アイリス イン
ぐいっと、
自販ロボットと応対していた一志の腰のあたりを横から引っ張られた。
「・・・ん!?」
目をやると、そこにあった・・いや、いたのは、小さな女の子。
しのぶより、さらに頭一つ小さくて、それだけなら、一志の気をさほど引くものではなかったが、
目を奪われたのは、その子の容姿である。
白い肌に、地面にとどきそうな、金色の髪、遥か異国の血を感じさせる碧い瞳。
自分より、いくらか年下の少女であるにもかかわらず、綺麗すぎて、一志は存在を不思議に思えた。
・・・迷子であろうか?
まるで、神々の物語から、そのまま飛び出したような姿から、そんな、当たり前の答えを出すのに、しばらくかかった。
辺りを見回しても、この子に関連がありそうな、イベントや、人物は見当たらない。
少女は、なにも言わず、一志の腰を掴んだままだ。
邪険に振り払うこともできないし、
こうなれば、事情を聞くにしても、優しく、同性の方が良いだろうかと、二人のところへ連れて行くことにした。
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その結果が、これである。
「バカバカバカ!」
「いてて、いていていて」
しのぶの、容赦のない、制裁である。
「わたしはただ、お兄ちゃんを普通に好きでいたいだけなのに!」
「普通に恋愛したいだけのヤツは、こんなもん、撃ちまくったりしなーい!」
一志の抗議も虚しく、飛び交う弾丸は、確実に一志を追い詰めていく。
「ちょっと、一志君の話も聞いてあげて・・」
茉璃香は、さすがに止めようとしたが、聞こえちゃいないようだ。
ならば、もう、弾が尽きるまで撃たせるしかないのかというと、ゴム弾は、内部に圧縮収納でもされているのか、一向に尽きる気配はなかった。
「スケベー、女好きー、見境なしー、ロリコン、けだものー。エ~~~ン」
しのぶは、思いつく限りの罵声を浴びせるが、もし一志がそのとおりに、女に手当たり次第な性格だったとしたら、自分など、真っ先に、その餌食であろうに。
「泣くか、撃つか、文句を言うか、どれか一つでもやめろ!」
一志の反論も、追い詰められてるせいか、どこか妙だ。
「いや~、私の娘が、手間をかけさせたようだね」
その最中に、調子良さそうな声が、横からかかった。
「聞けば、私の娘が原因のようだし・・」
攻撃が、ピタリと止んで、いまさら手遅れだとは思うが、しのぶは、ハンドガンを後ろに隠した。
「はじめまして、柚月一志君。私は乙星王冶、君のお爺さんとは、旧知の間柄でね。この子は、娘のアイリだ」
「はぁ・・・?」
眼鏡をかけた、グレイのスーツの男に、そう声をかけられて、一志は、気のない返事を返した。
薄情にも、『お爺さん』などと言われても、誰のことだか、ピンをこなかったからだ。
「とりあえず、今日は顔見せということで、では・・」
そう言うと、男は、女の子の手を取って、スタスタと立ち去ってしまった。
「なんだありゃ?」
呆気にとられて、しばし呆然としていた。
「あの人、確か・・」
茉璃香の方が、何か心当たりがあるような口ぶりをしたが。
「知ってる人で?」
「父の知り合いに、あんな人がいたような・・一志君の方はどうなの?君に会いに来たみたいなこと言ってたけど」
「いえ、まったく。ただ・・・」
創時郎との、旧友みたいなことを言っていたが、
ならば、どんな人物でもあり得るという反面、どんな人物でも安心できないみたいな警戒心が涌いた。
そもそも、友人なんて、できたのだろうか?
「・・・・・・・・・・」
一志の真摯な・・あるいは、切羽詰った面持ちをどう受け取ったのか、茉璃香が、心配そうに提案してみた。
「気になるのなら、私の家にくれば、もっと詳しくわかるけど・・」
「絶対ダメッ!」
そうだった。
反対する娘が、ちゃんと、いたのだった。




