運命不良者 山嶺さやか~その2
私は、しばらくその子と目が合う。
あれ?今日ってハロウィンか何かだっけ?と、その魔女の様な怪しい恰好の少女を暫し見つめるが
向こうも、一瞬もこちらから目を離さない。何、この子、やばい。
私は、振り返ると、部屋に鍵を掛けて、なるべくその子を見ない様に、階段へ駆け足で向かった。
関わらない方がいい。そう思った。
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コンビニで、自分よりも若い子たちが居ると、寂しくなる。
彼女達は、とても楽しそうに生きているからだ。
「はぁ」溜息を吐きながら、奥の飲料売り場でお酒をカゴに入れる。お酒ばっかりだとなんか恥ずかしいので、牛乳も一応買っとく。
「1096円になります。」
レジ袋に、重みを感じながら、私は帰途に着く。
「うん?」
アパートの入り口、子どもがまるで母親を待つように体育座りで待っていた。
ただし、その子は
出る時に居た、あの怪しい恰好の少女だ。
「あ。」
向こうも私に気付いた様だ。立ち上がり、きょろきょろと、お尻を見てはたいている。
どうしよう。
関わりたくないけど
この子、明らかに私に何か用事があるみたいだ。
部屋の前に居たのも、多分………偶然じゃない。
「あなた、どうしたの?こんな時間じゃ、ご両親心配してるわよ?」
早めに声を掛ける事にした。
すると、その子は私にしっかりと目を合せて言う。
「山嶺さやかさん。昭和63年4月9日生まれ。血液型A型、山嶺恵三さんと、山嶺啓子さんの間に、次女としてこの世に生を受け、誕生する。」
その言葉に、ギョッと私は驚き、手のレジ袋を落す。
「K大学を経て、㈱ミサカイに入社。2年目に上司と不倫の噂を流され、退社。その後も職を転々とするが長続きせず、現在は、春よりH出版にて、契約社員として務める。」
「あなた……何言って………」
「間違いありませんか?」
私の顔を、彼女は大きな帽子ごしに見つめてくる。
「あなた………誰?」
怯える私を見ると、少女は「ホ」と、胸を撫で下ろした。
「よかった。対象者にしか私の姿は見えないとはいえ、一人で任務にあたるのは、今回が初めてだったんですよ。あ~、間違いなく、対象者ご本人に会えて安心しました。」
私を置いて、少女は何かに納得する。
「ねぇ?あなた、何言ってるの?どこの子なの?何で、私の事をそんなに知ってるの?」
私はパニック寸前だ。ぎりぎり冷静にそう言えるのは、相手が子どもで
私より恐らくは弱者であろうからだ。
その言葉に、少女は「ハッ」としたように、身体を伸ばした。
「す、すいません‼まだ、こちらの紹介がまだでしたよね??」
「ご、ごごごごごめんなさい‼驚かせるつもりはなくて‼あわわわ、せ、先生、どんな風に言ってたかな?」
同時に、少女が慌てだした。その姿を見て、私は少し落ち着いた。
そして、そんな私に、彼女は言った。
「わ、私は、天界時間制定支部。運命修復使、アズメです。この度は、山嶺さんの不良品の時間を修復しに、天界から参りました‼ど、どうぞよろしくお願いします‼」
初夏の夜の風が、生暖かくその意味不明な言葉を私に流してきた。