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「どうやら、本当に大したことなかったみたいだな・・」
一志が、先行して、二人を連れ出すと、もう事態は終息に向かっていた。
「で、原因はなんだ?」
「それが、例の龍の頭です。こちらで、原子記号を打ち込こんで、それを忠実に、吐き出す装置ですが、我々が取り合いのさなかに、水の原子記号を一コマ開けて、指示したせいのようで・・」
「H2と、O・・・水素と酸素か」
「はい、あとは適当な火種・・静電気や、来場者のタバコでもなんでもあれば、ドカンというわけでして」
一志は両側から挟まれて、動けない状態で、金田と月登の会話を聞いていた。
爆発の被害は、最初の一回のみで、
そもそも、爆発のエネルギー自体がさほどなく、密閉された空間で行われたため、派手な効果を生んでしまっただけのようだ。
・・・・・つまり、一志が劇的に登場する意味など、さほどなかったわけだ。
「あのね、さっきのおにいちゃん、ものすごくカッコよかったよ」
左腕にしがみつかれた妹にそんなこと言われても、小っ恥ずかしいだけだ。
それで、振り払おうにも、右腕の方は別の女性に掴まれて、身動きできない状態である。
「テレなくても、いいじゃない。本当のことなんだから。まるで、高い塔からお姫様を助けにきた騎士みたいだったよ」
だから、そんなこと言われても、恥ずかしいだけだというのに・・・そして、それ以上に、いたたまれない。
騒ぎを聞きつけて、当然、野次馬も集まり出すが、事故より、こちらの方が注目されてる気がする。
「・・・あの、周りから・・見られてますけど・・・」
「爆発こわ~い。もうちょっと、こうしてたい」
「いや~ん、私また倒れそう」
息を合わせて、一志が知らぬ間に、なにがあったのか。
これじゃあ、ヘタにケンカされるよりタチが悪い。
「じゃあ、このままでもいいから、とっとと移動しますよ!人目につかない、山奥でも」
これ以上、人が集まられてはかなわないと、一志は場所を変えることにした。
・・・・・それと、もう一つ。
「こっちは、単純な入力ミスなんですよ。なんなんですか?この、おせっかい設定は!」
「俺は知らん!製作者は、なんでも孤島に住む、異才の老人とかなんとか・・」
なんだか、ものすごく不吉な言葉を聞いた気がした。
きっと、気のせいだろう。
前半で、トラブルのポイントは概ね使い切ってしまったようで、それからは、滞りなくパーク内を楽しむことができた。
それでも、一志にしてみれば、一際目を引く二人連れで、気が気ではないが・・・
そんな視線にも慣れてきた・・というか、もう、開き直って、羞恥心もマヒしだした頃は、午後を軽く回っていた。
茉璃香はもちろん、しのぶまで疲れてきたようで、二人をベンチに座らせて、一志は、なにか飲み物でも買ってくると、その場を離れた。
「・・・・・・・・・・あのね、二番目でもいいって言ったよね」
二人きりになって、しのぶから、なんとなく、そんな言葉を口にした。
「な~に、私と一志君の仲、認めてくれるの?」
「そこまでいってなーい!」
あの事故で、茉璃香が本当は、悪い人間ではないことは、わかったし、本気で一志のことを好きでいることもわかった。
なにより、誰かを好きでいられる、そんな素敵な気持ちを共有したい気持ちが、しのぶの中にもあったりする。
(それは、同じ人を好きになった場合、たいてい、悲劇か、喜劇かに、突入する)
ジレンマの中で、本当になんとなく、そんな言葉を口にしてしまった。
「ありがと。でも、彼のためになることと、彼が喜んでくれることをすることには、遠慮も手加減も、する気はないからね」
「やっぱりダメ!」
さもあろう。
二人が、そんなコントをやっていたら、ポケットに、ジュース缶を詰め込んだ、一志が戻ってきた。
「お兄ちゃ~・・・ん!?」
一志に泣きつこうとした、しのぶの声が、途中で疑問符に変わる。
「遅れたかな、じつは、そこで迷子を拾ってさぁ」
そう言って、一志は、自分の胸までもない、小さな女の子を連れていた。
「イヤーーーーーッ!また、女の子連れてきて!」
ポシェットから、ハンドガン取り出して、迷わず一志に向けて構えた。
「お前、そういうもんは、家に置いてきたんじゃ・・」
持っていたことは、否定しないらしい。
一つの彼女が、解消される前に、新たな女の子を引き連れて、
同時に処理できないしのぶは、躊躇せず、そいつをぶっぱなした。
「ギャーーーッ!」
オモチャのゴム弾であるはずなのに、後ろの花壇を吹っ飛ばし、広告パネルに穴を開け、容赦なく、一志の体にめり込んだ。
困ってる女の子を連れてきただけなのに、あまりにも酷い仕打ち・・・・・ではあるが、案外、そうでもなかったということは、また次の話ということで。




