、異世界の台詞ーッ!」
なんか、どこかで、聞いたことあるような、悔しがりようだった・・・
「あ~~~、もう、勝負してあげたら、どうです?それで、気がすむっていうなら」
一志が、無責任かもしれないが、一つの解決策を提示した。
「えっ!?一志君が、そういうなら・・・」
そして、一志の頼みなら、茉璃香は、断らない。
また、罪なことを言ったみたいだが、純粋に、茉璃香が、そんな大きな・・女性にとって、名誉なことで、栄冠を手に入れられる機会があるというのであるならば、応援したい気持ちがあったのだ。
「オーーーーーッ、ホッホッホッ!子供の言いなりなんて、情けないわねぇ。この私が、誰こそが、淑女として、相応しいか、知らしめてあげますわ」
それと、不純にも、この高慢ちきな、お嬢様をぶちのめしてほしい気持ちもあった。
「それじゃあ、明日、この時間で。どうやら、あなたを捕まえるには、この場所が、一番、簡単みたいですから」
そう言って、環は、登場したときと同じように、高笑い挙げながら、去っていったのだった・・・
「・・・淑女って、無駄に、騒いだりしない、おしとやかな女性のことじゃ、ありませんでしたっけ?」
「その・・・はずだけど・・・」
そこにいた誰もが、同じ疑問を感じずにはおれなかった。




