partⅡ③
「なんだ、その小さい賽銭箱。」
今何に使うんだよ、それ。
「俺の慰める会云々は置いといて、願い事をどうやって叶えるんだよ。」
「んー簡単やで。この賽銭箱にお金入れてうちに願い事言うだけや。必ず叶えたるで。」
簡単やろ?そう言って、両手でバッと勢いよく賽銭箱の口を俺に向けた。
小銭を入れたら願い事を必ず叶えてくれるのか。今の俺はついてるな。この子の言うことが本当なら。
財布から10円玉を取り出すと、
「え~、10円嫌やわ~諭吉さんか英世さん持ってへんの?」
「札は出す気はない。」
「え~。じゃあうちの言ってることあまり信じて無さそうやしー…。」
関西弁の女子は頬杖をついて考え込み出した。すると、
「じゃあ後払いで野口さん頂戴やー」
それだったら損はしないか。どうせからかってるだけだろうし。
「無いもの創ったり過去飛ばせたり、基本何でも
OKやけどどうする?」
「じゃあ…、美野さんが俺の告白をOKするようにしてくれ」
「ゴメンゴメン。言い忘れてたわ。依頼主以外の人の気持ちまではうちではどうすることもでけへん。」
と言いながら幸せそうにバナナジュースをイッキ飲みした。
「ふーっ、美野さんがOKするかは那谷君次第やなー」他人事のように言う。まあ他人事なんだけど。
「じゃあ昨日の朝に時間を戻してくれ。美野さんが日直の仕事で早めに登校してくるはずだから。」
「わかったー。じゃあ今から叶えるで。」
そう言うと、関西弁の女子はカッコつけて片腕を上げ、指をパチンッと鳴らした。
「……。」
「……。」
沈黙が流れる。
「何にボーとしとんねん。願い叶えたで?」
「えっ!?今ので!?」
驚きを隠せずオーバーリアクションをしてしまった。
「ほら、窓見てみ?」
窓の外に指を指した。すると、さっきまでの気持ち悪い空は俺の知っている青い空に戻っていた。
家庭科室の時計を確認すると、短い針が8時を指している。マジか。この子の言うことは本当だったのか。
「でも漫画とか映画みたいに、車やタイムマシンに乗って過去に遡るのかと思ったよ。」
ちょっとがっかりだな。期待と興奮を胸にタイムスリップを体験したかったなー。
「んー。そういうのしてほしかった?でも実際そんなんしんでも過去に飛べんねんなー。」
分かりやすいように指鳴らしたつもりやってんけど。ぶっきらぼうにそう言って、一言謝った。
「謝るなよ。俺が勝手に少しガッカリしただけだ。」
「うーん、次からは気を付けとくわー。」
「そや、はよう行かな美野さんとの二人の時間なくなんで?」
ああ、そうだった。この子と居たらいつまでも喋ってしまいそうだ。そう言いながら席を立つ。
「じゃ、今日は頑張ってくるよ。」
「うん応援しとくわー。」
軽く手を振る関西弁の女子に背を向け、俺は家庭科室を出た。
あ、そのポテチ不味い種類多いから、人に勧めるのはやめた方がいいぞ。
言ってやろうと思い、再び家庭科室を覗いたが、そこには関西弁の女子はいなかった。
開けたポテチの袋もバナナジュースも無かった。