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筋肉が往くVRMMO  作者: 多摩季 熊
第一章:幕開
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13.小鬼の支配者

 




 人間たちに『東の草原』と呼ばれる草原の中でも、森に最も近い場所。鬱蒼と茂る草むらの中に、彼らは隠れていた。「グキャグキャキャ」と、彼ら以外には意味のわからない耳障りな音を響かせながら。




『ニンゲン、ユルサナイ』



『オンナ、奪ワレタ。仲間、コロサレタ』



『アイツ、コロス』



『コロソウ』




 彼らは酷く憤慨していた。

 それもそのはず。獲物と仲間、その両方を同時に失ったからだ。

 人間の幼児並みの知能しか持たない彼らとて、心はある。仲間を失った悲しみと、獲物を奪われた怒りとが混ざり合い、彼らに復讐の感情をもたらした。




『デモ、アイツ強イ』



『オレタチ、勝テナイ』



『ドウスル』



『ドウシヨウ』




 だが、相手はたった1人で仲間を何匹も殺すほどの力を持っている。生き残った仲間は、たったの10匹。彼らだけ(・・)では、どうしようもなかった。




『ソウダ。ボス、呼ベバイイ』



『ボス、強イ。アイツデモ、勝テナイ』



『ボス、近クニイル。ミンナデ行ク』



『ボス居レバ、アイツ怖クナイ』




 故に、彼らは(ボス)に頼ることにした。『東の草原』のゴブリンを統べる者。ゴブリンという枠を超越した、彼らの支配者に。







◇◇◇







 ようやく、私はゴブリンを倒した場所に戻ってきた。あちこちに散らばる、薄緑色の死屍累々。数は20を下らないだろう。



 だが、私が見つけた集団には30以上のゴブリンが居た。まだ、10匹ほどが何処かに潜んでいるということだ。



 ……うむ。とりあえず、耳を取っておこうか。



 ひたすらに耳を剥ぐ作業を行う。




【『解体』のスキルレベルがアップしました】




 おや、スキルレベルが上がったね。

 今までよりもほんの少し、解体の線が見えやすくなった気がする。



 耳を剥ぎ終えたら、彼らの亡骸を一匹ずつ地に埋めていく。いくら許せないとはいえ、私は命を奪った相手に対する最低限の敬意は持ち合わせているのでね。



 一瞬だけの黙祷を済ませ、森の方へ進む。何となくだが、逃げたゴブリンたちはこちらに居る気がするのだ。



 その予感は見事に当たった。ただし、居たのはゴブリンたちだけではなかったがね。




「よウ、ニンゲン。俺の子分を可愛ガッテくれたらしイナ」




 ゴブリンたちの先頭に立っていたのは、なんとも素晴らしい肉体をした生物だった。



 ゴブリンたちと同じ薄緑色の皮膚をしているが、見事に割れた腹筋と分厚い胸板はそれが気にならないほどに整っていて、美しい。広い肩幅と若干くびれた腹部のラインとが形成する見事な逆三角形が、私より頭1つほど小さい彼の全身の筋肉の美しさを更に強調している。



 実に素晴らしい筋肉だ。


 敵とは分かっていながらも、つい話しかけてしまった。



「素晴らしい筋肉だ!自然に鍛えあげられただけではなく、自己鍛錬にもしっかりと励んでいるのが分かる。実に素晴らしい!!」



「え?あー、オ、おウ?」



 あまり流暢とはいえないが、人語を話せるらしいゴブリン君は、困惑したようにそう返事した。ふむ……体格のみならず、知能もゴブリンよりも優れているらしい。

 敵であることが、非常に残念でならない。



「ところで、君がゴブリンたちの長……ということで良いのかな?」



「ンン??もしかシテ、最初のヤツ聞イテなかっタのか??……まァ良い。そうダ、俺ガーーーー」



「なら、死んでもらおう」




 私は、君たちを許さないと決めたからね。



 聞き終える前に全力の右ストレートを放つ。鼻をへし折り、前歯も何本か折った感触がある。

 立て続けに、顔、首、鳩尾を殴打。奴がバランスを崩した隙を突き、右の脇腹に蹴りを入れる……が、どうやら防がれたらしい。




「アぁー……いてェナ。鼻ガ折れチまっタ……おイお前、ニンゲンにしてさなかなカやるな」




 凄まじい握力で私の足を握りつつ、彼は言った。




「……君も、ゴブリンにしてはなかなかやるじゃないか」




 私が軽口を叩き返すと、彼が震え始めた。そして不敵に笑ってこちらを見る。




「まあナ。あと……俺は、たダのゴブリンじゃネエ。ゴブリンを越えシ者……『ホブ・ゴブリン』ダ!!」




 叫ぶと同時に、空いた右腕による一撃を繰り出すホブ・ゴブリン君。足を掴まれ、身動きの取れない私は、右頬に痛打を受けた。



 連続して顔に打撃を浴びる。両腕を交差して防いでいるが、その一撃一撃が確実に私を追い詰めていた。





 ……それなのに、私の気分は高揚している。




 最初は怒りもあった。だが今は、その全てを忘れることにした。

 今の私を動かしているのは、男としての矜持のみ。




「むぅん!!」




『渾撃』と『鉄頭』を乗せた頭突きをお見舞いして足の拘束を無理やり振り払い、その反動を利用して距離を取る。



 深く深呼吸をして、私は告げた。







「私の誇りと筋肉にかけて宣言しよう。私は必ず、君に勝つ」




「望ムところダ、ニンゲン」







 彼の言葉を聞き終えるや否や、私は全力で地を蹴った。














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