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「なにが起こった?」
一志の目には、ホログラフであるはずのミノタウロスが、功一清孝の胴を切り裂いたように見えた。
「ぎゃーーーっ!!!アチッ!アチッ!ドラゴンが、火を噴いた!」
「ビリッときたー!このネズミ。十万ボルト出すぞ!」
辺りでも、異常な声が響いた。
モンスター達が、実態を持って、人々を襲い始めたというのだ。
「撤収だーーー!総員、手のとどく人だけでも助けて、建物内に、逃げろーっ!」
園長の号令に、スタッフ達も、そして来場者も、一人残らず従った。
「あら!?園寺さん!」
いや、一人例外がいた。
スタッフじゃなく、来場者でもない、送り込まれた人間が。
だからといって、指示に従わないわけではないだろうが、霧の中に、慌てるわけでもなく、たたずんでる環を茉璃香が見つけた。
「どういうつもり?さっきも言ったけど、モニュモニュできないなら、価値はないわよ」
誰と話しているのか・・と思ったら、環の正面に現れたのも、茉璃香だった。
なんのこっちゃと思われそうだが、それはこれ、ホログラフだ。
何故かはわからないが、環の前に佇んでいたのは、あのミスコンで見たことのある、優勝時の、水着姿の茉璃香だった。
もにゅ!
「えっ!?」
環が、驚いたかのような声を上げた。
突き出した両手が、水着の茉璃香のおっぱいを掴んだのだ。
「えっ!ええっ!?」
モニュモニュタプタプモニュモニュタプタプ!
驚くべきところであろうが、それよりも、もう本能として、環は、茉璃香のおっぱいを揉みまくった。
「すごいすごい!ちゃんとモニュモニュタプタプできる。ちょっとは・・いえ、もう大きく見直してやるわよ!」
「キャーーー!やめてやめてやめてやめて!!!!なにやってるんです!!それどころじゃないでしょ!」
まったくだ。
茉璃香だけでは無理なので、一志も手伝って、堪能している環を引きずっていくことになった。
あと、一志も、かなり後ろ髪を引かれる思いをしながら・・・
「現状を報告してくれ」
「はい、今のところ、負傷者は確認されてません。一部を除いてですが・・あと、モンスターが、来場者に危害を加えたとのことですが、トリックでした。種明かしは、モンスターが放つ炎や電気に合わせて、エネルギーを発生させてるだけです」
ここは、一番、近かった、ショッピングセンターで、臨時の作戦会議室となっている。
「高温や電気はメカで再現できるとして、斬撃は、どうしたんだ?まさか、今時かまいたちなんて言わないだろうな」
風・・・真空状態で、物体が切断されるというのは、長い間、信じられていたが。
「ウォーターカッターですね。水に高圧をかけて、音速以上の速度で打ち出す。それに、赤い映像を重ねて、あたかも、血が飛び散るように見せた。」
「え!?」
その場にいた一志が、怪訝そうな声を上げた。
慌てて、功一と清孝の遺体と思われていたものに掛けてあった毛布をバサッと剥いでみる。
「・・・・・チッ!」
白目をむいてるが、それが死体でないことぐらいはわかった。
着ていたスーツが、頑丈なものでなければ、定かではなかったが、そのスーツの傷だけですんだ二人の悪運に、舌打ちをした。
「それじゃあ、おっぱいは?」
「わーーーーっ!なんでもありません!!」
素朴な疑問を呟いた環の口を茉璃香が、後ろからふさいだ。
「先に進めてください!」
どーでもいい知識だが、時速60㎞の風で、おっぱいの柔らかさは、体験できるそうだ。
「それで、原因は?」
「現在不明です。ただし、多くの人が、モンスター達が襲いかかる直前に、なにか、小さな鐘のような、大きな鐘のような、そんな音を聞いたとの、証言があります」
そう・・カッチーーーン!と
なんなんだ?この、コンピュータが、所詮は、光だ幻だという嘲りに、プッツンしちゃったみたいな惨状は!
いや、もう、なにも言うまい・・・
全ては、我が敬愛する、老人の思惑だろうと、一志は、ため息をついた。
「なんで、毎回毎回、俺の目の前に現れるんだ・・」
自らの宿命に、そう深く嘆き呟く。
「我々のやるべき事は、二つだ。一つ、直ちに、暴走したシステムの復旧。もう一つは、お客様の安全な脱出だ。幸い、負傷者の報告なされてない。この数字のまま、退館させるのだ」
そのようで、例外であるケガ人が、この二人なのだ。
ここにいるのは、咄嗟の園長の機転で、落ちてきた二人を掴んで持ってきたからだが。
それが、不幸中の不幸で、残念でならなかった。
「それが、施設、全ての出入り口が、ロックのかかってる事態でして・・」
「なんだと!システムが、そこまで、反抗したのか!?」
「いえ、それは、そこの二人のせいです」
・・・・・本当に、残念だ。
「・・・とにかく、もう、どこか破壊してもかまわん。脱出経路を確保するのだ!」
園長が、そう決断した、その時だった!
「園長!大変です!!」
慌てた様子で、女性スタッフが、飛び込んできた。
「なにがあった!?今度は、空から、宇宙人でも降ってきたか?」
「・・そのようで、上空に、高エネルギー反応です!」
「なにぃ!!」
ノリで、発した台詞が、即座に帰ってきて、自分で驚くことになった。
窓だけ開けて、本来、空である場所を確認してみる。
「これは・・・」
その空が、赤く染まり、翼と葉っぱを足したようなエンブレムが刻まれ、胎動するかのように、エネルギーが集まっていくのが見て取れた。
「まさか?本当に、火の雨でも、降らせる気なんじゃぁ・・・」
「総員!地下に、人間を積み込めるだけ積み込め!!あと、外部にも、要請しろ!兵器を用いてでも、惨状を食い止めてくれと!」
一志の呟きを真摯に受け止めた園長が、命令を発した。
同時に、響き渡った悲鳴は、誰が誰の物だかわからなかった。
客もスタッフも関係なく、取り乱す。
「落ち着け!まだ、そうだと決まったわけではないし、火が降るといっても、花火程度のものかもしれん!次に来る、火災や熱中症の対策をとりつつ、避難するのだ!」
園長の的確な指示で、いくらか、冷静さを取り戻した全員が、その通りに行動しだした。
やはり、一部を除いて、頼りになる。
だが、一人、例外・・指示に従わない者がいた。
「俺が動くしかないか・・」
少年は、決意して、その場を離れるのであった。




