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「いや~、実に、プール日和」
「・・・・・全面ハイビジョンなんだから、関係ねぇだろ」
紫外線100%カットの、投映された、晴天である。
「なんだ?情緒がないなぁ。ホテル側の、心づかいに、イチャモンつけて」
そのとおりだが、この二人がいると、つっこみたくもなる。
「毎度ながら、よく、潜り込めたな」
「人聞きの悪いことを言うな。今回は、ちゃんと、お客様として、ここにいるんだぞ」
「そっちのほうが、得体のしれんわ!」
一見して、一志たち、若年者の場違いな、高級感漂う、ラウンジ、スパに、ボーイまでついた、リゾートプール。
面識なく、招待されたはずはない、この二人が、どんな手段で、この場にいるのか・・・
「まあ、そんな小さなことは、おいといて。とにもかくにも、今日は、この日に、感謝をしようじゃないかな」
デカパンはいた、清隆が、そう言った。
どこぞの、おき物みたいに、しっくりきているが、おかしいのは、体の一部と豪語する、アレを常備していないということだ。
「カメラは、どうした?」
持ってなきゃ、それでいいはずなのに、尋ねずにはおれなかった。
「あまいな、一志。俺たちも、日々、進化しているんだぞ」
「そのとおり。こんなところで、本能のおもむくままに、カシャカシャやってたら、拘束されてしまう」
「・・・・・・」
それは、場所以前に、行動の時点で、配慮が必要なのではないか?
「見よ!通販でそろえた、数々の盗撮セットを!」
はっきり、盗撮だと、言っちゃったよ。
「まず、このメガネ。正面からでは、絶対わからないけど、特殊フィルターに小型レンズ。自らの視線をそのまま映像として取り込み、内の腰に巻いたベルトには、受信装置、ハードディスク、バッテリーを装着」
「その容量は、72時間、連続撮影が可能。もはや、我々にスキはない」
「今日、この日を余すことなく、記録にとどめるのだ」
ビシッと、ポーズをきめる二人。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
犯罪グッズをなんの違和感もなく、装備しているのだから、恐ろしい。
そのうち・・自らの肉体にも、カメラとか、埋め込みそうだ。
「だが、贅沢を言えば、映画で、あったよな、自分の体を機械に改造した、スパイの話。あのぐらい、完全武装がしたいんだが・・」
「うん、うらやましいよね。手が、パカッと開いて、そこから、電子キーや、超高性能カメラが、飛び出したり」
「・・・・・・・・・マジか」
誰か、耳にしていたら、通報してくれないかなと、目を配らせていたら、そこで、元気な声がした。
「お兄ちゃーん」
言わずと知れた、恋人兼妹。
「しのぶちゅわ~ん❤」
「その水着、きゃわいいね~❤」
一志が、見定める前に、二人が、感想を言ってしまった。
立場上、気の利いたことの、一つや二つ、言わねばならないというのに、なんだか、続き辛くなってしまったではないか・・
「あ~~~、うん、かわいいよ。似合ってる」
気を取り直して・・・やってきた、ピンクのフリルのついた、セパレートの水着のしのぶに、なんとか、それだけ言うことができた。
「それだけかよっ!」
「もっと、もっと、ほめてあげるべきでしょ!」
二人に、詰め寄られた。
「へそ出しが、新鮮だねとか、セクシーだねとか!」
「ピンクもいいねとか、肌の色と、マッチしているねとか!」
「もう少し、露出が多くてもいいよとか、いっそ、ビキニとか!」
「水着だけじゃなく、体のラインだって、ステキだねとか、きれいだねとか!なんで言ってあげないの!」
「恥ずかしいからに、決まってるだろーーーーーっ!」
そして、振り払う。
「なんなんだ!正直に言いすぎて、下心ダダ漏れで!映像第一の、お前らと、いっしょにするなーーーっ!」
・・・・・そんなわけで、水着の感想など、言いづらい、年頃である。
「ほんとう・・」
そこで、一志は、てれているのか、はにかんでいる表情のしのぶに気づいた。
「あっ!・・違うぞ!違わないかもしれないが、とにかく、違う!こいつらの言うことなんて、真に受けるな!」
一志は、口走った!失敗した!みたいな気持ちで、まくしたてるが、しのぶの顔を見てると、そうでもなさそうである。
思えば、しのぶにとって、一志が、女性的な部分を意識してくれるなど、初めてのことではなかったか?
