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 あれから、騒動は収まって、結局、誤魔化しきれずに、いくつか事情聴取をされた。

 迷惑だったか、助かったのかといわれたら、助かった部分が大きいのだが、やはり、お叱りを受けることとなった。

「感謝はするが、感心はしない!」

 園長、直々の説教である。

 一志としては、むしろ、それぐらいで済めばぐらいの行動だったので、素直に受け入れることにした。

・・だが、もう、あの老人の作品だけは持ってくるなとだけは、言い返してやりたかった。

 あと、来場者への混乱は、どうなったかというと、元々、刺激を求めてやって来ただけあって、批難の声などは、さほどなかった。

 喉元過ぎればなんとやらで、過激な男性来場者には、ぜひ導入するべきだとの意見もあった。

・・・そう言えば、女性でも、一人いたかな、今回の件に、未練のある人が。

 両手をワキワキさせながら・・

 ただ、本来、コンピューターは当人の水着姿を実体化させようと検索したところ、あきらかに実体化しがいのあるプロポーションの持ち主がヒットしたので、そちらを採用したとの事実を知ったら、どんな声を上げるだろうか?

「ぬわんですって!!!」

・・・とにかく、多くの責任は取らずに済みそうだ。

 そして、一志は今、テーマパークの手配してくれた病院の一室である。

 批難の声が小さかったのは、こうした、その後の対応もあったからであろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だが。

「あ~~~~~ん!」

「ごめんなさい!本当に、ごめんなさい!!」

「・・・・・ごめんなさい」

 三人とも・・・アイリまで、しおらしく、謝ってくれて。

 大事故の、唯一の負傷者として、(あと二人、誰かいたような気もするが・・)けっこう、りっぱな病室をあてがわれたというのに、一志は、大層、居心地が悪かった。

「謝るのは、さんざん勝手なことした、俺の方だって。だから、もう、離してくれ」

「いや!いや!いやぁ!!」

「お願い。もう、どこにも行かないで・・」

「・・・もういい。このままで、いさせろ」

 ベットに腰掛けた状態で、三人にしがみつかれて、個室でよかった。

 他の誰にも見せられない。

 肝心の、怪我の方はといえば、火傷の段階、三段階の真ん中で、背中をかなり広範囲の火傷を負ったが、今、張られている、被漠材がとれたら、元通りになるとのことだ。

 だが、三人の心には、決して消えない記憶を残してしまった。

「お兄ちゃん、そのまま燃えて、お空に行っちゃうと思ったんだから~」

「私より、先に行かないで・・」

「あたしたちが、ついて行ったばっかりに・・」

 それは、どう判断すべきか・・

 まずは、一志が余計な行動を起こしたからだし、三人の手伝ってくれなければ、それは、うまくいかなかったのだし・・。

  確かに、最後の瞬間、三人がいなければ・・・一志一人だけなら、身を守ることができたのだが、それは、前文と矛盾する。

 過程を飛ばして、ただ傷ついてる一志を見て、自分達を攻めている。

「こんなの、名誉の負傷だって!皆で、立ち向かわなければ、もっと多くの被害が・・たくさんの人が、もっと酷い目にあうところだったんだから、喜ばないと」

「どうして!お兄ちゃんだけが、ひどい目に合わなきゃいけないの!!!」

 そんな言葉、一番、大事な人を目の前で失うところだったしのぶにとっては、気休めにもならなかった。

「落ち着いて、しのぶちゃん。じゃあ、私から、話すわね」

 そこで、いったん離れて、茉璃香が、じっと一志の目を見つめた。

「四人で、相談して、決めたの。このままじゃ、いけないって。一志君の負担になるだけだって」

 四人?三人でなくて・・・

「一志君の、正直な気持ちを聞かせて欲しいの。誰と一緒にいたいか?もう、こんなことは起こらないように・・一志君が、誰を選んでも、選ばれなかった二人は、身を引きます」

