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「エリア13にて、トラブル発生。スタッフ、急行してください」
「どんなトラブルだ?」
「なんでも、起動中のタイタニックハンマーに、誰かがへばりついたとかなんとか・・」
「あんなものに、何がへばりつくと言うんだ?」
「今、人間かどうか確認しています。どうせ、なにかの見間違いか、いたずらか、我々が出向くほどのことではないかと・・」
常識的な見解をして、月登は椅子に腰を下ろす。
なにしろ、先ほど張り倒されたダメージが抜けきっていない。
「ならば、そんなヘンな物はほっといて・・」
月登の、なにか言いたそうな表情に気づかず、金田はキーボードに指を走らせる。
「こちらも、そろそろ、こいつの準備に入ろうか」
モニターが切り替わって、まるで、どこかのジャングルのような光景が映し出される。
「なんですそれ?」
「ここの真上のドーム、サファイアパークを飛び回る、ドラゴンのリモコンだ」
金田の右手には、操作スティックが握られている。
サファイアパークといえば、異世界の森をイメージした人工の森で、本番では、ここを入場を自由にして、宝箱さがしのイベントも考えているとか。
「ドラゴンということは、そこを徘徊させる、モンスターの一つですか?」
「そうだ、ぶっちゃけ竜を模した飛行船だな。とりあえず、今日はここで操作するが、客に受けるタイミングを計って、口から火を吐くこともできるんだぞ」
金田が嬉しそうにそう言うと、月登は逆に不安になるのだった。
「これがリモコンだ。試しに、動かしてみろ」
操作スティックを手渡されて、適当にいじってみると、モニターからの映像が、ゆっくりと変化する。
『わぁ~~~、ドラゴンだ!ドラゴンだ!』
モニター越しに、はしゃいでる子供の声が聞こえると、なんというか、優越感みたいなものがある。
「まぶたと口と髭と、あと火炎放射の操作はこちらのキーボードで行う」
金田が、カタカタとキーボードを叩くと、真っ赤な炎と、それに驚く来客の姿がモニターに映し出される。
「次はこれだ!」
さらに指を走らせると、今度は、黄色い炎が飛び出した。
『きゃ~~~~~~』
「お~~~~~~~」
月登も、来客と同じように驚いてしまう。
「なんです、今の?」
「これが、この竜の最大の特徴だ。炎に色をつける物質、今みたいに、リチウムだのナトリウムだの、こちらで原子記号を打ち込むだけで、それらを合成してくれる。あと、炎で熱くなりすぎたら、こんなこともできる」
シューーーと、白い煙がモニターを覆った。
「霧・・いえ、水蒸気ですか?」
「そう、注文と完成は、だいぶ前にしていたのだけど、公開するイベント自体がお蔵入りになって、倉庫で、ずっと埃をかぶっていたものを今回、私がイベントごと復活させたのだ。そうだすごいだろう!」
「・・・・・・・・・」
金田に『すごいだろう!』などと、拳をにぎりこまれて、月登は、凄んでしまった。
とりあえず、気を取り直して、モニターに注目する。
竜から送られる映像は、ゆったりと漂っているようで、たまに客を見つけては、そちらに迫ったり、火を吐いたりしてやった。
『わーーー!』
『キャーーーーーー!』
客の反応が月登の童心を刺激して、見下ろしているような、一緒の遊んでいるような、そんな楽しさに導いてくれる。
「なるほど、アルミニウムは銀、バリウムは緑か。あっ!あの娘、可愛い、あっ!次の娘も。じゃあ、ちょっと暑そうだから、水のプレゼントだ」
「いつまでも、なに遊んどるんだ。いい加減にしろ、てゆうか、代われ!」
「園長横暴、あなたなら、こんなもの使わなくても、鏡見て、自分の顔でも、つねってればいいじゃないですか」
「ビーナスだと言っとるだろうが、ちょっと待てい!今のどういう意味だ!?」
大の大人と、巨大な大人がオモチャの取り合いをする、非常に絵にならない光景である。
ここらへんの詳しい描写をはしょっていたら、モニターの向こうが、閃光に包まれた。




