7.上衣と管理人F
ちなみに、リュウジ君たちに私のスキル構成を教えた結果。
「店長らしいですね」
「店長さんらしいです」
「さすがはマスター、期待を裏切りませんね」
と、三人とも同じようなことを言っていた。
はっはっは、さすがは常連さんだね。私をよく分かっていらっしゃる。
リュウジ君たちはこれから用事があるらしく、フレンド登録をしてから別れることにした。
談笑をしていたら思っていたよりも時間が経っていたようで、ゲーム内時計を確認したら、ミス・マリアの店を出てから既に2時間が経過していた。
そろそろ私の上衣もできている頃合いだね。
完成した上衣を想像しながら5分ほど歩き、私は再び『裁縫マリア』に足を踏み入れた。
「あら剛さん、おかえりなさぁ〜い。上衣、できてるわよん」
ミス・マリアから上衣を受け取り、さっそく着用してみる。
肌触りもさることながら、色も実に見事。多少力を込めてみたが破れる気配もなく、丈夫で伸縮性に富んだ素材が使用されていることが分かる。しかも、これはタンクトップだ。私の好みがよく分かっているね。
ちなみに、色は檜皮色だ。
これを2時間で仕上げたというのだから、ミス・マリアは素晴らしい腕前をしていると思う。
「どう?気に入ってもらえたかしらぁ?『カラーネアの糸』のダスキーレッドが余っていてね、それを使わせてもらったわ。強度も申し分ないわよ」
「うむ、すごく気に入ったよ。丈夫な上に肌触りも良くて、タンクトップときた。文句の付けようがないね」
「タンクトップにしたのは素材費の節約のためだけどね」
「はっはっは、それでも構わないさ。とにかく、こんなにも素晴らしい上衣をありがとうミス・マリア」
お礼を言って、代金の1万ゴルドを手渡す。所持金は念じれば手から出てくるらしく、支払いは楽で良い。……が、手から湧いてくる金貨というのも、如何なものかね。
「ワタシはワタシの仕事をしたまでよん。これからも『裁縫マリア』を御贔屓くださいねぇ〜」
「ああ、これからもよろしく頼むよ。ミス・マリア」
ミス・マリアと固く握手を交わし、私は店を後にした。
さて、上衣も手に入ったことだし……いや、その前に昼食を済ませて、それから狩りに出かけようか。
では、ひとまずログアウトにするかね。
◇◇◇【とある管理人視点】◇◇◇
私は管理人F。『Somnium-Res』のチュートリアルAIとスキルの管理を管轄する、運営の者だ。
半世紀以上の年月をかけてようやく完成まで漕ぎ着いたこのゲーム。私がそのチュートリアルを受け持つことができるのを誇りに思う。
思えば、長い道のりだった。
……いや、今は思い出に浸るのはよそう。私には、今すべき大切な仕事がある。
今日は『Somnium-Res』の正式サービスの開始日だ。チュートリアルサーバーには多大な負荷がかかることが予想される。
販売台数を制限し、負荷試験も問題なくクリアしているから、サーバー自体が落ちることはないはずだ。ただ、何事にも万が一ということがあり得る。
故に、管理人である私もログインして、早急に問題に対処できるようにしているのだ。
そして現実時間にして午前8時。とうとう、正式サービスが開始された。
開始直後の怒涛のチュートリアルラッシュに入っても、AIの調子も良好。システムにも異常はなし。
徐々に負荷が減り、問題なく終わりにできそうだったそのとき、1483番のAIが機能不全に陥った。
すぐに1483番のチュートリアル履歴を見る。
プレイヤーネーム:剛天
戦闘チュートリアルのために用意したモンスター:ビッグコッコを武器を使わずに開始4秒で殺害。迷ったものの、初期装備用の武技を付与。
次も一撃で倒されては治療チュートリアルに支障をきたすため、ビッグコッコの上位種を召喚。瀕死の重傷を負うものの、無事生存。強制操作でプレイヤーネーム:剛天を攻撃するも、反撃を受け死亡。
治療チュートリアル、実行不可。
剥ぎ取りチュートリアルに移行。
プレイヤーネーム:剛天は指示を無視。しかし条件を満たしたため、剥ぎ取りの上位スキル【解体】を獲得。
剥ぎ取りチュートリアル、継続不可。次のチュートリアルに移行……
その後も小さな負荷が積み重なり、とうとう動作不良に至ったらしい。
この『剛天』というプレイヤーは一体何者なのか。
AIの機能が回復しても、疑問が解消されることはなかった。
結局、後日プレイヤーアバターの管理担当の管理人Bに頼み込んで『剛天』のアバターを閲覧するまで、私は悩み続けることになった。
彼のような人物がこのゲームをプレイすることになるとは……本当に、世の中何が起きるか分からないものである。
胃もたれを起こして、更新遅れました。
本当は、戦闘まで書くつもりでしたが……間に合いそうになく、無理やり運営の話を入れました。何か不可解な点などありましたら、ご指摘ください。