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グシャシャシャシャシャシャシャ!!!!!


 耳を・・全身を引き裂くような衝撃に、埋まることしかできなかった。

 それでも、体は跳ね上がり、また叩きつけられ・・一瞬でしかない災難が、永遠に刻まれそうだった。

「・・・・・」

 おそるおそる顔を上げると、一志が見たのは、乱立していた壁たちが、力をなくしたように下りていき、元の殺風景でがらんとした空間と、ロードローラーの下敷きになって、くの字に折れ曲がった、宿敵の姿だった。

 全て終わったのだと理解して、なんとか、立ち上がった。

「あばよ、兄弟。楽しかったぜ・・」

 本当は、一分前に発するつもりだったセリフを呟いてみる。

 もうちょっと、格好つけたかったが、しかたない。

 いろいろありすぎて、せめてこれぐらいやらないと、精神がもちそうになかった・・

「え!?よんだ!」

「いやいや、なんでもない!なんでもない!」

 駆けてきた妹に、聞かれてなかったか、焦りながら、ごまかそうとする。

「うまくいったみたいね」

「トドメをさしたのは、あたしだからな。ほめてもいいぞ」

 茉璃香とアイリも、やってきた。

 聞いての通り、このありさまは、三人のおかげである。

『星が、ほしい』せり上がる壁を避けながら、しのぶ達に目線が合った時に、発したセリフである。

 半分ほど期待して、自分が気を引いてるうちに、真上から、なにか攻撃することはできないか?という意味を込めたのだが、三人は、間を開けずに動いてくれた。

 そこで、三人が考えたのは、重くて動かせる物を探して、上から落とそうという作戦で、見つけたのは、ロードローラーだ!

 戦車や、ロケットまであるのだから、ロードローラーがあるのはおかしくない。絶対!

 本物であれば、無理だろうが、そこは模造車。

えっちらおっちら、なんとか、ドーム状のこの建物の上に運んで、そこから内部を解析スキャンして、位置と構造と素材を調べて、共振する波長でロードローラーに内蔵されてる演出のバイブ機能を暴走させての掘削で・・

 あと、最後は、アイリの能力サイコキネシスのおかげらしい。


「園長!システム!停止しました!!」

「なに!?間違いないのか!?」

「ハイ!上空のエネルギー、拡散していきます!」

「なにが起こった?いやそれより、慌てず、このまま待機だ。完全に安全が確認されるまで、気を抜くな」


「あ~~~ああ、終わったな・・」

 それは、唖然と安堵の入り交じった、一志の気持ちであった。

 天井に開いた大穴を眺めながら、そう口にした。

「うん。ものすごく、がんばったんだから」

「みんなで、掴んだ、勝利だね」

「あと、あたし!あたしがやったんだからな!ぐわぁーーって、もってきて!ぎゅーーーって、押しこんで!最後に、どかーーーんって、きめて!!」

「うんうん、ありがとうな・・」

 危うく、巻き込まれるかもしれなかったことは、黙っておいてやるか。

 先ほどまで、毒々しいぐらい赤黒かった空が、徐々に薄くピンクになり、やがて、本来の青を取り戻しつつあった

「よ~し・・・・・・・・逃げるぞっ!!」

 一志のかけ声で、一斉に踵を返して駆け出した。

 弁償なんて言われても、無理だ。

 この事件は、もう過去の1ページとして、誰にも語ることはないだろう・・

ニガサン・・』


ザシュン!ザシュン!ザシュン!!


「なんだ!?どうした?!」

 逃げ出そうとする一志の前に、次々と壁がせり出して、出口をふさぎ、やがて、四人を取り囲んでしまった!

『ククク・・マダオワランヨ』

「まだ、息があったのか!」

 四人の誰でもない声。

 何より、電子音声。

 別れを告げたはずの兄弟が、呻いている。

「上がまた、熱くなってきた!!」

「なにっ!?」

 端末で確認したしのぶの声に、一志は目視で確認した。

 ほとんど流出したはずのエネルギーが集束して、まるで、こちらを睨んでるかのように、赤く光る。

「ここに落とす気か!?」

 園内、全てを焼き尽くすはずだった熱量だ、数百分の一になったとて、集中させれば、人間の皮膚ぐらい、簡単に焼く!

「フッ、ナバモロトモ」

 こいつ・・・ノリで、なんてマネを・・

 そう、これは、なんら怒りや恨みがあってのことではない。

 かまって欲しい子供と同じレベルで、こんな、大それたことをしているのだ。

 それだから、タチが悪い!

「よけなきゃ!逃げなきゃ!どうやって!?」

「私が下になるから!皆、上って、逃げて!!」

「ムリ!出口まで、キッチリおおってる!」

 絶体絶命だ!!

