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「ごめんなさい・・」

 そして、ここは休憩所。

 やっと、落ち着いた呼吸を取り戻した茉璃香が、それだけを発した。

「いえ、謝らなければならないのは、こっちです」

 あれから一志は、まず茉璃香をシートに仰向けに寝かせ、そこでギョッとして、あわてて、茉璃香の姿勢を横にした。

 意識があるかどうかわからない人間は、たしか体勢を横にすべきだという、うろ覚えの知識をそのあとで思い出した。

 次に、医者を呼ぼうかとしたが、それをかたくなに拒否した茉璃香の意思を一応尊重して、自分の着ていたものを掛けて、そばに着いててあげるだけにした。

 その間、一志はずっと自分を責め続けていた。

「そんな顔しないで、私の方が、気にさせないように振る舞ってたんだから」

 その通りではあっても・・いや、その通りであればこそ、配慮なく、このような結果を招いてしまった自分自身が腹ただしいのだ。

 再開した時から気づいていたはずなのだ、その不自然さには・・・茉璃香が病弱な体を押して、健康な演技をしていたことは。

 加えて、さっきはまるで八つ当たりするみたいに、しのぶを怒鳴りつけてしまった。

 最低である。

 ちゃんと話せば、わかってくれる娘だと信じていたはずなのに・・・

 そうやって、自責の念に駆られ続けていることが、さらに茉璃香を苦しめていることにも気づかないほど、一志は落ち込んでいた。

「よーし」

 掛け声上げて、茉璃香が起き上がろうとすると、やっぱり一志は止めようとする。

「まだ、横になっていた方が・・」

「もう平気、最初からたいしたことないんだから、本当に気にしないで」

 全く説得力のないことを言いながら、茉璃香はシートに腰かけた。

「さあ、いい加減、しのぶちゃんを迎えに行ってあげないと」

「どうせ、遠くには行ってませんよ。ほら、見つかった。あいつの居場所はGPSですぐわかるんです」

「・・・・・・・・・」

 逃げ出した意味が、あまりないような・・・

「じゃあ、私が行ってあげてもいい?」

「えっ!?でも・・」

「心配しなくても、ケンカなんてしないわよ。ちゃんと話し合いたいの」

 一志の心配は、当然そんなことではないのだが、なにか茉璃香の意思みたいなものを感じると、ダメだとは言えなくなってしまった。

「そりゃあ・・あいつの居所は1メートル単位でわかりますけど、どうやって捕まえるんです?後ろから忍び寄って、縄かけるわけにもいかないでしょう」

 まるで、小動物か?

 保護したくなる生き物という認識は、あまり変わらないか。

「逃げ出されたら、私では捕まえられないかな。それでも、あの子に聞いてほしいことがあるの。お願い、私に行かせて」

 やはり、相応の意思あっての行動なのか・・そこまで言うなら止められないと、一志はしのぶの位置データーを茉璃香に送った。

 本当に、遠くに行ってなかった。

 ここでの会話が聞かれていたのでは、というぐらい近く。

「それじゃあ、行きますか」

「ダメよ、キミと一緒だと、また、しのぶちゃん、ヤキモチ焼いちゃうでしょ」

「ヤキモチって・・・」

 揶揄するように聞こえただろうが、他に言い方もないのでしかたない。

 でも、こんなやりとりで、気持ちと体が軽くなったような気がするから、不思議だ。

 しっかりと立ち上がって、ちゃんと自覚して、体に負担をかけないように歩き出す。

 さほど離れてない、植え込みの影。

 そこに、目的の少女はいた。

 うずくまって震えて、泣いている違いない。

 さて、どうするべきか・・・

 やはり、逃げられないよう、後ろから抱きしめてやるのがいいだろうか?

 でもそうして欲しいのは、きっと、自分ではないと、茉璃香は思いとどまる。

「ほ~ら、そんな大きな瞳で泣き続けたら、目玉がこぼれちゃうよ」

 優しく、そう話しかけて、しのぶは振り向いてくれた。

「いや~~~~~~~~っ!」

 予想どうり、しのぶは悲鳴を上げて逃げ出した。

「なんで!?どうして?いやー。こないで!こないでよ」

「待ってー!話を聞いてー」

 やっぱり追いかけっこになった。

 茉璃香に任せる約束ではあったが、ついて行かないわけにもいかない。

 一志も、少し間を開けて、走り出した。

 やがてしのぶは、巨大なドームにたどり着き、そこに飛び込んだ。

 息もたえだえに、茉璃香も、その後を追う。

 そして、次が一志であったが・・・・・


ボウンッ!


