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「エリア6、7異常なし、エリア8、ショップにて、アイスクリーム製造機にトラブル発生。工務の方、急行してください」

 ここは地下のモニター室。

 月登は、とりあえず大きなアクシデントのない現状にホッとする。

 本番に備えての予行訓練が、本日の大きな目的ではあるが、そんなことが最初からなければ、それに越したことはない。

 いれば、この部屋の半分を占めてしまいそうな上司が、小用だと席を外していて、月登は開放感から、思い切り背伸びをする。

 なんだか、この薄暗い地下室が、今だけは、青空の下の草原のように快適に感じられた。

「ほんっっっと、一点を除いて、ここは恵まれてるよな・・」

 反動による錯覚も、ここまで来ると珍しい。

「やっぱ、贅沢かな」

 モニターには、慌ただしく駆け回る、先輩や同僚にあたるスタッフが、あちらこちらにと映し出されている。

 本番では、さらに忙しくなるであろう。

 汗水流してる連中を空調の効いた部屋で眺めてるだけでいいというのだから、かなり楽させていただいてるわけだ。

・・・・・おやっ!と、その時、椅子に反り返った視線の先。

 モニターの隅で、えらく変なモノが横切ったような気がした。

 あまりの変な物体であったために、目をこすり、改めてモニターを確認するが、そこにはなにもなかった。

 おかしい。

・・・・・月登の視覚が確かなら、それは斑模様まだらもようのカニと、おうど色のサボテンに見えた。

 そりゃあここは、人の想像の世界を具現化したところで、思いつく限りならなんでもアリなわけだが、あくまで、いたらいいなと期待してしまう範疇でである。

 あのような・・思いついた人間の精神を疑ってしまうみたいな、怪しくて不気味なものがいるワケが・・・・・

「おーし、異常はないか?」

「ギャーーーッ!いたーーーっ!」

 突然開かれたドアをくぐりながら現れた新愛すべき上司に、月登は悲鳴を上げた。

「なにをそんなに驚いとるんだ?我々の管轄なんだ、べつにノックはいらんだろう」

「いえ、そういうことでなくて・・」

「ほら、時には息抜きも必要だろう。アイスがあるぞ」

「それはいいんですけど、なんです?その顔は」

「いいだろう。ついでに、売店で買ってきたのだ」

「・・・・・・・・・・・・」

 ノーコメントとばかりに、月登は押し黙ってしまった。

 金田の顔に張り付いているのは、確か現在放送中のヒーロー戦隊のものマスクで、その中でもとくに人気な、ブラックのマスクであった。

 ただし、今はそれが金田の顔の形に、パンパンに膨らんでるんものだから、憧れのクール系ヒーローのマスクが、ヘドロのスライムみたいになっている。

「でもまあ、誰だかわからない格好で、いきなり部屋に入ってくるものじゃないな」

 いや、そこは問題のようで、問題でない。

「ほ~ら、これでいいだろう」

 よくぞ耐え抜いたマスクを剥ぎ取ると、ぶるんと金田の顔が現れた。

「キャー!そっちの方が怖ーい」


 バチョン


 思わず出た本心に、月登は容赦なく張り倒された。

 やっぱり恵まれてない、絶対恵まれてない・・・床の感触にひたり、飛びそうになる意識のさなかに、月登は心底そう思った。


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