20.育成計画
久しぶりの更新です
時刻は現在16時。現実だと、23時半と言ったところだね。あれから1時間以上経つが、若者くんは頑張っているよ。
「ほら、あと17回だ。頑張りなさい」
「うるせぇ……言われなくても……くっ……頑張ってる……っての……」
うむ。まだまだ元気があるようで何よりだ。
最初こそ逃げ出そうとしていた若者くんだが、私の筋肉を前にしては逃亡などできるはずもない。即座に捕まえ、ついでに彼の上衣を脱がせてから、そこで腕立てを始めさせた。
それから休憩を挟みつつ、プランク、サイドプランク等を軽めに行い、全身をくまなく鍛えるためのコツを教えておく。
プランクは腹筋や背筋を鍛えるトレーニングの一種で、両肘とつま先の4カ所で体を支え、1分ほど浮かせるという簡単なものだ。休憩を挟みつつ、3〜4回行うと良い。
腹筋といえば、寝た状態から起き上がるクランチなどが有名だが、あれは腰を痛めやすいのでね。若者くんの将来を案じて、腰に優しいプランクを教える事にした。
ちなみにプランクのコツは、“体を板にする”ことだ。
物理的な話ではなく、板のように真っ直ぐにするという意味だね。そうすることによって、プランクは最大の効果を発揮する。視線も上げすぎず下げすぎず、腹筋には力を込めること。姿勢がつい反りがちになる若者くんにも、そう教え込んだよ。
次にサイドプランクだが、小学校の組み体操で行った“扇”、その両サイドの者を思い浮かべて貰えば大体は良いだろう。
違う箇所は、肘を着くか否かくらいだね。
肘を地に着き、体を一直線にしたまま腰を浮かす。このまま、姿勢を15秒ほど維持。休憩を挟みつつ、これを3回ほど行えば腹斜筋や腹筋を刺激できる。
サイドプランクのコツは、腰を真っ直ぐ浮かすことだね。若者くんのように腰が下がったり上がったりしないことが重要だ。もちろん、その点は若者くんにもしっかりと教育を済ませてあるさ。
そして現在、スクワット50回に至ると。
……さて、ここまで来て何だが、私はとても重大なことを失念していた。ここがゲームの中であるとかそういうことではない。
「おい……ぜぇ……終わったぞ……ぜぇ……そろそろ……帰らせろ……」
「駄目だ。私はまだ、とても大切なことを教えていない」
そう、それは。
「食事だ」
「……はっ?」
これだけ再現度の高いゲームだ。恐らく、栄養価も現実と似たようなものになっているだろう。
だが、ゲーム内にプロテインは無い。故に彼の肉体には、肝心のタンパク質がまるで足りていない。
彼に、ゲーム内での食生活を聞いてみたところ。
「パンみたいなやつと屋台の串焼きくらいしか食ってない」
彼の体重は58kg。1日に筋肉の再生に必要なタンパク質は体重1kgに対して2.2g……つまり、彼が筋肉を再生させるために必要なタンパク質はおよそ130g。そのような粗末な食事では、まるで足りないのだ。
うむ……どうすべきか。
私ともあろうものが、こんな初歩の初歩を失念していたとは情け無い。何か、多量にタンパク質を摂取できるもの……あ。
そういえば、あるね。
「はっはっは!すっかり失念していたよ。では早速、狩りに行こうじゃないか!」
「いや何処に……てか何を狩りに?あと上衣と武器返せ!!」
「いや、素手でも問題ない。むしろ、素手の方が望ましい」
「は?」
そう、その獲物とは。
「ビッグコッコの…………『卵』狩りだよ」
「……うん?」
はっはっは。このくだり2回目ですまないね。とりあえず、ついてきたまえ。
事情が飲み込めない様子の若者くんを引きずりながら、私は獲物を探した。
◇◇◇
東の草原を更に東へ進んで10分ほど。草丈も膝上まで達し始めた。
「ーーーー見つけたぞ」
草を掻き分け、いくらか斑らのある白色の物体を見つけた。数は3つ。うむ、鶏の卵に間違いはないね。
「では少年。私が1つ持つから、君は2つ運びなさい」
「いや、あんたの方が」
「はっはっは。これもトレーニングだと思いなさい。ほら、早くしないと親鶏が来るぞ?」
若者君の背中を叩き、卵を運ばせる。卵の直径は約60センチメートル。重さは5〜6㎏くらいだね。それが2つとなると、若者君には少し厳しいかな?
それにしても、大きい卵だ。ダチョウの卵の4倍近いね。ビッグコッコ君の半分ほどもあるよ。
はっはっは、親鶏の半分もある卵って……。
……何かが、おかしい。
「なぁ……この卵、やっぱりデカ過ぎね?」
「ゴグゥエェエェェェェエェ!!!!」
私と若者君の疑問に答えるように、怒号の如き咆哮が鳴り響いた。




