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「こっちこっち!こっちだよ!『幻想発生装置』は」
「えーい!この!このっ!じゃまするなーーっ!!」
「追っ払うのは、最小限でいいのよ。私達は今、スタッフの一員ということなってるからね。」
システムを求めて、やってきた・・というより、戻ってきたのは、最初に訪れた『ミノタウロス』の中だった。
それもそうか。
いくら、園内全てをカバーできるとはいえ、性能を一番、把握しやすい箇所に設置するのは。
それにしても・・・
「充填率92%だって!もう、時間がないよ!」
「なぎ払う!!どうした!バケモノ!今つかわなで、いつ、つかう」
「本来の目的、忘れないで。一志君の道を空けるだけでいいからね」
「・・・・・」
かっこつけといて、ここまで、なんの活躍もなかった。
しのぶが、システムの位置を検索して、アイリが、モンスターを一掃して、茉璃香が、そこまでの最短のルートと、乗り物を用意して・・
いや、本番は、これからだ。
「あれが、首魁だな・・」
広いドームの中、こちらを見据えるように、巨大なコンピューターが鎮座していた。
「うわっ!なんだが、思いっきり胸を反らして、いばってるみたい!」
そう見えるのは、一応、血の繋がりのあるものとして、共鳴するものがあるのだろうか?
「しのぶ、あと、アイリと茉璃香さんも、下がってて。あとは、俺がやる」
「そんなの!モゴっ」
「うん。気をつけてね」
不満で、突っかかりそうなアイリの口を茉璃香がふさいでくれた。
「一撃、決めるだけだって。すぐまた戻って、みんなで乾杯しような」
その言葉に、アイリは少しだけ、表情を和らげてくれた。
だが、この行動が、園内すべての人間を救うことになろうとも、施設内の物を勝手に壊すことには違いない。
万が一の万が一も考えて、譲る気はなかった。
「行ってくる」
「気をつけて」
「約束だぞ。こんどは、パフェだからな!」
「こっちは、気にしないで」
見つめられて、こんな時に、先ほどジュースと一緒に感じたときめきを思い出していた。
一度、意識すると、なかなか拭えない。
早く仕留めて、戻ってきたい気持ちと、早く戻ってきて、同じ気分が味わいたい気持ちが、すり替わってしまいそうなほど・・
本来の目的を忘れる前に、なんとか飛び出した。
「うらぁ!目を覚ませ!!」
ドウーーーーーン!
射程距離までつめて、ランチャーの引き金を引いた。
砲弾は、真っ直ぐに、直撃する・・・かに見えた。
ギャーン!!!
「なんだ!?どうした!」
当たると想った寸前、その砲弾が、跳ね返ってきたのだ。
「「「キャァ!!」」」
「無事か!?」
逸れてはくれたが、返ってきた砲弾が、後ろの三人の側を通りすぎたのだ。
確認すると、茉璃香が、尻餅をついただけでのようだった。
いらん対抗意識を燃やして、しのぶが、転ぶフリをしそうだったが・・
「くっ!」
見れば、装置の前に、壁がせり出していた。
迷路を演出するためのものだろう。
『ワレハ、ユウノウ。ワレハ、バンノウ』
生意気にも、言葉を発しだした。
もう、意志があると判断していいだろう。
「おい!もう十分だろ!止めろ!これ以上は、人間も本気出すぞ!!」
『ワレハ、ソウゾウ。ワレハ、セカイ』
「くっ!こんのポンコツがーっ!!!」
『ナンダトーーーッ!!!』
「なんで、悪口だけは、反応するんだよ!?」
漫才してる場合じゃない。
速攻でかたづけなければならないというのに。
時間だけじゃない・・かすり傷も、つけてはいけないものが、三つもあるのだから。
「うわっ!」
地面から、次々と壁がせり出してきた。
本来の用途から、避けられない速度ではないが、閉じ込められたりしたら、厄介だ。
「よっ!はっ!」
「こういうの、見たことある」
「キノコで、パワーアップだ!」
「いえ、ここは、炎の花でしょう」
「言ってる場合じゃなーい!」
途端に、背景がのどかな青空と雲に代わり、せり出した壁が、レンガや土管へと配色された。
「お前も!のるんじゃない!!!」
どこまで、人をおちょくる気だ。
いや、これこそ、こいつの本性に違いない。
「やっかいな・・」
一志は、息を荒げながら、そう呟いた。
まともに相手にしたくないという意味でだが。
「お兄ちゃ~ん!がんばって!」
「ジャンプだ!キックだ!ブロック、壊せ!」
「無茶、言わないで。・・・一志君なら、それぐらい、やってくれそうだけど」
「・・・・・」
可愛い娘からの声援なのに、あんまり、嬉しくなかった・・・
というか、逆に、疎外感。
「一人だけ、真剣になってる俺は、なんなんだ・・」
全部、放り出したい衝動に駆られたが、そうもいかない。
なんとか、この状況を打開しなければ。
「あるのは、ランチャーと、手榴弾、二つと、あと、腕のワイヤーか・・」
それが、二人からがめてきた、一志の、今の、武器である。
相性は、悪くない。
相手が、壁を出すだけなら、リストバンドに収納されたワイヤーを伸ばして、引っかけて、真上から手榴弾を落としてやればいいのだ。
だが、ここは、全面、投影を主目的にして建てられた施設である。
天井も、壁も床もピカピカで、引っかける柱どころか、継ぎ目さえない。
刺さってくれる可能性は低いが、飛ばしてみるか・・
「う~む・・、確かに、光る星が、欲しい気分だな」
壁を避けながら、そんなことを呟いた。
すると、本当に、星が落ちてきた。
それも、チカチカと点滅しながら、ボールみたいに、ポン、ポン、っと飛び跳ねて。
「ほ~、サービスしてくれるじゃないか」
一志は、向かってきたスターに、手を伸ばして触れてみる。、
すると、スターは、吸い込まれるように消えて、代わりに、一志の体が点滅しだした。
目がチカチカして、鬱陶しい・・
「てゆーことは、俺のターンで、いいんだよな!」
試しに、ランチャーの引き金を引いてみた。
バチュウーーーン!!!
