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水蒸気による視界の悪さにも負けずに、少年は、走り出していた。
「中枢コンピューターは、こっちか」
時折、出てくるモンスターは、丁寧にも、擬音つきなので、先手必勝で、なんとかなった。
利口でないことは、わかっていた。
運営側だって、出しゃばられても、逆に迷惑だろう。
だが、一志には、この件は、自分が一番、解決できると、確証があった。
それは、コンピューターへの、直接物理攻撃である。
それが、10年という、少年にとって、長い時間で培われた答えであった。
・・・・・たしかに、こんなことを即断できるのは、一志ぐらいだろう。
「まったく、死んでからも、どれだけ人様に、迷惑かけるんだ」
それは、使命感と言っていいのだろうか?
あの老人の作品に、一撃、撃ち込みたい気持ちも、半分くらいあるが。
とにかく、今、一志は、あの二人からがめてきた、耐熱スーツとランチャーと、あと一式を手に、コンピュータールームへとたどり着く事ができた。
「ここじゃないのか?」
システムを見回して、いくつか弄ってみて、ここにはないことを確認した。
では、どこか?
あまり、時間はない。
今すぐにでも、機能を停止させなければならないというのに・・
「お兄ちゃん」
「うわぁ!」
切羽詰まってるときに、いきなり声をかけられて、驚いた声を上げた。
「しのぶ?!」
なぜここに?という疑問より先に、一志の胸に飛び込んできた。
「ま~た、一人で、どこかに行くきなんだ」
「アイリ・・」
「止めないけど・・でも、心配だけはさせて」
「茉璃香さん」
どうしてか?三人とも、ここにいた。
混乱の中、抜け出すだけなら、一志がやったように、難しくないだろうが。
「だってだって!お兄ちゃんが、出て行くのが見えてから」
「出てくる、モンスターは、わたしがたおして」
「カートをちょっと拝借したの。これ、いざという時、スタッフと同じ権限が、与えられるんですって」
しのぶなら、一志の後を付けるぐらいのセンサーぐらいは、あるだろう。
アイリの能力でモンスターは蹴散らして、茉璃香が取り出したのは、父親のつてで、手に入れた、カードキーか。
「手段は、わかったけど、目的の方で・・」
「お兄ちゃんが、心配だからに、決まってるじゃない!!」
ギュッとしがみついたまま、涙混じりに訴えてきた。
「しんぱいなんて、してないんだぞ!でも、お前は!ぜったい、危ないことするんだろ!しんぱいなんて、してないんだからね!」
「わかってるの。一志君、これから、なすべき事をするんでしょ。その負担を少しでも減らせらなら、私達を使ってほしいの」
三人とも、一志の無鉄砲ともいえる行動に、救われたことを思い出していた。
そして今、たくさんの人が不安や恐怖に苛まれてるなか、それを振り払おうと、また一人で、危険な地へと赴こうとしていることを
その高潔な精神に、惹かれる思いと、止めたい気持ちとのジレンマを抱えたまま、一志を追いかけてきてしまったというわけだ・・・・・
ただ、それは、誤解といっていいぐらい、美化されたものであったが。
「ちょっと、爺さんの作品をしばきに行くだけだって!」
「嘘!!!そんなこといって、また、だれかのために、無茶しちゃうんだ!」
「うん、わかってる。おまえは、そういうやつだ・・うれしくないのに」
「自分達だけ、安全なところに隠れて待ってて、一志君が、ケガをして戻ってくるなんて、もう、堪えられないの!お願い!途中で、置いてってもいいから、連れてって」
「・・・・・」
愛か重い。
不届きにも、一志は、この可愛い娘ばっかりに、なんでこれほど想われてるのか、本気でわからなかった。
う~~~~む、男の子と女の子との、危機感の違いだろか。
擦り傷、打ち身、火傷に、感電・・・そこまでは、普通の男の子にもないだろうが、とにかく、そんなことがしょっちゅうな島育ちの一志と、血を見ることも珍しい、女の子との間では、怪我の認識に、大きく隔たりがあるようだ。
「ケガぐらい、当たり前だって!男だったら、ちょっと行って、すぐ戻ってくるから、待っててくれ」
「イヤ!!絶対!イヤァ!!!」
「つれてかないっていっても、絶対!ついて行くんだからな!」
「それじゃあ、私達が、勝手について行くの!そして勝手に、一志君のお手伝いをして、一緒に返ってくるの。それなら、文句ないでしょう!」
大ありだが、もう、連れて行くしかないのか。
もう、もたもたしている余裕もないし、かといって、引き返しても、安全とは限らないし・・・
もうやけだ。
危険だとわかって着いてきたこいつらが悪いと、納得しよう・・・
い~や。
理屈抜きに、こんな娘たちに、こんなに心配させる、一志が悪い。




