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「う~ん。この辺で、いったん休憩をしますか?」
それから一志達は、ペアを変えて、お目当てのアトラクションをいくつか回った。
しのぶが、よく承諾したものだが。
「そうね。しのぶちゃん!疲れてない?よかったら、膝枕してあげるかね」
「平気です!お姉さま」
今は、しのぶは、茉璃香と、手を繋いでいる。
『一志君が、こまるでしょ』という、矛盾した、耳打ちをされたからだ。
言う方も、従う方も、その事に、本気で気づいてなかった。
「なにやってんだか・・」
意外にも、その事に唯一、気づいたアイリが、そう呟いた。
今は、一志と手を繋いでいる優越感もあったが、この中で、一番しっかりしているのは、自分なのだと、再認識に満足しながら。
「じゃあ、みんなで座れるとこは・・・あそこでいいですね」
こいつは、一番、気づいてほしいものだが・・
一志が指さしたのは、チョコレート色で、山小屋風のレストランだった。
「「「「ふぅ」」」」
奥のテーブル席に、全員が腰をかけると、同時に、小さくため息をついた。
まだ、三人には、一志とクリアした、アトラクションの余韻が残ったままだ。
その幸せな回想を心で反芻しているとき、奥ゆかしく、メイドロボットがやってきた。
「コチラヲドウゾ」
「うわ!」
コトンと置かれた物は、全然、奥ゆかしくなかった。
四人分のドリンクが、カボチャのようなハートのような大きなカップに、一つ刺だけさったストローは、果実の実った樹木ような、曲線を描いて、四つの飲み口が用意されていた。
「ちょっと!」
「ゴユックリ~」
一志の疑問を無視して、メイドロボは、やってきたのと同じように、うやうやしく立ち去った。
「うわぁ!」
女の子達には、受けたようだ。
確かに、見栄えだけなら、綺麗と言っていいだろう。
透き通ってる、グラスとドリンクのグラデーション、撫でてみたくなるようなラインに、ロマンチックな音楽を連想しそうなストロー。
だが!そのストローだ。
一つの端に、四つの飲み口ということは、つまり、そういうことなのだろう。
「やってみたい!」
無邪気な声は、アイリだった。
好奇心からだろうけど、理科実験のフラスコみたいに、気軽に手を・・・いや、口を出すわけにはいかない。
「ちょっと、おもしろそう」
「うん、そうね。みんなで、やってみましょう!」
「・・・・・」
テーマパーク側の余計な世話だと思ったが、それは、一志の目が濁っていたからのようだった。
それはそう、仮にも、エンターテイメントだし。
一志のような、特殊な事情を想定しろというのが、無茶だろう。
「さあ!みんなで、せーの!いこう!」
「お兄ちゃんは、わたしの隣」
「一志君!グッと、近づいて」
「いいのかな・・いいんだよな・・」
こうなったら、覚悟を決めるしかない!
どんな覚悟だ!!!つっこむヤツもいるだろうが、意を決して、三人の可愛い娘つきのストローに、唇を付ける。
「んーー」
まずアイリから、そして、しのぶ、一志、茉璃香と、ドリンクを飲んでみる。
「んーーー!」
すると、ドリンクが、ストロー内で、乱反射をおこして、カラフルな色彩を醸し出した。
「んわぁ!」
それぞれが、ストローを通っていく加減によって、七色が混ざり合い、常に変化する。
「・・・・・」
綺麗だ・・・
唇が動くなら、素直に、そう口にしていたかもしれない。
それは決して、多彩な液体に、目を奪われたからではない。
それが照らす、女の子達に、心を奪われたからだ。
胸の高鳴りを抑えられないこの状況で、できることなら、この身を三つに引き裂いてでも、三人と、平等に、お付き合いしたい。
不埒とわかっていて、そう願ってしまった・・・・・
デンデンデンデンデンデンデンデン!
なんだ、このラスボスの登場っぽい効果音は!
至福の時を味わっている一志の耳に、それを邪魔するような、不快な音楽が、パーク内スピーカーから放たれた。
『よう!一志!この世の春は、満喫したか?!』
『もう、この世に未練は無いだろう。地獄から蘇った僕たちが、地獄へ送り返してやる』
「・・・・・」
本当に、邪魔もの以外の何物でもなかった。
しのぶにとどめを刺させたことに満足して、遺体を確認しなかったことがミスか。
「みんな、ここで待ってろ!」
巻き込んではいけないと、一志は、一人で飛び出した。




