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時間屋さん~運命の修復使~  作者: ジョセフ武園
朱に交わらば赤くなる
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運命不良者 山嶺さやか~その4

目が潰れるかと思った。

しばらく、チカチカとして、目が痛む様に瞼が痙攣する。


3分程だろうか、ようやっと景色が見えるようになった。

目の前には、あの少女。


「う……なに?さっきの眩しいのは……?あなた、何をしたの?」

私のその言葉に、彼女は答えなかった。ただ、私に何かを差し出してきた。


「なにこれ?プリン?」

少女の手には大きなプリンがあった。

私は訳も分からずそれを受け取る。


「これ?どうしたの?」

私の問いに、彼女はようやっとこう答えた。


「あなたには、そのプリンを買った記憶が残っている筈ですよ。」

また、この子は、訳の分からない事を……そう思った時だった。


「‼」

私の脳内に、あるフラッシュバックが蘇る。


それは、先程のコンビニ

私は、お酒だけではなく、何かを買おうとしていた。

牛乳をてにとったところで

少し離れたところにあったプリンが目についた。

何となく

本当に何となく

私は牛乳から手を引き

プリンを買った。


「なに……これ……」

私は、慌てて財布からレシートを取り出す。

「………‼」

レシートにもお酒とプリンが記入されていた。

「え………牛乳は………?」


「牛乳を買った運命から、牛乳ではなく、プリンを買った運命に変更したのです。」


そう、私に語り掛ける少女の目に、私の背筋が「ゾ」と寒気を覚えた。

この子は

私の常識を凌駕する

奇妙な存在だ。


「私の話を信じて頂けましたか?」

信じれるはずが無い。

でも

彼女は、間違いなく普通ではない事を

今、私の目の前で

私の中でやってのけた。


先程、彼女の話を聞いて、漫画の話に例えたが。

本当に漫画の様な事が私に起きている。

それだけは理解できる。理解はできるが………

28年以上、この「現実世界」に生きてきた私には

それを「受け入れる」事が非常に難しいのだ。


私は、頭の中と、感情がグネグネと交差する中で、やっと言葉が出せた。

「わらしの時間が、不良品って、どういう事なの?何が変わるの?」

緊張で口が渇いて、上手く喋れなかった。


「大きく。あなたを巡る周囲の全てが変わります。」

「ッッ‼」一瞬ムッときた。こんな、年端もいかない見た目の子に、自分の我慢しながらも生き続けてきた大切な時間を、まるで意味のないものの様に言われたからだ。


しかし、その感情が大きくならないのは。

この有り得ない事態に


私が少しずつ「期待」していたからだ。


時間を巻き戻せる?

運命を変更できる?

今の自分を………この手の中でプリンに変わった牛乳の様に?


思わず生唾を飲み込む。


「話が……うますぎるわ……何か……不都合も在るんじゃない?」

本当は、すぐにでも飛びつきたい甘い話。

でも、その甘い話には………必ず何かある。

その警戒心が、私を一歩、少女から遠ざけた。


「在る可能性が在りますね。」

ほら、やっぱり。

「勘違いしてはいけませんよ。山嶺さやかさん。」

少女は、私の内心を読み取るようにそう、続けた。

「在る『可能性』が在るのです。」


「…………また、難しい話?」

「いえ、至極当然の話です。」

少女は、そう言うと、私の前に、両手を出す………本当に、小さく弱そうな子どもの手だ。


「例えば、山嶺さやかさんの今の人生が、右手だとします。こちらは不良品の運命ですが、あなたは今この瞬間まで生きていますね。」

「次は、左手が、正しい運命だとします。今とはまるで違う人生があなたを待っている事でしょう。ただ。稀な事ではありますが。正しい運命の方が『不幸』な方が居る事も、また、事実なのです。」


「つまり、正しい運命で、あなたは今より苦しむ『可能性』も在るという事です。」

「なにそれ。意味ないじゃん。」

私の言葉は、余裕を失い、小さな子どもに見える彼女に、タメ口で反論する。


「あくまで『可能性』ですから。天界使としては、不良品の運命を与えてしまった事の申し訳なさでいっぱいです。だから、こちらの一方的なやり方で、正しい運命に巡らせるのではなく、この『運命の返品』は、対象者であるあなたに、決定を委ねます。」


「今のままの人生を生きるか。運命を変えるか。」


「あなたの決定を尊重します。」


「な………。」突然、強くまくしたてられ、私は言葉を失う。

そして、想像する。「あの日」から失われた私の明るく、楽しかった時間。

もう一度、あの日に戻れるチャンスが在ったなら。

口に出す事も無く。

妄想の様に頭の中で思い浮かべて虚しくなった。


見てみたかった。そして、そこに居たかった。


私は今。

私は今、このふざけたような浮世離れした事態に

縋ろうとしている。


「まだ……」

「まだ、聞きたい事があるわ。」


その言葉に、少女は、顎をあげて、にっこりと微笑む。

「はい、大切な事ですからね。何なりと。」

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