partⅢ①
外が明るい。本当に時間を遡ったんだな。歩きながら窓に目を向け、そう思った。
自分の教室の前まで来ると、花瓶の水を入れ替えた美野さんの姿が教室の窓から見える。
今もう一度美野さんに告白しよう。教室に誰かが来る前に!
よし、今度こそ成功してやる!
そう心の中で気合いを入れ、ドアを開けた。
「お、オハヨウ美野サン……。」
過去に遡る前の放課後の悲劇を思い出し、予期せぬ緊張に思わず片言になってしまった。さっきの気合いはどこ行ったんだ、戻ってきてくれ。
「おはよう那谷君。今日は来るの早いのね。」
挨拶を返してくれたが声に元気がない。朝に弱いんだろうか。
朝の日直の仕事を終え自分の席に座り、机の上に腕を組んで寝る体制に入る。
「ちょっと待ってくれ。言いたいことがあるんだけど……。」
美野さん 「……何?」
寝ようとするところを邪魔したので、腕から顔を出して俺を睨んでくる。怖いなー。
あーどうしよう。普段もテンションは低い方なのに朝はさらにテンション低い。暗すぎて美野さんの後ろに黒いオーラが見えそう。
安易にすぐ告白しようなんて思わなかったらよかった。
「何?」
早くして、と言わんばかりに語尾を強めに聞いてくる。
那谷「えっと……」
告白する気がなんだか失せてきた。話しかけてしまった以上何か言わないと……、
焦っていると、廊下から同じクラスの奴の話し声が近づいてくる。それに気付いた俺はすかさず、
「今日の放課後にまた言うよ」
そう言い残し、そそくさと美野さんから離れた。
と同時にチャラ男と2人が入ってきた。
危なかったー。アイツに見られたら何てからかわれるか分からない。
一安心し、自分の席に座って美野さんを見てみると既に机に突っ伏して寝ていた。
朝に弱いのは知らなかったな。知っていたら話し掛けなかったのに。
授業中、早く放課後にならないかと美野さんを好きになった瞬間の時をふと思い出していた。
あの頃は新学期早々に授業中、教科書を忘れたことに気付いてあたふたしてたっけ。
そしたら美野さんが教科書を見せてくれたんだったよな、たしか。何でそんなことで惚れたんだろ。
今から考えるとバカみたいな理由だな。
昼休み、俺は食堂でカレーを食べようと、空いている席に座った。
独りでカレーうめぇなーと思いながら食べていると、
「ここ、座っていい?」
横から突然美野さんが聞いてきた。俺は驚いて噎せながら頷くと、机を挟んで俺の正面に座った。