 その時、ドーム内部で、爆音がしたかと思ったら、閉じ込められてる空気が出口に殺到して、一志は吹っ飛ばされたのだ。

「なんだ!?なにが起こった?」

 くるりと、綺麗に一回転して着地すると、現状を把握しようする。

 これも演出、アトラクションの一つなのかという考えがよぎったが、すぐさま振り払った。

 自分自身が吹っ飛ばされて、そんな希望的観測にすがれるわけがない。

 なにより、場を緊迫させるのが、先に飛び込んだ二人の安否である。

「しのぶー!茉璃香さん!」

 衝撃に痺れる足を押して、ドーム内に向かおうとした。

「かずし~」

「ギャーーーッ!」

 その痺れる足首をおどろおどろしい声と共に、掴まれて、思わず蹴りはがした。

「・・・功一清隆」

 もはや、固有の名詞を呼ぶ気にもなれない。

 地面に這いつくばって一志を止めたのは、自称親友であった。

「よく生きていたな・・」

 二人の身に何が起こったのか、詳細に把握してるようだ。

「危うく、死んだイボガエルのガー君に乗って、石ころばかりの川を渡りきるところだったぞ」

 それはそれは、なんとかいう体験であろう。

「そんなことより、一人でいるところを見ると、とうとう愛想つかされて、おいてけぼりを食らったようだな。ハッハッハ、ザマーミロ」

 現状を都合よく誤解してくれてるが、そっちの方がマシか・・

「お前らこそ、よくそんななりで、こんなとこにやって来ることができたな・・・」

「フッ、僕たちの手にかかれば、ここのコンピューターにハッキングして、仮のキャラクターを割り込ませるなど、造作もないこと」

 清隆が得意げにそう言うが、そんな意味ではない。

 こいつらもこいつらだが、こんな奴らをほっとく、ここの管理体制も、大問題だ。

 いくら、データのスキを突かれたとはいえ、こんなものがうろついていることを誰も変だと思わないのか?

 それとも、ここの創作理念は、こんなものでもまかり通るほど寛容なのか。

 だとしたら、こんな変なものが、他にも、そこらへんから飛び出す可能性があるとでもいうのか?

 まさか、いくらなんでも、そんなことは・・・・・

「あ~、えらい目にあった」

「ギャーーッ!出たーーっ!」

 一志が、唖然としていた視線の先。

 そばの係員用のドアから、ゴロンと黒い塊が転がり出てきた。

「園長。なにもしていないのはわかりますが、お客を驚かすのは、担当の者にまかせて下さい」

 続けて、同じく黒く染まった、ススだらけになってる、頼りなげな警備員服の青年が現れた。

・・・・・・思い出した。

 異常事態が続いて、認識が飛んでいたが、今は、非常事態でもあったのだ。

「ちょっとまったーっ!さっきの音なんだ?!中で何があった?!」

 一志は、我も忘れて、青年の方に詰め寄った。

「落ち着いてください。大したことありません、中でちょっとした爆発があっただけです」

「意味がわからん!中に人がいるんだ。早くなんとかしろ!」

 掴みかからん勢いをその間に伸びてきた、大きな肉塊のようなものに阻まれた。

「言う通りだぞ。もっと自らの責任を自覚して、たとえ相手を安心させるためであっても、慎重に言葉を選ばねば」

 伸びてきたのは、腕のようなものだった。

 おかげで、一志もいくらか、自分を取り戻した。

「とにかく、知り合いが中にいるんです。すぐに無事を確認しないと」

「ナニーッ!知り合いとは、しのぶちゃんたちのことか。ならば、我々も駆けつけて、ポイントを稼ぐのだ!」

「ラジャー。この大したことないという状況を最大限に利用するんですな!」

 どうも、聞かれたくない輩に聞かれてしまったようだ。

 一応、助けに行くつもりなら、止めることもできないか。

「我々も行くぞ!来客の避難誘導と救助。一人の犠牲者も出すな!」

 三匹が、狭き門に押し寄せる。

 そこで、出てきた他の客と鉢合わせした。

「あ~、えらい目にあっ・・・ギャーーーッ!」

 幾人かの見知らぬ女性が、まとめて失神して、ひっくり返った。

「なんだ?なにがどうした?」

「園長、混乱が増すばかりですから、あなたは、隠れておとなしくしていてください」

「なんだ?どういう意味だ?」

 本当にわからないといったふうに、肉塊が辺りを見回すと、そこでやっと気づいたのか、黄色いサボテンと、緑のカニを見つけた。

「なんだお前らは?」

 この顔で凄まれると、この二人でもビビってしまうものらしい。

 ワームのような腕に肩を掴まれて、足が宙に浮きそうだ。

「やだな~、この『ユウェンタース・ランド』のマスコットキャラ、ラディッシュくんと、ロブスターくんですよ・・」

「そうそう」

「わけのわからんキャラを作るなーっ!俺は、ここで活躍するキャラクターは、すべて記憶してるんだ!さてはお前ら、無断侵入者だな。三人も気絶させおって、許さん!しょっぴいてやる」

 一志にとって、ありがたい展開で、どうやら信頼に足る人物のようだが、それにしても、わからないことが一つある。

「仕事熱心もいいんですが、こういう時ぐらい、着ぐるみは脱いで・・・」

「こっちは、生身だつーの!」

「やっぱり、そう思いますよね~」

 そういう青年は、なんだか、同情を求めてるみたいだった。


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