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「・・・で、いつの間に、こういうことになったんです?」
「一志くんが、寝ている間にね。なんなら、その時、二人の女の子がどうやって一志くんを取り合ったか、詳細に説明してあげましょうか?」
「別にいいです・・」
一志は、力なく即答する。
時は変わって、デートの当日である・・・・・ただし、一志はそう認識していない。
「なに、浮かない顔してるの?可愛い子二人に取り合いされて、結構なご身分じゃない」
その通りではあるのだろうけど、一志としては、二人のことを恋愛の対象としては、いまいち認めてない。
考えすぎだと思われるかもしれないが、それぞれワケありの娘たちをこれ以上傷つけないようにするかで、手一杯である。
「しのぶ!いっきま~す」
いきり立って、しのぶが部屋から出てきた。
その意気よろしく、アーミールックで現れた。
「・・・しのぶ、お前の気持ちは、よくわかったから、着替えてきなさい!」
迷彩服など、なんで持っているんだか、装備している品々も、もちろん玩具だろうけど、しのぶが手にしてれば、侮れない。
「どこの戦場に出向く気か知らんが、勝負なんて、意味ないって、俺にその気がないんだから」
「そうね・・たった一度のデートで、この二人のうち、どちらか選べなんて、もったいないもんね」
「うん・・・・・・・・・・そうでなくて!」
一瞬、納得しかけたような・・・
「からかわれてるだけだって!俺も、お前も。わざわざ、お前の分までチケットを用意してさ。本気なら、自分に釣り合う男をいくらでも見繕えるような人だぞ。タダ券も貰ったし、ちょっとぐらい、そいつに付き合ってやってもいいだろ」
一志から見えない位置で、沙江子が首を横に振り、しのぶは、まったく納得していない様子であった。
「・・・でもまあ、勝負と言っても、それで一志くんに嫌われちゃったら、本末転倒だよ。しのぶちゃん、それでいいの?そうなりたくなかったら、今すぐ着替えてきなさい」
これはさすがに、しのぶの胸を打つものがあったらしい。
バタタと、慌てて部屋に飛び込むと、二度ほど沙江子に見立ててもらって、フリルのついた、白いワンピースという、無難な格好で出てきた。
それでも、素材はいいのだから、初めて見る人は、まるで白い子ウサギのような、庇護欲を掻き立てられてしまうだろう。
今でた一志のため息は、感嘆だろうか、嘆息だろうか・・・
二人は、やっと家を出て、沙江子に手を振られ、見送られなが出発した。
「いってらっしゃ~い。今夜は帰ってこなくてもいいからね~」
「違ーーーーーーう!」
ご近所中に知れ渡るような声で、なに言ってんだー!
「ここか・・・」
やって来たのは、『ユウェンタース・ランド』
中世の幻想世界をイメージした、若者向けのテーマパークである
茉璃香から渡されたチケットを見ると、本日は予行オープンのようで、来週の本番に向けての、関係者とその家族のみの招待である。
休日の午前、まだ早い時間で、開場前にたむろってる人もまばらである。
この中で、人を捜そうとしたら、先に相手の方に見つけられて、こちらに駆けてきた。
「お待たせー」
なびく髪に、揺れる肢体。
一箇所だけふくよかな部分は、自己主張してるわけでもないいのに誇張され、飛び跳ねるたびに、辺りに魅惑の魔法でも振りまいているかのようだった。
捜していた一志でなくとも、その優美な光景を目に焼き付けてしまう。
「待った?」
「いえ、今来たところで・・」
惚けたように、お約束のセリフを吐くが、その通りなのだからしかたない。
逆に、茉璃香のやってきた後ろで、走り去るオートタクシーが見えたことから、そこで待っていたのは、茉璃香の方ではなかったのだろうか。
別に、そんなに見つめ合っていたわけでもないのに、一志は後ろから、それを非難するかのような、ものすごく嫌な視線を感じた。
だが、茉璃香は視線の主に物怖じすることなく詰め寄ると、遠慮なく、その両頬をつまんだ。
「ムギュ!」
「ほ~ら、スマイルスマイル。これからデートってときに、なんて顔してるの?」
一応、状況的に怒ったら負け、みたいな判断力は残っていたようで、しのぶは、やや引き攣りながらも、笑顔を作った。
「そうそう、自然に、普通に、まず一番に、楽しまないと」
簡単にしのぶをなだめてしまった茉璃香に、一志は大人の余裕みたいのものを感じた。
ただ・・・自然に、普通に、と言われても、それは無理のようだ。
まずは、茉璃香の格好だ。
キャミソールに、ショートパンツと、季節柄、珍しくない服装なのだが、着る者が違えば、その魅力は大きく飛躍する。
相変わらず、幻想的な白い肌を今日は大きく露出させて、全身が、スリムを通り越して、やや細すぎるぐらいなのだが、そんなに快活に振舞われては、まるで物語に出てくるエルフのようだ。
くわえて薄着だと、どうしても無視できない特出している部分がある。
そして、しのぶは、沙江子に見立てられた、フリルのついた白のワンピース。
こちらも、年頃からなんの不自然もないファッションなのだが、端からには、可憐な美少女にしか見えない・・・・・いや、可憐な美少女でいいんだけど、一志にはダマサレ感が拭いきれない。
こんな二人が一緒にいて、どう自然にとけこめばいいんだか・・
先ほどから、周囲の視線を集めまくって、パートナーのいる男性や、家族連れのお父さんまで、こちらを見ては、惚けたり、鼻の下を伸ばしたりして、相手から、肘鉄を食らったり、股間を蹴り上げられたりしていた。
『本日は、ご来園いただきまして、誠にありがとうございます・・』
いたたまれない一志の気持ちが天に通じたのか、スタッフの挨拶がして、開演時間である。
一志としのぶは、元気よく、茉璃香の両脇にそれぞれ腕を掴まれる。
「うわっ!」
「キャッ!」
「さあ、行きましょう。今日は思い切り楽しませてあげるんだから」
勢いよく駆け出していく様子は、やはり三角関係というより、せいぜい兄妹と、知り合いの仲のいいお姉さんである。
だとしたら、本日は憂い無く楽しんで欲しいものだが、それは客観視―――事情を知らない者にとってである。
もし、ここに、詳細な事実を知る者がいたとしたら。
いや、知ろうと知るまいと、物事の経緯を無視して、今ある光景だけで、本気で人を憎むことができる輩がいるとしたら・・・?
(おいおい、聞いたか?)
(聞いた)
(ポンポンなお姉さんが、思う存分、楽しませてくれるんだとよ)
(それも二人まとめて)
(許さん!)
私怨だが、世の男性の大半の共感を得てしまいそうで怖い。
たかがデートが、世界を終焉に導くほどの悪行見えてしまう二人組が、そこにいたのだった。