今、しのぶの中では、二人の狂言が、一志の台詞に脳内変換されていた。
「あの・・・ね・・」
しのぶが、なにか言いかけた、その時、後ろから、あかぬけた声がした。
「やー、やー、ごめんなさい。二人の、着替えが、ちょっと、長引いちゃって」
やってきたのは、沙江子を筆頭に、しのぶと並び称される美女の二人。
茉璃香と、アイリである。
「うお~~~~~~~~~~~~~っ!」
一志の名誉のために書くが、
奇声を上げたのは、功一と清隆の、二人である。
「ほらほら、一志くんも、二人に、なにか、言ってあげることが、あるでしょう」
「・・・・・」
沙江子に、うながされるが・・さっきも言ったように、水着の感想など、言いづらい年頃である。
まして、二人の恰好。
そろって、ビキニなのだ。
アイリは、赤と青の、ハデな、ストライプ。
茉璃香は、シンプルに、純白である。
「どうだー!水着は、女の戦闘服だと、なにかの本に、書いてあったんだぞ!」
「・・・・・・・・・・」
アイリは、うろ覚えの知識を実践したのか。
茉璃香は、自分で選んで、恥ずかしいのか、頬を赤くして、大きめのバスタオルを羽織ったままだ。
「ああ~~~、生きててよかった」
「理想郷は、本当にあったんだ・・」
感極まってる、外野の声は、無視したいが・・
それぐらい、言ってもいいのかもしれない。
年不相応な、水着であるにもかかわらず、異国の血が、それは無粋だと、言わしめてしまいそうなほど、着こなしてるアイリに、無駄な肉がなさ過ぎて、グラビアアイドルでも、嫉妬しそうな茉璃香。
あと、沙江子も、黒のワンピースなのだが・・一志ほど、大きな子供がいるとは思えないぐらい、魅力的な女性であるには違いない。
これに、先ほどまでの、しのぶが加われば・・・
「!?」
イヤな視線に、一志は、振り向くのっだった・・・
予想通りに、泣いているのか、怒っているのか、そんな中間の顔をした、しのぶがいた。
「~~~~~~~っ」
さもあろう。
なにしろ、たった今、一志の前でだけなら、してもいいかな、みたいな決意をした、そのままの姿をライバルたちに、先にこされてしまったのだから。
相変わらず、間が悪いというか・・
それに、一志の方も、半分、ごっことはいえ、
恋人の前で、他の女性に、目を奪われるなど、マズイと感じていた。
今、水着でなかったら、どこぞに隠し持っていた、自動小銃で、蜂の巣にされていただろう。
「ん~~~~~~~~~っ!」
くやしくて、言葉にならないのか、しのぶは、一志の腕に、自分の両腕をからめて、ただ、連れて行こうとする。
「まてっ・・キャッ!?」
ついて行こうとするアイリを茉璃香が、後ろから、優しく抱きしめて、止めたのだ。
「最初ぐらい、譲ってあげましょうよ」
アイリは、言葉より、抱擁力に・・いや、包容力に、動けなくなってしまう。
柔らかくて、肌と肌とが触れ合う場所が、心地よくて・・・・・もう、抱擁力で、いいだろう。
これはもう、馴染みのないアイリでなくても、逆らえない感触である。
「んんのおお~~~~」
その光景に、悶絶している輩もいたが・・
茉璃香にとって、計算したわけではないが、一志としのぶを二人きりにしてあげる思惑は、成功したわけだ。