「・・・・・うん、それでいい」

 もう、こんなことは起こらないようにか・・三人とも、思うところはあったのだろう。

 確かに、一志の負担が大きいのも事実だ・・ここは、真摯に応えるべきであろうか。

 だが、こまった。

 一人選んで、他の二人を選ばないなんて・・

 いや、こまることはない。

 正直に、自分の気持ちを口にすればいいのだ。

 それで、三人の気持ちがスッキリするなら、そうしよう。

「決まっている。三人、まとめてだ!」

 紛う事なき、本心を口にした。

 ビンタでも、電撃でも、いくらでも受けてやろうじゃないか。

 時がたって、尋ねてくれるときがあったら、その時は、話そう。

 三人とも素敵すぎて、とても選べなかったと・・

 この時、失う物は、自分が一番大きいと、確信していた。

「いったな!もう、とり消させないだからね!」

 向きになった顔で、しのぶがしがみついてきた。

「・・・・・・・・・・いや、冗談だって」

 自分で言っといて、理解するのに時間がかかった。

「いった!三人いっしょなら、いいっていった!」

 そのまま、自分の唇を一志の頬にくっつけてきた。

「嬉しい!皆を選んでくれて」

「違います。誰も、選ばなかっただけで・・」

 次は、茉璃香だ。

 聞く耳持たずに、反対側の頬に、自らの唇でふれる。

「もう、ようしゃしないんだからな!お前が、いやがるぐらい、ベタベタしてやるんだからな!」

「仕返しと、恩返しが、一片にできるなら、効率いいわなって・・そうじゃないだろ」

 しのぶ以上にむきになって、アイリは、正面から、唇を近づけてきた。

「うわぁ!」

 なんとか避けて、アイリの唇は、一志の唇、わずか下にヒットした。

「ずるいずるい!最初は、わたしわたし」

「しのぶちゃん、あわてないで。約束したでしょ、もう一志君を困らせたりしないって。順番に、平等によ」

「そうだった。みんなで、いっしょに」

 三人は、深呼吸して・・もう一度、深呼吸して・・・もう一度ぐらい、深呼吸して・・

 そして、一志に向かって、唇を尖らせてきた。

「うっわーーー!!!」

 思い描いていたのとは真逆の事態に、一志は、三人をかいくぐって、病室を飛び出していた。

「わーーーっ!わーーーーーっ!!」

 病院内をはた迷惑に雄叫びを上げて、闇雲に駆け回る。

 幸い、注射を嫌がって、逃げてる子供ぐらいに受けとられたみたいだが。

「うわっ!うわぁ!うわーーーーっ!!」

 いや、もしかしたら、なにかしらのコントの練習かと思われたかもしれない。

 そうして、バタンッ!と扉を開けて、行き着いた先は、快晴な屋上だった。

「わーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

 地上、全てのものに、微笑みかけてるような青空も、今の一志には、あざ笑ってるかのように見えた。

「どうしてこうなった」

 共感できるような、全くできないような・・・どちらかと言えば、いや、大概、状況が悪くなったときに用いる言葉を吐き出した。

 まあ、混乱するのは、わからなくもない。

 女性側からすれば、納得できるはずもない・・いや、軽蔑されるべき発言をしたというのに、逆に迫られるなど。

 なにより、一志を錯乱させてるのは、顔に残った三つの唇の感触である。

 頬を染めて、再び唇で迫ろうとした三人の表情に、一志の理性は、崩壊寸前だった。

「一志くん!」

「!」

 名前を呼ばれて、振り向いてみたら、そこにいたのは、息を荒げた沙江子だった。

 一志を追いかけてきたのか。

 ツカツカと詰め寄ると、そのまま、右手を大きく振り上げた。

「いい加減になさいっ!!」


パチーーーーーン!


 なにをされたのか?

 それは、沙江子に頬を叩かれたのだ!

「見てたわよ!逃げ出すのを!確かに、二股三股なんて、女の子と対等の立場で付き合う気のない、不誠実な男がやることよ!でも、三人がそれでもいいって言ってくれてるのよ!あんな可愛い娘たちが。それを断ったりしたら、それ以上に、失礼ってもんでしょ!!」

「・・・・・・・・・・うん」

 沙江子の気迫に、一志は頷く。

 そして、沙江子の促した、扉へと歩き出す。

「さあ、病院で、個室なんだから、後の始末は、私と看護師さんに任せて、いたしてきなさい!」

 そこで、クルッと振り返った。

「いや違うでしょ!!!いくらなんでも、それはっ!!」

 じんじんするほっぺを摩りながら、やっと、反論できた。

 危なかった。

 沙江子が、最後の一言さえ間違えなければ、いたさなくても、その一つ前ぐらいは、いたしていたかもしれない。

・・・・・残念なんて、思ってないぞ!

「ダメなの?いいじゃん、もう、いたしたって。これ以上、泣かせるぐらいなら」

 毎度の事ながら、それは、母親としてどうなのか。

 そう言えば、四人で相談したといっていたな。

 四人目は、この母親か!?

