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筋肉が往くVRMMO  作者: 多摩季 熊
第一章:幕開
20/23

19.vs PK

 


 ◇【謎のPK視点】◇




 いきなりデケェのが喧嘩吹っかけてきやがった。はじめはビビったけど、別段大したことはねぇ。



 あのデカブツは全身ほぼ初心者装備。上衣は多少良さげなものを着ているが、残りはカスだ。今まで狩ってきたヤツと大差ねえ。



 徐々に追い詰めていって、血祭りにあげるだけだぜ。



「はっ……テメェが泣き喚くサマを見るのが楽しみだなッ!!」



 そう言い放って、デカブツを迎え撃つ。あいつ、図体の割に凄まじく速ぇ。流石に筋肉達磨みてえな身体してるだけはある。



 だが、その程度じゃ俺には追い付ねえ。



『速度中強化』と『疾風』のスキルに加え、『速度微強化』が付与された靴まで装備してる俺の速さがあれば、最前線のプレイヤーにも勝てる。

 現に昨日、一人仕留めたしな。



 余裕でデカブツの攻撃を躱……したはずが、俺は3メートル以上吹き飛んだ。



 まさか、地面ごと俺を吹き飛ばすなんて……威力ありすぎんだろマジで。冗談はそのデカイ身体だけにしとけや。



 ……ッチ。しかも、こっちが態勢を立て直す前に追撃してきやがった。

 大剣がすげえ勢いで飛んでくる。



「邪魔、なんだよッ!!」



 不恰好だが、右手のダガーを大剣にぶち当てる。お陰でダガーは木っ端微塵だが、大剣の軌道は逸らした。



 これでデカブツは丸腰に……はっ!?あいつ馬鹿か!!??



 なんで素手で突っ込んで来るんだよ……まあ良い。それなら首を斬りとばすだけだ。



 ーーーー短剣武技【首刈り】





「むぅん!!」




「……はっ?」




 俺のダガーは、デカブツの首の皮一枚すら斬れずに弾かれた。頭が真っ白になる。



 何故切れない?何故弾かれた?いったい何が……どうしてーーーー



 そこまで考えたとき、脳天に衝撃を感じて、俺の意識は途絶えた。






 ◇◇◇






 ふぅ、危なかったね。【不動硬化】が無かったら、いくら私の首といえども斬り飛ばされていただろう。



 さて、かなり強めに殴ってしまった若者は無事だろうか……うむ、無事みたいだね。良かった良かっ……。



 否、良くはない。



 この若者は、人の心を弄んだ。仮想空間とはいえ、人の命を弄んだのだ。であらば、しかるべき罰を与えるべきである。だが……。



「ううむ……どうしたものか」



 実は、そこまで考えていなくてね。はっはっは。



 とりあえず食事でも摂りながら、彼が起きるのを待つとしよう。







 そして30分ほど経った頃、彼が目覚めた。



「あー……いてて。やっぱ痛覚ONはキツいわ……ってあれ?何で俺まだ草原に……」



「やあ、少年。目が覚めたようだね」



 キョロキョロと辺りを見回していた若者に、後ろから声をかける。すると若者はこちらを向き、固まった。



 ちなみに私は今、食後の運動がてら『破装』を発動中である。アーツの効果によるものか、妙に艶のある筋肉は陽光に照らされ、いつも以上に素晴らしい。よって、彼が私の筋肉に見惚れてしまうのは仕方ないことだ。



 それにしても、漫画のような固まり方だね。目を大きく見開き、顎が外れんばかりに開口する若者……うむ、話を戻そう。



「さて、少年。君は自分のしたことを理解しているね?」



 この言葉で、若者は正気に戻ったようだ。舌打ちをし、あからさまに嫌そうな顔をする。



「ちっ……()るならさっさと殺れよ。この筋肉達磨め」



「はっはっは、褒め言葉をありがとう。いや、そうではないさ。殺そうと思っていたなら君が起きるまで待つわけないだろう?」



「……じゃあ何だ。目的は金か?装備か?言っとくけど、テメェにくれてやるのなんて微塵も……」



「そうではない」



 どうやら、彼は自分のしでかしたことを理解していないらしい。全く、困ったものだ。



「君は人を殺めてしまった。現実でやれば、これは犯罪になる。分かっているね?」



「はっ……知るかよ。ここはゲームだ。何しようが俺の勝手だろうが。テメェに指図される謂れはねぇ」



「確かに、私がとやかく言う筋合いはないね。だが、目の前で人が殺されて、見て見ぬフリをすることなんてできないだろう?」



「……いや、だからこれは」



「たとえゲームでも、やってはいけないことがある!」



 つい、語気が荒くなってしまった。若者の目に、若干の怯えの色が混じる。


 これはいけない。私は、彼に恐怖を与えたいわけではないのだ。



「良いかい?ここに本当の死が無くとも、そこに存在する恐怖は本物だ。もしかしたら、君に殺されてしまった人は、二度とこのゲームができなくなるかもしれない。それを、君は望むのかい?」



「いや、別にそこまでしたいわけじゃ……。だいたい、そいつが辞めようが辞めなかろうが、そいつの自由だし」



「その『自由』を、君が奪うことになるかもしれない。君が与えた死によって、彼のゲームで遊ぶ自由が少なからず奪われたことになる。君は、自分の自由が他人に勝手に奪われたらどう思う?」



「……」



 言葉に詰まる若者。自分の行いを、少しは理解したのだろう。



 と、思っていたのだが。




「……この偽善者気取りの筋肉野郎め。謝れば良いんだろ、謝れば。どーもすいませんでしたー。許してくださいー」



「はっはっは……謝る相手が違うだろう?それに、私は君に謝ってほしいわけではない」



「じゃあ何すりゃ良いんだよ!!殺した奴に土下座して謝って金も装備もくれてやれってか!?何なんだよ!!テメェは俺に何をさせたいんだよ!!」



 ……残念ながら、彼は私の言ったことを全く理解していないらしい。だが、私は彼について少し分かったことがある。




 彼は恐らく、心が弱いのだ。




 であるならば、私が彼に望むことは一つ。





「鍛えなさい」




「………………はっ?」




「身体を限界まで鍛えなさい。君の細腕だと……まずは腕立て100回からだね」



「細腕……いや、てか何でいきなり……」



「それが、私が君に望むことだからだ」



「……」




 筋肉を鍛え、心身を強くする。ゲームでは真に筋肉を鍛えることはできないが、それでも良い。それが彼のためになると、私は信じている。




「……今すぐ?」



「もちろん、今すぐだ。言っておくが、逃げられるとは思わないことだ。私は、狙った獲物は逃がさないからね」




「……望むこと……獲物……」




 彼は暫し無言になり、急に顔を真っ青にしたかと思うと、逃亡を図る。



 がしかし、その辺りで調達した雑草をあらかじめ彼の足に巻きつけておいたので、すぐに転んだ。



 だから、逃げられると思うなと言ったのにね。はっはっは。



だが、やはり不安もあるだろう。なので私の筋肉を見せて安心させようと、『破装』を発動しながら笑顔で歩み寄る。




「まずは腕立て100回から。さっき寝てる間に触ったが、お腹は良い感じだったからね。腹筋は200くらいにしよう。安心しなさい、日が暮れる頃には解放するから」



「た、頼む!許してくれ!!い、いやだぁああああああ!!触るなああああああああ!!!」




 はっはっは、元気でよろしい。


 これなら腕立て、150回はいけそうだね。





 元気な若者くんの心身を鍛える仕事が始まった。






何を勘違いしたんでしょうねPK君(遠い目)


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