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「長いようで、短いつき合いだったな」
「あっ!しのぶちゃんには、ダミーの映像、流してあるから」
「・・・・・」
この光景に、一志は、うなだれる。
「フッ、ショックのようだなぁ。かつて、友と信じた者に裏切られて」
「気味が悪いんだ。可愛い子を独占するから」
・・・・それが、本音か・・
それが、正義だと、当人たちは、信じてるみたいだが。
ご丁寧に、このステージに合わせて、スーツタイプの衣装で現れた、功一と清孝。
手には、それぞれ、赤と黄色に光を放つ、刀剣を持参している。
「・・念のため、聞いておくが、どうやって、抜け出した」
改心を示して、解放されたとは、思ってないらしい。
「ふっふっふっ、常にかけている、この眼鏡こそ、最強の眼鏡だと、気づかなかったようだなぁ」
ようするに、常備している眼鏡に、端末を仕込んでいた訳か。
「それで、いろいろ、セキュリティを解除したわけだ」
「そういうことだ」
「この程度の拘束なんて、僕らにかかれば、お茶の子さいさい」
とりあえず、納得したことで、一志は、ゆっくり起き上がった。
「さあ、覚悟はいいか!?きっとお前は、自分がどんな大罪を犯したか気づくことなく、消えていくんだろうな」
「その散り際だけぐらは、僕たちのメモリーの、はじっこぐらいには、残してあげよう」
「こっちも!望む所なんだよっ!!!」
傷心により、頭がたれた・・・なんてわけがない。
緊迫したタイミングで、まぬけた顔が、二つも現れたものだから、つい、脱力してしまっただけだ。
「うわっ!」
「どわっ!」
投げつけた、回転しながら飛んでくる、刀を大きく避けてるスキに、一志が間合いを詰めて、二人の剣を取り上げた。
「こっちは灼熱で、こっちは電気か?えい!」
「「ほぎゃーーーーーーーーーっ!!!」」
そして、なんの躊躇いもなく、それぞれの持っていた剣をそれぞれに、突き刺した。
もう、バスで相乗りになったときに、この可能性を考慮していたのだ・・・ここのアトラクションを利用して、この二人を抹殺する方法はないかと。
頬の血で、完全に、スイッチが入ってしまった。
「なにをする!これは正義だぞ!淘汰だぞ!やり返すなんて、許されると思っているのか!?」
「そうだそうだ!裁きの雷を自分が使うなんて、罰が当たるぞ!」
「じゃかやしい!!どこの正義だ!それなら、こっちはこっちの正義だ!!」
今度は、剣を取り替えて突き刺した。
「「はんぎゃわらーーー~~~~」」
反撃されるなど、思いも寄らなかったみたいな、間抜けな悲鳴を上げる。
・・・・・ほんと、私怨で、人を攻撃するヤツって、自分に返ってくる可能性を考えないんだよな・・
本気で周りも、世界も、神さまも、全部、自分に味方してくれるはずだと信じているのか・・ただのバカなのか・・・・・
「あぎゃ!ひぎゃ!ぼぎゃーーー!!!」
「あべっ!うばっ!ひぶっーーー!!!」
「へっ!きたねぇ楽器だ」
自分でやっといて、とても鑑賞に堪えなかった。
もう、一気に決めてしまうことにした。
「さらばだ、自称親友。たとえバレても、事実は、ありのまま、語ってやるからな」
「そうは、させるか!」
「うわっ!」
功一が、眼鏡をカチッと押したところ、とたんに辺りが明滅し、一志は、目を開けられなくなった。
「これは!」
赤青黒と、瞬きほどの間に、次々と光が入れ替わる。
それだけで眼球が疼き、見続けると、それが脳まで届きそうだ。
「光過敏性発作って、やつか!!」
「そのとうりだ。できれば、この手段は、使いたくなかったが・・」
強い光、瞬く光をそれが見る人の脳が処理できないほど放てば、気分を害してしまうケースがある。
ホログラフを操作して、それを意図的に行ったわけだ。
「いぎゃーーーー~~!目がっ!目がぁーーー~~!!」
「我慢しろ!我らにとって、本懐だだろうが!」
仰向けに転がってたため、その攻撃をまともに食らった清孝が、苦しみのたうっている。
そして、功一の方も、目を細めて辛そうだ。
「・・だったら、やんなよ」
追い詰めたのは一志だが、そうつっこまずにはおれなかった
「んで、どうする?そんな自爆技で、まだ、俺と、やり合う気か?」
「諸刃の剣と言え!かさねて、この手段は、使いたくなかった・・」
「だろうな」
「うおぇ~~~~」
そこに、毒虫飲み込んだカエルまんまのものがあったら、誰でもそう思う。
「発光のタイミングは、俺が握っている。俺も方が、優位なはずだ」
そうかもしれないが、ゴーグルぐらい用意しておけって。
視覚を封じられた上での戦いか・・
達人同士というならともかく、観戦者がいたら、ヤジや嘲笑が飛び交う戦いになりそうだ。
「そんなのごめんだ!」
一志が閃いたのは、映像が消えて、配線や配管がむき出しになったスペース内で、一本の剣を功一の頭上にあるスプリンクラーの配管に、もう一本を『冷却』と記載された後ろ上の配管に投げつけた。
ブシャーーーーーーーーッ!