 そうとわかっていれば、あんな、バカなことは言わなかったのに。

「しのぶ達に、なに言ったんです!」

「叱るぐらいは当然でしょ、一志くんだけ、こんなひどい目にあったんだから。あと、一志くんのお願いがあったら、絶対、聞いてあげなさいぐらいは、言ったかもだけど」

 悪気があってやってるわけではないのだ・・というか本人は、善意のつもりでやってるのだ。

 今回のことも含め、一志が、三人のために、どれだけ頑張ってきたか、沙江子は全部、知っている。

 それこそ、身を盾にしてだ。

 ならば、この子だったら、可愛い娘を三人つけるぐらいの贅沢があってもいいだろうと、むしろ当然だろうと、沙江子は確信していたのだった。

 完全に、親の欲目だが・・

「見ればわかるでしょ!!あの三人に、どれだけの未来とか、可能性とか、あると思ってるんです!それを俺なんかのせいで、潰していいわけがない!」

「そ~お?女の子だったら、将来の夢が、可愛いお嫁さんとか、ステキな旦那様を見つけて、可愛い赤ちゃんを産むこととか、ただ、それだけの人生だって、十分ありだと思うけど」

「アンタ!もう!・・」

 そこで、どもった。

 危なかった。

 自分は、なにを言おうとしたのだろう。

『もう、お婆ちゃんと呼ばれたいのか?』などと・・

 いくらなんでも、そればっかりは、禁句のような気がした。

 ちょっと、考えてみる。

「あ~~、仮に、例えの話ですけど・・もしも、あの三人の誰かと子供を作って、そして、生まれたとして。そうなると、沙江子さんの愛情は、自分から、その子に移っちゃうってことですよね。それは~、もうちょっとだけ、いやだなぁ」

 一志は淡々と、まるで熱のこもってない、沙江子と目を合わせようともしないで、そう述べた。

 聞く者によっては、からかっていると受けとられただろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だが。

「え!?」

 お返しにされたのは、柔らかな抱擁だった。

「そうだったの!嬉しい、可愛い!」

 感極まった声を上げて、一志を自らの胸へと抱き寄せた。

「ごめんね、今まで、気づいてあげられなくて」

 沙江子は、自分が間違っていたことを思い知らされた。

 過去の過ちを償うつもりが、それは、この子に、同じ過ちを繰り返させるところだったのだと。

 今ここにいるこの子を全力で愛さないで、どうするのかと・・・

 だが、一志にしてみれば、当たり障りのない言葉を選んで、適当に紡いだだけなのに。

 涙を流すぐらい感激してくれるとは・・・

 これまでになく、愛情をこめて抱きしめられているというのに、良心が、有刺鉄線で締め付けられてるかのごとく痛んだ。

「あの・・沙江子さん」

「ママって、呼んで」

「あーーーーーっ!」

 一志にとって、一番、見られたくないタイミングで、しのぶが現れた。

「ズルいズルいズルいズルーーーい!あとは、まかせなさいって、いったのにーっ!」

「そんなこと言った?もう、あげない。これ私の!」

「また、人の気持ちも考えないで、人の気持ちに刺さっちゃうようなこと、言ったんでしょ!」

 さすがの、茉璃香も怒り出した。

 自分も被害者だと言いたげに・・

「わたしたちの、覚悟かえせーっ!」

 そうは見えないかもしれないが、勇気を出して告白した直後に、母親とイチャイチャするようなことされたら、アイリでなくても、激高したくなるだろう。

「ちょっとまって、話、聞いて」

「離してーっ!今日から、ご飯をはい!あーんってして、一緒にお風呂入って、一緒のお布団で寝てあげるの!」

「ダメダメダメーーーっ!そんなの、わたしがやるんだからー!」

「沙江子さんが壊れた-!一志君、沙江子さんに、なに言ったのー!」

「こんな終わりかた、いやだーーーっ!やりなおしを要求する!」

 文字通り、一志の取り合い・・一志の体を掴んでの引っ張り合いになった。

 自業自得・・・そう呼んでいいのか、いろいろ、判断の基準が必要だが。

 でも、一志なら、皆なら、これからも、様々な試練を乗り越えていけるだろう。

 今までも、なんとかなったように・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん


「本当に、まって!背中が!ああーーーーーーーっ!!!」



お し ま い


いかがでしたでしょうか?

自分では、共感してもらえる話を目指して、

まずは、人が人を好きになることを素直に受け入れられるような話を

あとは、そりゃそうだと笑ってくれたり、感心してもらえたりするような話になっていればと思っています。

私の作品で、一人でも二人でも、愉快な気持ちになってくれる人がいたら、嬉しいです。


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