18
闇から目覚め、気がつけばそこにいた。
見に覚えのない、夜の街道。
いや、記憶そのものがない。
自分がどこから来てどこへ行くべきなのか、なにかしらから逃げてきたような気がするのだが、何も思い出せない。
身につけているのは、下着と一枚の布を加工しただけのような、簡素な服。
他には何もない。
これでは、自身の名前すらわからない。
胸にあるのは不安のみで、あてもない夜道を裸足で歩き続けた。
ふと、隣に車が止まってくれた。
何事か?と、車から降りてきた青年に訪ねられれば、なにもわからないという事情を話す。
すると、とりあえず乗るようにと、助手席を勧めてくれた。
つかの間の安堵である。
閉鎖された車内が、まるでゆりかごのように感じられ、落ち着いたのか、再び意識は闇に落ちていった・・・・・・・・・・
次に目醒めたのは、人の気配などまるでない山林であった。
あの男性は、どこに行ったのか?
自身が仰向けに寝かされて・・
いや、捨てられていた。
上げた顔で、最初に確認したのは、自らの惨状であった。
剥ぎ取られた衣服と、切り裂かれた胸元から露出している機械部品。
この身に何が起こったか、否応なしに自覚させられる。
永遠に続くような夜の中で、ただただ泣き続けた。
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目を覚ませば、あの日の夜と同じく星が見えた。
血肉の通った体であれば、活力なくしたこの身は、とうに朽ち果てていただろうに・・
一時停滞していれば、充電でも済んだのか、必ず悪夢の続きを見せてくれる。
それとも、このような体に感謝すべきなのか。
そうでなければ、刻まれる傷は、より陰湿で凄惨なものとなっていただろうから・・・
だが、自身が機械であることは、どうしようもない。
そして、人としての感情があること。
自分が何者なのか、
しかし、これ以上なにも知りたくはなかった。
「気がついたか・・」
そばで聞こえた気づかう声に、体を起こそうすると、かけられてた男物のジャンパーがずり落ちそうになる。
それは、刺される前に別れたはずの少年のものだった。
「逃げなかったんだね・・」
「何故?逃げ出す理由はないでしょう」
傷口である機械部品を晒そうと、かけられてたジャンパーをたくし上げると、そこから生えたコードが、彼の持つパソコンと繋がっていた。
いつもより、再起動できる間隔が短いと思ったら、彼の応急手当のおかげらしい。
それでも、自らの腹にコードが生えてる異様な光景は、感謝すべき気持ちすら打ち砕く。
「余計なことをしたわね。このまま目を覚まさなくてもよかったのに・・」
八つ当たりではあったが、その本心を止めることができない。
深い深い絶望。
それを世の男共すべてを軽蔑視することで、逃避してきたのだ。
だが、そんなことをしてなんになる。
自らの存在意義さえ、否定するような真似をして。
だが、そうせずにはいられなかった。
へし折られ、砕かれて、たとえ同質の力であっても、反対側から支えねば一気に倒壊してしまう・・・それほど、この心はボロボロだったのだ。
「アンタは良くても、こっちは困る。倒れた女をほうっておいたなんて、そんな気まずさ、一生背負っていくつもりはないからな」
「・・・・・・・・・・ねぇ、後ろを向いて」
「はぁ?」
「いいから向いて!」
わけがわからないといったふうに、少年はかがんだままで後ろを向いた。
少年は、驚きはしたが、拒絶はしなかった。
その未成熟な背中にしがみつき、声の限り泣き続けた。




