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筋肉が往くVRMMO  作者: 多摩季 熊
第一章:幕開
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21.後悔と謝罪の後味

お久しぶりです。不定期で申し訳ない。

 






 ソレは咆哮と同時に地上へ降り立った。軽い地揺れが私と若者君を襲う。ヤツはどうやら上空を飛んでいたらしい。いやはや、盲点だった。まさか、()が空を飛ぶとはね。





「こっ、コカトリス!?西の強MOBがなんだってこんなとこに……」





 ふむ。若者くん曰く、コカトリスという魔物らしい。見た目は、鶏と蛇を足して2で割ったような感じだね。体長は、その長い尾を含めて6メートル前後。体高は3メートルにもなり、長く逞しい首と立派な鶏冠はとても雄々しく、壮烈である。しかし、あの鬼気迫る声からして母親のようにも思えるが……おっと、今は性別など考えている場合ではなかったね。


 問題はコカトリス君にどう対処するか、だが……うむ、やはりこれしかあるまい。




「おい……いくらアンタと言えども、コカトリスに挑むのは無謀だ。逃げろ。こいつは、“石化”の状態異常攻撃を使って……」



「はっはっは、問題ない。少年よ、卵を持ったまま、私に付いてきたまえ」




 若者君には止められたが、大丈夫。別に戦うわけではない。卵を抱えた私たちは、ゆっくりとコカトリス君に近づく。


 低い唸り声で威嚇してくるコカトリス君ではあるが、攻撃はしてこない。いや、彼女(・・)は、卵を案じて私たちに攻撃をできないでいるのか。



 ……少し、予定を変更しよう。



 私は、コカトリス君まであと数メートルの距離まで近づいた。流石に我慢できなくなったのか、爆発的に殺気が高まる。その刹那。




「【破装】」




 私は防具を捨てた。同時に、投擲用に背に差していた大剣も地に落ちる。これで、私は卵とブーメランパンツのみとなった。


 流石に驚いたのか、動きが止まるコカトリス君。その隙に私は片膝をつき、彼女に向けて卵を掲げた。




「すまなかった!!私は、君たちの気持ちを全く考慮していなかった!!卵たちは君に返そう。本当に、すまなかった!!」




 自らが腹を痛めて産んだ子を攫われて、怒らない母親が何処に居ようか。私は、私が恥ずかしくてならない。


 武装を解除したのは、私の誠意のつもりだ。卵を返したところで、彼女の怒りが収まるとは思わない。そもそも、私の言葉を理解しているとも思わない。ただ、私はどんな指弾であろうとも、甘んじて受け入れようと思う。



 無言のまま、姿勢を崩さずに待つ。横目で斜め後ろを確認すると、口をあんぐり開いたまま固まる若者君がいた。



「少年。君も、卵を彼女に返しなさい」



 小声で話しかけるも、少年は固まったまま動かない。仕方ない、ここはもう少し大きな声でーーーーガサリ。



 ふと前方を見れば、なんとコカトリス君が草を踏み分け、少しずつ歩み寄って来るではないか!


 私の謝罪が、少しは届いたのだろうか。殺気は収まり、その瞳はまさに子を慈しむ母親のよう。

 やがてゆっくりと首を曲げ、嘴で卵をそっとつつく。中が空でないこと、子どもが無事であることに安堵した母親(コカトリス)は、嘴を開きーーーーーー。








 ()を食した。






 一瞬、何が起きたか理解できなかった。


 バリボリバリボリ、と何か(・・)が嚙み砕かれるような音が響く。数秒もしないうちにそれが嚥下され、幸せそうな「コケェ」という鳴き声が聞こえたときに、ようやく理解できた。

 その瞬間、既に私の右手には大剣が握られていてーー。






「ぬぅおおぉおぉおぉぉォォォォォ!!!」






 瞬きをする()に、奴の頭は無くなっていた。







 ◇◇◇








「うおぉぉおおぉォォォ」



 現在、私の両の瞳からは滝の如く滂沱の涙が流れている。理由は言わずもがな。



「親が……子を……殺めるなど……あまつさえ……食……ぐぅうゥおおぉぉォォォ」



「剛天さん……自然界だし、そういうこともあるって。だから、その……いい加減俺を解放してもらえませんかね!?ほぼ全裸の筋肉に泣きつかれてるこっちの身にもなってくんね!?そろそろ現実(リアル)じゃ0時になるし、俺そろそろ寝たいんだけど!!」



「ああ、それは駄目だ少年。タンパク質を摂ってから寝なさい」



「立ち直るの早えな!?」




 うむ、私もそう思う。だが、君の筋肉のためにも、こればかりは譲れないのでね。



 おかげで少し冷静になったよ。いつまでも悲しむわけにはいかないね。全く、私は私が恥ずかしいよ。はっはっは、本日2度目だね。


 よし、まずは『破装』を解除……いや、装備が汚れるし、その前にコカトリス君を解体してしまおう。



 スキル『解体』を発動。ふむふむ、まずは大剣でコカトリス君を真っ二つにし、胴体を蛇部分と鶏部分に分ける、と。鶏部分の捌き方はビッグコッコ君たちとほぼ変わらないね。血抜きをして解体、ポイポイっとメニューに放り込む。その際、先ほど食べられた卵と思しき液体が出てきたが、無事に大地に還ったよ。


 次に蛇部分だ。蛇の解体は昔少しやったことはあるけど、これは簡単だよ。まず、皮に剥ぎ取りナイフで切れ込みを入れて、全身の筋肉を駆使して皮をベリベリっと引き剝がす。流石に、太い上に2メートル近くもあるので大変だったね。だが、なんとこれでほぼ終わり。蛇の頭部はもともと無かったし、臓腑のほとんどは皮と一緒に剥がれるからね。あとは布とかで血を拭って、メニューに仕舞っておく。

 皮についた臓腑は食べるには少々難儀なので、穴を掘って大地の栄養にする予定だ。ちなみに穴は若者君に掘ってもらうことにした。スコップ?ああ、そこに私の大剣があるから、それを使いなさい。あと、終わったら近くの草を毟っておいてほしい。




 そして現在(いま)、以前のように私が筋肉パワーで起こした火を囲みながら食事をしている。ビッグコッコ君の肉をふんだんに使った焼き鳥と生卵だ。一口大に切り分けたビッグコッコ肉を串に刺し、直火で焼く。多少表面が焦げついてきたら火から上げ、生卵に浸して口に運ぶ。




 ……素晴らしい!!




 普通の卵とは比べ物にならないほど濃厚かつ自然な甘みがビッグコッコ肉に絡みつき、非常に美味だ。表面の焦げつきが生み出す微かな苦味を打ち消し……いや、寧ろこの苦味が、卵本来の甘みを更に引き立てているというべきか。いやぁ、実に美味い。先ほどとは違う意味で涙が出そうだ。


 ちなみに串は、レア度4のアイテム”コカトリスの太骨”を削り、即席で串ならぬ骨串を作ってみた。骨なら燃える心配もなく、持ち手が熱くなることもないからね。若者君(そうそう、先ほどフレンド登録をしたのだが、“ファルス”君というらしい)は初め、気が進まない様子だったが、一口食べたら後は止まらなかったよ。うむうむ、その調子で筋肉を育成してくれたまえ。




 さて、今日は色々あったが、実に良い1日だった。終わり良ければ全て良し……はっはっは。その言葉、まさに今の私たちにぴったりだね。





「あ、そういえばコカトリスの頭を回収してないね」



「それを言ったらあんた、いつまで裸なんだよ」




 これは失礼。すっかり忘れていたよ。はっはっは、締まらない終わりになってしまったね。







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