2.キャラメイク
今、私の目の前には巨大な箱がある。昨日、リュウジ君がお父さんと一緒に運んできてくれた『Somnium-Res』の本体だ。
もちろんタダで貰ったわけではない。しっかりと二週間分の無料券を渡しておいた。
リュウジ君、小躍りしてたな。うむ、喜んでもらえて何よりだ。
もちろん、お父さんにも一枚渡したとも。泣いて喜んでいたよ。
ところでこの機械だが、二メートルを超える私でも余裕をもって入れるくらいには大きく、店内に運び込むのが大変だった。何やら特殊な素材で出来ているようで、大きさの割に重さは60kg弱と軽く、移動が楽だったのは救いだ。む?重いと?はっはっは。私の筋肉にかかれば、このくらいは一人でも余裕だよ。
さて、本日はゲームの正式サービスが始まる前日。リュウジ君曰く『キャラクターメイキングだけ済ませておくと良いですよ!!』だそうだ。
日課の1時間筋トレも済ませている。準備は万端だ。
カプセルに入り蓋を閉じる。中はクッションのようになっており、そこいらの布団よりも寝心地が良い。快適な温度に保たれるらしいし、明日からここで寝ても良さそうだ。
はっはっは。もちろん冗談だがね。
時計を見ると、時刻は午前5時。
よし。とりあえず、リュウジ君が言っていた『キャラクターメイキング』なるものを終えたら、朝食にするとしよう。
ポチッと。蓋の裏側にある電源ボタンを押す。
一瞬の浮遊感の後、私の視界は暗転した。
◇◇◇
『Somnium-Resへようこそ』
気がつけば目の前にテキストが表示されていた。
辺りを見渡すと、どこまでも白色な空間が続いている。どうやら、随分と殺風景なここが『キャラクターメイキング』のための空間らしい。
ゲームが正常に起動した事に若干の安堵を覚えつつ、宙に浮かぶテキスト右下の『次へ』の文字をタッチする。
『キャラクターメイキングを開始します』
テキストが移り変わり、私の身体全体を写し出す3Dホログラムが出現する。
212cmの身長、黒髪のオールバック、彫りの深い顔、薄褐色の肉体を構成するはち切れんばかりの筋肉が……ううむ、我ながら見惚れてしまったよ。
うむ、実に素晴らしい肉体だ。これは紛れもなく私だね。
次いで、体のパーツを弄る項目が大量に現れた。あまりの多さに、反射的に『次へ』を押しそうになったのは仕方がないだろう。流石にそのままではまずいと理性と筋肉で何とか押し留め、髪の色をくすんだ金髪に変える。そしてしばらくの間、項目を確かめることにした。
「こんな感じで良いね」
大方、項目の確認は終えたが、特に変わってないような気もするね。十中八九、この筋肉のせいだが、だからといって筋肉を減らす訳にはいかない。ボタン一つで筋肉の量を増減させるなど、己の筋肉に対する裏切り行為だ。絶対にしてはならない。
筋肉は、己の努力で増やすべきなのだ。
ちなみに、結局変えたのは髪の色だけだ。はっはっは。時間を無駄遣いしてしまったね。だが、楽しめたから良し。では、他に弄る項目もないので『次へ』を選択しよう。
『名前を入力してください』
ふむ、名前か。
うーむ……剛天……いや、剛にしよう。
『その名前は既に使われています。別の名前を入力してください』
なんと。
確かに剛さんとか偶に見かけるし、あり得る事ではあるか。
ではそのまま、剛天で良いね。
『認証されました。続いて、初期の使用武器を選択してください』
テキストが消え、代わりに両手剣や片手斧、刀等、各種武器のリストが出現した。
試しに一番上の両手剣をタッチする。
すると、虚空から私の肩ほどまである大剣が出現した。
これは所謂、ツーハンデッドソードというやつだね。昔、博物館かなんかで見たことがある。
試しに振ってみたが、重さは感覚的には3kgほど。
軽い。だがおかげで重心がブレづらい。何より、高身長の私から見てもちょうどいい長さだ。うむ、これにしよう。
他の武器を見ることなく、両手剣を選択。
すると、先ほどの大剣が転送されたのか、背中側が少し重くなった。あまり筋力がない者だったらひっくり返るぞ、これ。私はもちろん大丈夫だがね。はっはっは。
『次に、スキルを選択してください』
再び現れる長大な文字列。見ているだけで頭が痛くなりそうだ。
ともあれ、選ばなくては何も始まらないので、上の方のスキルから順に読んでいく。
ふむ、このスキルは良さそうだ。こっちのスキルも素晴らしい。
うーむ、こちらも捨てがたい。おや、『両手剣術』のスキルはもう獲得済みになっているな。
ふむ、選べるスキルは後2つか。悩むな。思った以上に時間を取られてしまったし、急いで決めなくては。
……む?なんだこの好奇心がそそられるボタンは。
『ランダム』
……ふむ。どうやらスキルをランダムで選択するようだ。時間もないし、残りのスキルは両方ランダムで良いか。
『ランダムスキルを2つ獲得しました。スキルが定数に達しました。スキル設定を終了します』
ランダムで決まったスキルは見られないらしい。当日までのお楽しみという事にしよう。
というか、スキルが6つに達したら選び直せないのか。性格のよろしくない運営だね。
『キャラクターメイキングは以上で終了です。サービス開始まで、残り26:11:56』
どうやら終わったようだ。
安堵の息を漏らすと同時にメニューを呼び出し、朝食のためにログアウトした。