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「うは~~~~、やっぱ、気持ちいい」
ざぶ~~~ん!と、一志は、シックなプールを堪能する。
「ほら、お前も、来いよ」
「・・・・・えい!」
ちょっと、とまどった後、しのぶは、ピョンと、お尻からプールに飛び込んだ。
「うおっと!」
水しぶきを避けて、しのぶを支えてやると、しのぶも、逆らわず、ギュッとしがみついてくる。
水着でのシチュエーションは、初めてで、一志をドギマギさせてしまうが、問題は、他にある。
「~~~~~~~」
先ほどの機嫌から、しのぶが、回復していないのだ。
一志の責任もあるが、それもやむなしな情景だったのだ。
ならば、そう言って、正直に、誤ればいいのかというと・・・
それは、火に油を注ぐようなものだろう。
しのぶも、それが、わかっているから、むくれているのではないか?
それと、一志とプールだと、ただ、浮かれていただけの、自分自身に。
ならば、しのぶも、ビキニで対抗すればよかったのかというと・・・
それは、補償しない。
それでも、プール底の、タイルを数えたり、手をつないで、バタ足の練習なんて、たあいのない遊びで、やっと笑顔を見せてくれるようになった。
そういえば、今日は、ここに、遊びに来ていたのだったと、今さら、思い出したりもしていた。
あらためて、気分を変えて、この時を満喫しようと決めた、その時、
一志の目に、水面で、やたら変なものが映った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・河童と海坊主?
そんなわけはないのだが、とにかく、それぐらい変なモノが、自分たちから、一定の距離を離れず、浮いては沈み、沈んでは浮かびを繰り返していた。
「・・・・・・・・・・」
「どうかしたの?」
怪訝な顔をしている一志に、しのぶが、尋ねてみたのだった。
「なんでもない。なあ、しのぶ。向こうの端まで、泳いでみないか?」
「えっ!?でも・・・」
「大丈夫。ゆっくりでいいから、ダメなときは、俺が、支えてやる」
「うん!」
しのぶは、元気よく、うなずいて、プールの奥へと、かまえる。
「よしっ。それじゃあ、GO-だ!」
一志の合図で、しのぶは、泳ぎだすと、一志も後を追う。
進んでいくほど、しのぶの泳ぎは、だんだん緩慢になっていく。
最後には、なんだか、犬かきみたいになってきた。
「落ち着いて、落ち着いて。あせらなきゃ、大丈夫!」
先回りして、一志は、しのぶを応援してやる。
「ハアッ、ハアッ!」
息継ぎをつらそうに、バシャバシャと、泳ぐというより、あがいているみたいなしのぶが、やっと近づいてくると、そこで、一志は手をとって、抱き寄せてあげた。
「ゴーーール!」
「ハアッ、ハアッ・・ついたの?」
「ああ。よくがんばったな、ちゃんと、たどり着いたぞ」
それは、どうだか・・・などと、野暮なことを言うまい。
「ハアッ、ハアッ。ちゃんと、泳げるはずなのに・・足がつかないから、あわてちゃって」
「そういうこと、あるよな。頭じゃ、わかってるのに、いざ、そういう状況になると、怖くて、パニックになるみたいな」
「・・・ひょっとして、それをわたしに教えるために?」
「まあ、滅多にないだろうけど、これで、似たような目にあったとき、少しは、ましに、対応できるだろう」
うれしくて、ギュッと、しのぶは一志に抱き着いた。
心配して、応援した兄と、それに応えた妹。
なんだか、ちょっと、いいシーンである。
「清隆ーっ!」
そこで、まるで、空気を読まない、功一の声がした。
「どうした!?傷は浅いぞ!今、まさに、我々が憎むべき光景が展開されているのだぞ。とっとと、浮かんで来い!」
なんだか、必死なようで、決して、応援したくないみたいなことを言ってるが・・
「どうしたのかな?」
「きっと、水難救援ゴッコでも、してるんだよ。清隆の体型で、浮いてこないはずはなだろ。なにか、重石でも、つけているならともかく」
そう言われると、しのぶも、気にしないことにした。
「じゃあ、次は、アイスクリーム食べたい。ちょっと、つかれちゃた」
「残念でした、今度は、わたしの番」
コースの上から、アイリが、そう言うのだった。




