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「いってらっしゃーい」

 登校のため、一志としのぶを沙江子は、にこやかに、手を振って送り出す。

 その隣で、しのぶはさっそく、辺りをキョロキョロし始める。

 このところ、いつ現れるかわからない茉璃香のおかげで、しのぶはすっかり警戒心が強くなった。

「ちゃんと前見て歩かないと、転んでも知らないぞ」

「お兄ちゃんのせいじゃない!」

「わかった。わかったから、電圧を上げるな」

 一志は、携帯しているスタンガンをポケットの中で掴んでいるしのぶをなだめる。

 この時代、防犯ブザー同様に、護身具を持ち歩く少年少女は珍しくない。

 もちろん、使用には相応の制限、プロテクトがかかっているが、しのぶは、そんなものを自分であっさり解除して、改造までして持ち歩いている。

 なんとかスタンガンから手を離してくれたしのぶは、再び、辺りをキョロキョロしだす。

 そんなしのぶを横目に、一志は深くため息をついた。

 なんで、こんなことになってしまったんだか・・・

 もともと、一志は異性に対しては熱心な方でなく、一生というわけにはいかないが、自分が恋人を持つことなど、まだまだ先でいいと思っていたタイプだ。

 そういうものをめんどくさく思っていた部分はあったが、今にしてみれば、身近にいすぎる美少女を意識しないための言い訳だったのかもしれない。

 それが、なんの僥倖か、しのぶの方から告白され、それを拒否することが許されない雰囲気のまま、受け入れる態度をとってしまい、とにかく、一応本人達の決め事だけでも、兄妹から恋人へのランクアップしたわけだ。

 とりあえずは、それでいいと・・しのぶの精神的成長を見守る意味で、しばらく、恋人ごっこにでも付き合ってやるつもりだった。

 ところが、そこに里柾茉璃香さとまさまりかという、しのぶとは全く違うタイプの魅力を持つ女性が現れて。

 本人は、本気で一志を奪う気はないとは言っているが、当然、そんな言葉で安心できるわけがない。

 栗色のウエーブのかかったロングヘアで、アウトドアなど絶縁したかのような、白く美しい肌と、磨き上げたガラス細工のように細い腕から指先。

 まるで、どこかの深窓の令嬢を思わせる面持ちのくせに、スタイルだけはいいときている。

 これではしのぶも、胸中どころか、体中で穏やかでいられまい。

 そして、一志は、茉璃香と再会の折に、なんでもしてあげるみたいな約束をしてしまった。

 それが軽率だったとは思わないが・・言った手前、邪険にもできないし、茉璃香の方は、ちょっと親しいお姉さん的に、付き合うつもりではある。

(それと、彼女に約束を果たすことが、本当にそれを守ったことになるのか?みたいな、ややこしい理屈もある。)

 ふと思案中に、一志の体が小さなものに包まれた。

 気がつけばここは、いつもの大通り前の路地で、しのぶにしがみつかれている。

 なんだか、ここでしのぶに抱きつかれることは、しきたりみたいになってしまった。

「・・・・・・・・・・・」

 しのぶはなにも言わずに、泣いているのか、怒っているのか・・それこそ必死な面持ちで、しがみついている。

 その仕草は、やはり恋愛感情より、幼い子に対してみたいな、庇護欲保護欲の方を刺激されてしまう。

 一志は、なんとなくしのぶの頭を撫でてやったりして、反省してしまう。

 やっぱり、こんな女の子を泣かすのは罪なのだろうと。

 ならば具体的に、自分は、どうすればいいかというと・・・まるで答えが出せないでいた。


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