せり出した壁に、当然、はじかれる。
「だろうなぁ!!」
わかっていても、悪態をついてしまった。
こちらに、無駄玉を撃たせる作戦だったと受けとることにしよう。
「残り、四発」
ドンッと、今度は、上に向けて撃ってみた。
跳弾して、当たってくれればとも想ったが。
すると、空の映像をジラつかせただけで、跳ね返ってくることはなかった。
ドンッと、もう一発、試してみる。
今度も、破片らしき物をいくつか散らばらせただけで、大差なかった。
やはり、壁とは違う素材と形状なのか・・
『アト2ハツ』
「やかましいっ!」
罵声とともに距離を詰めて、今度は、近距離からの攻撃を試みる。
ザシュ!ザシュ!ザシュ!
そうはさせまいと、次から次へと一志の前に壁が現れて、それを阻む。
「だったら!」
手榴弾を高く放り投げた。
弧を描いて、狙い通りに、コンピューターの元へと、たどり着くかに見えた。
プシュ!
軌道が逸れた!!
水だ!
天井から吹き出した、圧力を高めたスプリンクラーによって、打ち落とされたのだ。
ちゅっど~~~ん!!!
結構な近場で、爆発の威力を体感することになった。
『ナンテコト、スルンダーーー!』
「まったくだ・・」
所詮は玩具を改造したものであるはずなのに・・その威力に、あの二人は、早急に始末するべきだという決意を改めて固めたのだった。
「今は、こっちか」
壁を回り込み、勢いを付けて蹴り上がって、壁を足場にして、飛んで近づこうとする。
『サセン!』
飛び移ろうとした壁が引っ込んで、そしてまたせり出して、規則性があれば、問題ないのだが、こちらを観察して、妨害する動きをしてくる。
「そこか!!」
一志は、鳥の映像の目に擬態した、カメラの一つを打ち抜いた。
これは、軽率であろう。
迷路を構成する施設である以上、カメラが一つだけなどありえない。
数台から、数十台・・あるいは、それ以上あるかもしれない中の、たった一つを潰すのに、残弾を減らしてしまった。
『ノコリ、1パツ!』
自身の優位を確信したコンピューターが、見上げた体制で、スキのある一志を四方から、取り囲んだ。
「なめんなっ!!」
ちゅど~~~ん!!!
その、閉じ込められたはずの空間で、先ほどと同じ爆発が起こった。
誤爆か!?と思いきや、そこから一志が、文字通り、飛び出してきた!
全身に、タイヤを纏ったような、奇っ怪な姿で。
武器ではなく、スーツに仕込まれた、エアバッグ、防具である。
一瞬で展開して、一撃だけ、攻撃を防いでくれる。
だとしても、無茶をする。
着地の瞬間まで、機能してくれればいいが。
その高さから、コンピューターは丸見えだ。
「くらいやがれ~~!!!」
『グッ』
コンピューターの方も、慌てて、自らの前方に壁をせり立たせるが、間に合わない。
ドウーーーーーン!
『ザンネ~ン!』
外した!
さもあろう、空中からの狙撃など、高等技術。
まして、今は、体の自由が制限された身。
弾は、掠りもしないで、地面にぶち当たった。
『ノコリ、ゼロ~!』
バシュッ!
調子に乗った電子音を貫くみたいに、一志の袖から、ワイヤーが飛び出した。
『ナニ!?』
「んがーーーーーっ!」
引っかかったのは、コンピューター前方の壁の上端。
全筋肉と逆回転で、コンピューターとの距離を一気に詰める。
「でぇいやーーーっ!!!」
本当に、最後の最後の一手である。
ランチャーを逆手に持って、思い切り振りかぶる。
外しようもない、0距離からの打撃。
そして、相手には、躱す手段もない。
これで決めると、確信を込めた決意と共に、ランチャーを振り下ろした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だが。
「なに!?」
空ぶった!?いや、すり抜けたのだ。
一志の体ごと、
「ぐあぁ!」
地面に叩きつけられ、混濁しそうになる意識をなんとかこらえて、なにが起こったか、判断する。
「・・・ホログラフか・・」
『カゲブンシンノジュツ~』
最初に攻撃した時点では、確かに、本体だったはずだ。
それを一ブロック分だけだが、こちらの気が逸れてるうちに、自身を装飾して、自身を投影して見せたのだ。
そして、今、攻撃したのは、幻の方。
『ジュウテンリツ99,9パーセント~』
「ぐっ!」
してやられた。
ショックで、立ち上がることもままならない一志に、もう止める手段はなかった。
今度の電子音声は、本当に、悪魔の嘲笑のように聞こえた。
バキバキバキバキ!!!!!
ユウェンタースランド全てが焦土と化す光景を想像したその時、真上から、とてつもない破壊音が聞こえた。
『「ロードローラーダ(だ)ッ!』」
驚きのあまり、はもってしまった。
天井を壊して降ってきたのは、小型ながら、ロードローラーだった。




