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「ようこそ、『ミノタウロス』へ。愛と勇気と夢とりまくステージへ!」
「お~~~、テンション上がる~」
一志は、感嘆の声をあげる。
スタッフに通されたのは、両側が、巨大でクリアなモニターになってる部屋で、そこに飛び出していけるかのように、違う世界が紹介されていた。
「わ~~~、いろいろある~」
しのぶも、気に入ってくれたみたいだ。
「槍にムチに双剣まであるのか・・これは、悩むな~」
あと、EASYモードで、マシンガンやバズーカーまであった。
もう、日本刀と決めているけど、これは、何度も来たくなるかもしれない。
「わたし、これにする」
「・・・・・」
しのぶが選んだのは、ハンドガンだ。
ちょっと、トラウマっぽいものを刺激されてしまった。
「二人とも、お決まりですね!では、めくるめくワンダーランドへ、しゅっぱーつ!!」
奥へ向かうと、そこが、それぞれの立つ位置らしいパネルと、捕まるべきポールがあった。
ちょっと、警戒したい気持ちはあったが、逆らわず、一志としのぶは、手足を肩幅に掴まった。
ちゅど~~~~~~~~~ん!!!
「うわっ!」
「キャーーッ!!」
ちょっと、コミカルな、爆発音とともに、辺りが、赤と黒に明滅しだした。
そして、立っていたパネルが、右と左、逆方向へと動き出す。
実際にはそれほどのスピードではないのだろうけど、流れるヴィジョンの効果もあって、数倍の感覚で、二人は離れていく気がした。
「しのぶーーー!!!」
「お兄ちゃーーーん!」
手を伸ばし、互いを心配しあう。
・・・・・あとで、演出であることに思い立って、気恥ずかしくなるのだけど・・
スイーーーーっと、連れてこられた先は、暗雲立ちこめ草も生えない、あるのは、金属でできた、ドーム型の建造物のみの岩場で、まるでSF映画に迷い込んだみたいな光景だった。
『おにいちゃ~ん!』
「しのぶか!?どこだ!?」
声が聞こえたのは、正面にあった、オブジェからだった。
真四角で、謎の文字が刻んであり、石と金属の間ぐらいに見える。
『大変だあ!貴方たちの乗っていた宇宙探索チームの船が、突如、隕石の衝突によって、未開の星に墜落してしまった!!離ればなれになった二人が、この星から脱出するには、遺跡の最深部にある、超古代文明の遺産、ワームホールを発動させるしかない!さあ!行くのだ!胸に熱き思いを秘めたる者よ。迫り来るエイリアンを倒し、未知への恐怖など振り払い、再び会えることを信じて!そうすれば必ず、愛の奇跡が起こせるだろう!』
「・・・・・」
ちょっと、飲まれてしまった。
こういうアトラクションだった・・
ようするに、これから、選んだ武器を手に、ドームの奥までたどり着かねばならないということか。
『お兄ちゃ~~ん』
「ああ、しのぶか?どこにいるんだ?」
『わかんない、岩ばっかりで、丸い建物がある』
しのぶの声は、オブジェからではなく、そこにあった、インカムからだった。
手に取り、口元に持ってくる。
「こっちも、同じ眺めだ。な~に、ちょっと、ビビったけど、俺たちは、同じ建物の反対側にいるみたいなかんじだな。映像だから、回り込んでも会えないだろうけど」
『どうしよぅ~・・、もう会えないの』
「そんなわけ・・・、落ち着け。これから真っ直ぐ、中に入れば、会えるって。ちゃんと、武器を忘れないようにしてな」
『うん・・・、あった。これで、お兄ちゃんに、すぐ会いに行くから』
う~~~む、すっかり、取り込まれてしまったか。
けっこうなことだ。
「俺のは、こっちだな」
そこにあった、ガラスケースに手を伸ばすと、プシュッと開いて、少し太めで、未来的なデザインをした、刀が現れた。
鞘も一緒だ。
ニーズに応えてる。
刀を鞘に収めて、いつの間にかに変わっている、服装の帯に差した。
淡く光を放っていて、侍と忍者を足したみたいな、白い衣装だ。
「よし!他にはないな。あわてて転んだりするんじゃないぞ。大丈夫、こうやって会話もできるんだから。お互い、状況を確認しながら行こう」
『うん・・おにぃ・・・イヤ・・・』
「しのぶ!どうした!!なにがあった!!!」
音声にノイズが混じり、途切れ途切れになり、次に、ツーーーーという電子音だけになった。
「しのぶーっ!!どうした?!しのぶーーー!!!」
さすがに、不安になってきた。
だが・・・
「行くしかないか・・」
きっと無事だと信じて、前に進むしかない。
なんだか、一志も、飲み込まれてきた。
「うわぁ!早速、出てきた」
地面から、ゆらりと影が現れた。
立体映像であろう、黒くて、平面的で、首のない人影が、のたのたと、歩いてくる。
「ぬえい!!」
ちょっと、抜刀術のまねごとなんかしてみる。
すると、切り裂かれた影に合わせて、刀がバイブして、影が消えていく。
「おお!」
感嘆の声を上げてしまった。
男の子として、高揚感を押さえられない。
「てい!しゃあ!!」
続けて、向かってくる影を上段から右薙ぎへと、倒していく。
「ちゃんと、切った感触がある!」
厳密には違うのだろうが、刀が映像を通り抜けるさいに、反作用の手応えがあった。
ただの、模造刀を振り回すだけなら、これだけ、のめり込めないだろう。
「奥義!!」
つい、漫画で読んだ、必殺技の名を叫びそうになった。
しのぶを助けに行くのが最優先なのだと、やめておいたが・・あるいは、未知なる何かの、妨害があったのかもしれない。
「ここだな・・」
十影ほど切り伏せたところで、扉っぽいパネルの前に着いた。
胸の高さに、掌のレリーフがある。
『おにいちゃん!』
「しのぶか!?繋がった!」
インカムから、焦っているような、しのぶの声が聞こえてきた。
『お兄ちゃん!そこにいるの!?』
「ああ、いるぞ。へんな、扉の前だ!」
『ああ・・引き裂かれた二人に立ちはだかるのは、未知なる壁、それは、声は届いても、一つの宇宙を隔てているようだ。だが大丈夫。二人の気持ちが繋がれば、遺跡は決して、貴方たちを拒まないであろう』
「・・・ようするに、ここに手を合わせろってことか?」
また聞こえてきたナレーションをそう判断すると、扉が変化して、そこに、さっきまでとは着ていた物が違うしのぶが、まるで、宝石に閉じ込められてるみたいに、映し出された。
「お兄ちゃん・・」
インカムの声と、映像の口の動きが重なる。
間違いなく、しのぶの今の姿だ。
「よしいくぞ!」
ちょっとテレながら、画面ごしに、しのぶと手の平を合わせてみた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・
重低音を響かせて、扉が開いた。
もちろんそこに、しのぶはいない。
『お兄ちゃん、まだ会えないの!?』
「あわてるなって。今の俺たちは、宇宙探検家だ。思いっ切り、冒険しようじゃないか」
『うん・・でも・・---』
「どうした!?おい!・・また聞こえなくなった・・」
もう、おわかりだろうが、これも、演出の一つである。
指定した難易度によって、話せるタイミングとか、時間とかが、異なるのだ。
「前に進まないと、ダメみたいだな」
いろいろ考えず、一志も、楽しむことにした。