 垂直に立った壁の中での、真上からの熱光線。

 逃げ場も、隠れ場もない。

 いや、そうでもなかった。

 一志には、スーツがあったのだった。

 これをもう一度、展開すれば、熱波の一撃ぐらい・・

 あと、抱き込んであげれば、もう一人ぐらい・・・

 もう、迷ってる時間はない。

 四人全員、火葬されるぐらいなら、少しだけでも、ましな選択をしなければならないだろう。

「しかたないなぁ」

 なんだか、てれてるみたいな口調で、一志は手を伸ばした・・・・・のは、しのぶ、茉璃香、アイリの、誰でもなかった。

 天井の大穴だ!


バシュッ!


 ワイヤーが、真っ直ぐに飛び出すと、閉じ込められてる状況が嘘みたいに、簡単に引っかかてくれた。

「あと、沙江子さんにも、よろしくな」

 そして、伸ばしたワイヤーを再び巻き戻す。

「お兄ちゃん?!!!」

「そんな!まって!?」

「やめてーーーーーーー!」

 浮き上がっていく一志の意志を理解したのか、止めようとするその手は、とどかなかった・・・

 天井に近づいたところで、スーツを起動させる。


ボンッ!!!


 その直後に、弾けたのだ。

「イヤーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 その光景に、誰かもわからない、悲鳴が響く。

 次に弾けるのは、一志の体か・・・エリア一つを焼き尽くすために降ってきた光線をその身一つに浴びたのだから。

 一志は、三人が、自分の影に隠れている事に安堵する。

 その顔は、あまり見たくないほど、ぐしゃぐしゃだったが・・

 でも、それが、自分のために流してくれた涙なのだったら、わるくない。

 こんな時に、一志は、誰かしらからされた質問を思い出していた・・・

 もし、しのぶたち三人が命の危機にあるとき、一人しか助けることできなければ、誰を助けるか?

 その時は、あまりにも馬鹿な質問に、殴りたくもなったが、今は素直に感謝してやろう。

 こうして、迷わず、躊躇わず、実行できたのだから。

 なにがなんでも、三人とも助けるだ!

 例え、助からない勘定に、自分自身をねじ込んででも。

「グガァ!!・・・・」

 焼かれていく背中の痛みが、感傷だけに浸らせてくれない・・・

 だが、歯を食いしばり、飛び出しそうになる絶叫を堪える。

 これ以上、しのぶたちを悲しませる要因を増やすわけにはいかないからだ。

 代わりに、泣いて、叫んでくれている。

 一志の最後の願いは、この悲しみが、いつまでも続きませんようにだった。

              ・

              ・

              ・

              ・

              ・

 だが、三人は、そんなことを望んでなかった。

 少女達の叫びと願いは、誰でもいいから、一志を助けて!だった。


ピカーーーーーーーー!


 その時、一志の体が、白い柔らかな光に包まれた。

「うわっ!」

 突如、消失した熱さに、一志は戸惑う。

「なんだどうした!?」

 それは、誰にもわからない。

 わかるのは、少女達の願いは、聞き入れられたのか、焼失するはずだった一志は、そこにいるということだ。

 熱さどころか、腕の・・重力も感じなくなって浮かんでいる。

 わからない。

 なんなのだ、この、あらゆるエネルギーが静まり、労ってくれてるような現象は。

 こんなことができるのは、神か?人間以上の存在か?

 いや、一志には、こんな事ができる人物に、一人だけ、心当たりがあった。

「爺さん・・」

 ゆっくりと降りていく光球の中で、一志は、見間違えようのない鼻髭をした老人の姿を見た。

「俺を助けに・・」

 自分を引き取った養父、長い時を共に過ごし、そして最後を看取ったはすの家族が、そこにいた。

 物理も道理も、打ち砕いて、超常現象を・・いや、奇跡を起こすために、現れたのだ。

「お兄ちゃ~ん!」

「一志君」

「かずし!」

 泣いている三人が、駆けてくる。

 そこで、一志の腰が、地面に着いた。

 お邪魔かな?みたいな、そんなイタズラっぽい笑みを浮かべて、創時朗の幻は、最後に一志の頭を撫でて、消えていってしまった。

 ああそうか・・・肉体は滅んでも、あなたは世界の一部となり、こんな自分のことを今でも、見守ってくれてるのだな・・・・・

 そう、感謝に心を振るわせて、消えていった空を眺めていた・・・


「って、元はと言えば!アンタの!作品せいだろーーーーーっ!!!」


 その気持ち・・あんまり長くは、続かなかったが・・・



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