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筋肉が往くVRMMO  作者: 多摩季 熊
第一章:幕開
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3.チュートリアル

 



 諸君、おはよう。


『Somnium-Res』の正式版発売から5日、今日がその正式サービスの開始日だ。幸い、店が休みの日と被ってくれたからね。今日はとことん楽しむとしよう。



 昨日、キャラクターメイキングをしてからというもの、気持ちの昂ぶりが抑えられなくてね。興奮のあまり夜も眠れないかと思ったよ。


 実際は布団に入った途端に眠りに落ちたのだがね。はっはっは。



 さてと、準備は万端だ。



 朝食と筋トレは済ませて、現在私はカプセルの中で横になっている。

 時刻は午前8時。丁度、サービス開始の時間だ。



 よし、ではログインをしようか。



『Somnium-Res』の電源をONにすると同時に、私の視界は暗転した。





◇◇◇





 視界に光を感じ、ゆっくりと(まぶた)を開く。



「素晴らしい……!」



 思わず、感嘆の声が漏れた。


 草を踏む感触。柔らかな風が吹き渡り、草花が音もなく揺れる。草原に降り注ぐ太陽の光は現実となんら遜色なく、ひりひりと肌を焼いていた。



 肉体も現実のそれと同じ。大胸筋を動かしてみたが、違和感は全くない。僧帽筋や大臀筋もだ。体の隅々に至るまで、リアルに再現されている。



 実に素晴らしい……が、ところで私は何故半裸なのだろうか。



 麻布でできたハーフパンツと靴、滑り止めのついた黒い指ぬきグローブを装備している。これが初期装備であることは理解しているが、何故か上衣がない。代わりに足元にはビリビリに破れた布が……はて?



 そんな疑問に答える者は居らず、ただただ『チュートリアルを開始しますか?YES/NO』のメッセージが目の前に浮かんでいた。



 とりあえず初期装備については放置する事にして、『YES』を押す。




『戦闘チュートリアルから開始します。不要な場合は、スキップで飛ばせます』




 すると、目の前に体長1メートルほどのニワトリが現れた。

 見た目からして、名前はビッグコッコとかラージコッコとかだろう。



 暫定ビッグコッコ君とし、拳を構える。あー、駄目だね全く……年甲斐もなく興奮してきたよ。




『まずは武器で攻撃してみましょう』




 テキストが表示されるや否や、ビッグコッコ君へ向けて走り出す。

 そしてその頭を思い切り蹴飛ばした。




『戦闘勝利おめでとうございます。初勝利ボーナスとして、武技(アーツ)が付与されました』




 鈍い音を響かせ、首がありえない方向に曲がってしまったビッグコッコ君。

 すまない。実戦で筋肉を使える事に興奮してしまって、ついつい本気で蹴ってしまった。

 で、アーツ?何だそれは。




『それでは、実際に武技を使ってみましょう』




 まあ、うむ。使って見れば分かるか。



 再び出現するビッグコッコ君。

 ……あれ、君……さっきより一回り大きくなってないか?




『敵にある程度近づいてください』




 大きさはとりあえず放置して、テキスト通りビッグコッコ君に向かって歩いていく。だいたい距離が二メートルほどになったとき、新しいテキストが浮かんできた。


 なになに……剣を横に構えて『スラッシュ』と口に出してください……ふむふむ、なるほど。


 ……剣は何処だ。


 そういえばさっきも『武器で攻撃してください』と言っていたな。私の武器は筋肉だ……ではなく、そもそも両手剣が見当たらなかったのだ。上衣のみならず武器まで支給し忘れたというのか、運営よ。



 と思ったら、先ほどまでいた地面に昨日の大剣が落ちていた。



 なんだ、私が拾い忘れただけか。運営、疑ってすまないね。



 剣は手に取り、改めてビッグコッコ君に近づく。そういえば、長いこと待たせてしまったね。私に斬られるために……ううむ、できれば斬りたくはないが、仕方ない。




「スゥゥラッシュウゥゥ!!!」




 全身全霊、気合いを込めて叫ぶ。

 瞬間、腕が勝手に動き、ビッグコッコ君を深々と斬り裂いた。




【両手剣スキルのレベルが上がりました】




 おや、どうやらスキルのレベルとやらが上がったらしい。




『武技には熟練度が存在します。鍛錬を重ね、熟練度が上がれば武技の威力も上がります。また、スキルレベルが上がると、新たな武技を入手できます。ただし、武技を付けられる個数には制限があります』




 なるほど。つまり、武技は鍛えなければ強くならないと。ふむ、筋肉のような物だと思えば良いな。

 どんなに軟弱な筋肉であろうとも、鍛え上げれば鋼の鎧になるという訳だ。つまりはスキルもそういうことだと。




『なお、スキルは頭の中で唱えるだけでも発動可能です』




 それを先に言いなさいな。盛大に叫んでしまったではないか。おかげでビッグコッコ君が驚いてしまったのだよ。全く、待たされた上に驚かされ、斬られる……なんと哀れなことか。運営よ、少しはビッグコッコ君に対する憐憫を……。




『それでは戦闘を再開します』




 そのテキストが浮かんだ瞬間、死んだと思われたビッグコッコ君が突如立ち上がり、此方に突進してきた。

 あまりに急だったので剣を構えられず、仕方なくビッグコッコ君を蹴り飛ばす。



「コケェェエェェッ!!?」



 断末魔を上げ、崩れ落ちるビッグコッコ君。

 いや、君。今のは危ないから。私じゃなかったら怪我してるからね。



 ……む?逆に、怪我をしないと駄目だったか?怪我をした際の治療法とかがあったりしたのか?




『ーーガガッ……以上で、戦闘チュートリアルを終了します。続いて、剥ぎ取りチュートリアルを開始します。よろしいですか?』




 おお、良かった良かった。少し間があったけど大丈夫だったようだ。これはアレだね。最後まで油断するなっていうビッグコッコ君の優しい心遣いなんだろうね。ありがとう、そしてすまない。また会おう、友よ。



 ……で、次は剥ぎ取りチュートリアルか。これももちろん『はい』だ。全部やるって決めたからね。私は、やると決めたら最後までやる男だよ。




 その後、2時間かけて全てのチュートリアルをこなした後、一旦ログアウトした。



 チュートリアルのフルコンプリートボーナスで装備品【冒険者のマント】が貰えたのは嬉しかった。



 ……さて。本当に、上衣はどうしたのだろうか。





本来支給されるはずだった上衣は、彼のあまりの筋肉量に装備した瞬間に内側から破裂。

背中に装備された大剣は上衣の消滅の余波に巻き込まれ、地に落ちた。彼がこの事件の真相を知ることはないだろう。

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