とたんに、破損した配管から、大量の水と冷気が吹き出した。
「これは!?そうか!低体温症によって、俺の行動を奪う気だな!なめるな!!寒さぐらい!気合いで、乗り切ってやるわっ!」
ズザザザザザーーーーーーーッ!!!
「ぎゃぁーーーーー~~~・・」
噴き出した水は、功一の体にたどり着く前に氷の礫と化し、その体をズタズタに引き裂いたのだった。
「・・いや、凍結させるか、心臓麻痺かで、即死させられないかって考えたんだけどな。これはこれで、いいとしよう」
ぼろ雑巾みたいになったかつての学友をぼろ雑巾を見るような目で眺めながら、呟いた。
「もう、蘇ってくるんじゃないぞ」
思いがけない成果を上げても、その成果が、最初からなんら実りのあるものでなかったら、こんなものだろう・・
「むわぁだだ!!!むわぁだ、終わらんよ!」
口元をベッタリ汚した、カエル・・・じゃなかった、清孝が起き上がっていた。
「顔ぐらいふけよ・・」
「アハハハハ!もう、得物はないな!邪魔する者もいない!僕の、一人勝ちだーーーっ!!」
いろいろ間違ってる宣言をしながら、清孝は、眼鏡に手をかけた。
「あっ、しのぶか?うん、こっちは、やっかいなのに掴まっててな。そこから狙えるか?
射程外!?いや、お前には、自前のがあるだろ、そっちで頼む。全弾!撃ち込んでやれ!!!」
ズダダダダダダダッ!
「ギャァーーーーーーッ!!」
ひざひざの、しのぶ特性の強化ゴム弾である。
それが、一志の指示で、清孝の体を蜂の巣にした。
「お兄ちゃーーん!」
靄をかき分けて、しのぶが飛びついてきた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」
一志の胸に顔を埋め、そう何度も呼びかけた。
「ああ、俺だ。やっと会えた」
本当に、心細かったのだろうしのぶの気持ちを察して、優しく抱きしめてあげた。
あと、もう一つ、理由があったが。
「イヤーーー!!ゾンビ!」
気づかれてしまったか・・
そう、それを見せたくなかったからだ。
でも、別の物と認識してくれたのなら、問題ないか。
「なんで!?どうして?!ちゃんと、いないとこ選んだのに!」
恐がりのくせに、こういうことに、首を突っ込んでしまうんだよな・・・
それも、しのぶの可愛いところだ。
「落ち着けって。もう死んでるって」
「そうなの?」
「そうだ。俺たち二人で倒したんだ。援護、ありがとうな」
「お兄ちゃ~ん」
これまでになく、お互いのことを思いやりながら、抱きしめ合った。
それでいいのかと誰かが言いそうな気も、ちょっとだけしないでもないのだが、とりあえず、ハッピーエンドだ。
『奇跡は起きた。広大な闇、時の流れすらゆがめてしまう宇宙、異星の怪物の猛攻さえ切り伏せ、再び手を取り合うことができたことが、奇跡でないなら、なんだというのだ!さあ、その愛の力が、長き封印を解放させる!君たちは、永久に離れることのない、永住の地へと、帰るのだ』
「うわぁ!」
しのぶが、感嘆の声を上げる。
床から、柔らか光があふれだし、映像の効果だが、抱き合ったままの二人が、ゆっくりと回転しながら、浮かび上がっていく。
建物を突き抜け、空へ舞い上がり、やがて宇宙まで飛び出す。
「うわぁ!うわぁぁ!!」
星が瞬き、二人以外、誰もいない広大な空間で、彗星たちが、二人を祝福するかのように、回り出す。
「・・・・」
言葉には、出さなかったが、一志も綺麗だと思った。
「んっ」
足下がおぼつかない不安からか、しのぶが、ぎゅっとしがみついてきた。
「・・・・・」
一志も抱きしめてあげた。
この光景。
この体感。
そして、この淡い、気持ち。
一時の高まりだと意地など張らずに、一生ものの思い出として、胸に刻んでもいいかもしれない・・・
いや、そうしてみようと、誓ったのだった・・・・・
「うぅぅぅぅ・・お星様、神様、悪魔でもいい。我の願いを聞き入れたまえ~」
「この魂を売るから、この男に鉄槌を~~・・」
なにを今さらみたいな、うめき声が聞こえたような気がしたが、こっちは、忘れてもいいだろう。




