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「あててて・・・」

 昼時まで正座をさせられ続けて、痛みと痺れで動かない足で、一志は食堂まで這うようにたどり着いた。

 テーブルにある電子メニューを操作して注文して、届くまでのわずかな間、テーブルに突っ伏して足を振って回復させていると、向かいの席に、誰かが腰掛けてきた。

「しのぶ・・・」

 顔を上げると、そこにいたのは、功一と清隆いわく、可愛い妹、しのぶだった。

 ちょうどその時、給仕ロボが、カレーライスを運んできたので体を起こすと、間をおかず、しのぶの方にも、二代目のロボットが、サンドイッチとミルクを届けてきた。

・・・ということは、他の席で注文して、わざわざこのテーブルを指定したことになる。

「なんで、いつもいつも、俺のそばにやってくるんだ」

「だって、お兄ちゃんがいないと、いろいろ理由作って、男の子が集まってくるんだもん」

「・・・・・」

 一志は、他の気の合う女子とでも、という意味で文句を言ったのだけど、その女子が聞いていたら、羨望か嫉妬の視線で貫かれそうな答えが返ってきた。

 男子が聞いても同じことかと、一志はつい、周りに気を払ってしまった。

「ねえ、さっきのケンカの原因、なんだったの?」

 サンドイッチに手を出しながら、しのぶがそう、当然の質問をしてきた。

 武士の情けというか、先ほどの喧嘩の内容は、誰にも伏せてあった。

「あれは・・・なんでもねぇよ!」

 無邪気な瞳に、得体の知れない気恥かしさを覚えて、カレーをかき込んでごまかした。

「な~に、それ、ねえ、ちゃんと教えてよ」

「あ~~~っ、そういや、今度の連休、どうしようかな~」

 一志は、強引すぎるほど、話題を変えようとする。

「せっかくだから、どこか遠くでも行きてえな~」

 しのぶとしても、そうふりたい話題だったので、逆らわなかった。

「わたし、どこか、海とか行きたい」

「海か・・・」

 海と言われれば、一志の記憶をよぎるのは、しのぶと再会したあの海岸だった。

 創時郎が死んで、身寄りのなくなった子を預かるために、あの島の海岸にやって来たのだった。

 なんだろう・・やむを得ない事情によって、何年も引き裂かれたはずなのに、その時を思えば、逆にそれでよかったみたいに感傷に浸ってしまうのは。

 それが、一年前で・・・そう、もう一年になるのか。

 一応、世話になった人物だし、キリのいいところで、一度ぐらい、墓参りを兼ねて、あの海に訪れるのも、悪くないかもしれない。

「行ってみるか・・あの海に」

「えっ!?本当」

「んあ?」

 一志が、声に反応すると、そこには、やたら期待にキラキラと輝く双眸そうぼうがあった。

「・・・・・な、なんだよ、連れてくなんて言ってねぇだろ」

 嫌な予感に苛まれながら、一志はそう呟く。

「やだ!行きたい。連れてって」

「もちろん、俺も同行させてもらえるんだろうな!」

「俺たちでしょ。旅先での思い出を残すのは、やっぱり僕の役目でしょ」

 いつから居たのか、まるで床から這い出したみたいに、功一と清隆が現れた。

 清隆に至っては、すでにその手にデジカメを装着済みだ。

「テメーら、どこから湧いた!」

「フッ、愚問だな。我々は常に、しのぶちゃんのいるところを標的にして、校内を徘徊しているのだよ」

「その通り、いつでも話題に入れるように、会話を盗み聞くなど、造作もないこと」

 ストーカーか・・

「とにかく、俺たちに聞かれたからには、二人きりになれると思うな。俺たちの手にかかれば、移動手段の記録を読んで、先回りするなんて、簡単なんだからな」

 多分、本当だろう・・

「その通り、こんなチャンス逃すもんか!うみー!、すなはまー!そしてそして」

 清隆は、デジカメを手に、明後日の方向を夢見る。

 脳内では、すでに、水着姿のしのぶがプリントアウトされているのだろう。

「もう行かねー。中止だ中止!連休は、家でゴロゴロしてるぞ」

「そんなのいやーん、行こうよ、うみー」

「その通り、ここでしのぶちゃんのおねだりを断るなど、漢として許されん!」

「それ以前に、僕たちが許さない」

「ああーーー、もう、勝手にしろー!」


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